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83.人間以外の異種族ってファンタジー度高いから好き。

 本格的に春となり、雑貨屋の業務も少しずつ忙しくなってきた。

 活動的になってきた村人達の中には、仕事を本格的に始めるために、道具を一新する者がそれなりにいるからだ。


 辺境の田舎だから物持ちはいい人ばかりだが、だからといって頑なに新品を拒み続けるわけではない。この村の者達は魔石産業でお金持ちだから、お金で解決できるところは解決するのだ。

 そういうわけで、今日も朝からお店を開けて、客の来訪を待つ態勢となる。


 と、早速、店のドアが開き、ベルが鳴り響いた。


「いらっしゃーい、おっ、村長さんじゃん」


「おう、なぎっちゃ。村の外から客だ!」


 入口のドアから、村長さんが大声でこちらに向けて言った。


「そりゃ珍しい。何日もかけて行商に来たのかな?」


「いや、そういうんじゃねえな。驚くなよ? さ、入ってくだせえ」


 村長さんにうながされて、誰かが一人、入店してくる。

 それは、身長二メートルほどの長身の人。いや、人なのか……? その人物は、明らかに人ではない頭部をしていた。

 その人物の頭部は、子供の頃に図鑑で読んだ恐竜に似た、厳つい姿。


 肌の色も緑色で、その肌の上にこのあたりでは見ないデザインのスタイリッシュな服を身にまとっている。

 よく見ると、臀部から太い尻尾まで生えている。


 そう、この人物は、明らかに人類ではなかった。

 あえて言うなら……直立二足歩行になったトカゲ。すなわち……リザードマン!

 そう、ファンタジーの定番、リザードマンが私の店に来たのだ!


「そ、村長さん!」


「おう、なぎっちゃ。びっくりしたろう」


「したよ。その人、リザードマン!?」


「りざーどまん?」


「そういう種族名があるんだけど……」


「あいにくと、俺は異種族に関しては、巨人と妖精しか知らねえ」


 村長さんはそう言って、背後に振り返る。

 すると、推定リザードマンは、口元の形を変えて、言葉を放つ。


「そうだな。私の種族をあえて言うならば……爬虫人類といったところか」


 独特の低音でそんなことを彼は言った。


 ……爬虫人類! やっぱりリザードマンじゃん!

 うわー、ここに来て特大のファンタジー要素が来たなー! しかも、村長さんが言うには、巨人と妖精もこの世界にはいるってことじゃん。なかなかやるじゃないか、この世界も。


 私がそうワクワクに身をまかせていると、村長さんと爬虫人類さんは、店のカウンターの前に来た。


「で、このお方は、わざわざなぎっちゃの評判を聞いてこの村に来たらしい。神の一柱らしいんで、対応はなぎっちゃに任せるぜ」


 村長さんはそう言って、カウンターの脇によけた。

 おう、丸投げかよー。しかし、この爬虫人類さん、神なのか。もしかしたら、獣神ってやつなのかな? そういう種族なんじゃなくて、この世界の爬虫類に天上界の創世の力が宿った存在。

 もしそうなると、この世界にはリザードマンという種族は、彼以外いないことになってしまうが……。


「私は名をアププと言う。ここへはマルドゥーク神からの紹介で来た」


「ああ、マルドゥークから。それなら、歓迎するよ」


「うむ。物売りをしているとのことだが、ぜひとも購入したい物があるのだ」


 おー、雑貨屋の客かぁ。獣神にも評判が届く私の店って、すごくね?

 などと内心で自画自賛していると、リザードマンのアププは、さらに言葉を続けた。


「物探しの神器を譲ってほしい」


 ……神器? え、神器を買いたいの?

 確かに、物探しの神器なら、以前、天空神オニャンコポンをぶちのめした時に確保してあるけど……。


「えーと、これかな?」


 私はアイテム欄をその場で開いて、目的の神器を取り出してみせた。

 いかにも占い師が使っていそうな、綺麗な水晶玉。


「神器『鷹の目』だよ」


「手に取ってみても?」


「いいよー」


 神器という物は、手に取ることで天上界、すなわち地球でどのような物質だったのかを探ることができる。

 つまり、神器であるかどうかが触れただけで判るのだ。


「ふむ、間違いなく神器だな」


「うん。じゃ、値段交渉といこうか。私としては、便利な神器だからそれなりの値段を付けたいところだけど……」


 拾い物だが、それはそれ。ちゃんと私の所有物として他の神からも認められているんだから、安値をつけるつもりはないよ。


「そうだな。対価は神器五つでどうだ」


「そんなに」


 一瞬で付いたあまりの高値に、私は呆然とした。


「いずれも戦闘用で攻撃用の神器だ」


「そりゃまた、物騒だなぁ」


 神器ってかなりなんでもありだから、貴重な創世の力を戦いのためだけに変換しちゃうのは勿体なく感じる。いやまあ、私がこれまで目にした神器の半数近くが、戦闘用なんだけどね。

 私のそんな内心を知ってか知らでか、アププは腰に下げたカバンから、何かを取り出していく。数は五つ。おそらくこれが神器なのだろう。


「いにしえの大戦で使われた神器だ。このような物は、処分できるに越したことはない」


「確かに、私なら神器を破壊して別の物に変換することも可能だけど……マルドゥークから聞いた?」


「ああ。素晴らしい力だと個人的には思う」


「そっか」


 私は物品の詳細を調べる≪鑑定≫の技能で五つのアイテムを調べる。

 いずれも、間違いなく戦闘用の神器だった。

 はー、物騒だけど、拾い物の神器が五倍の価値に変わるなら、取引をしない理由がないね。


「じゃ、交渉成立ってことで」


「感謝する」


 アププはそう言って、水晶玉を大事そうに緑肌の両手でつかむと、腰のカバンにしっかりとしまった。

 ちなみにアププの両手の指の本数は、左右それぞれ五本ずつだった。




◆◇◆◇◆




 アププはその後、お茶を一杯飲んでから村長さんと一緒に店を出ていった。

 お茶の最中の雑談によると、彼が今回、物探しの神器を購入した理由は、欲しい神器が一つあるかららしい。神器を探すために神器を探すみたいな、回りくどいことをしているわけだね。

 最終的な目的の神器までは聞き出せなかったけれど、無事に神器を手に入れられるよう祈っておいてあげようか。彼も私も祈られるがわだけどね!


 と、彼を見送ってからすぐ、店のドアが再び開いた。

 今日は千客万来だな、と思って入口を見ると、そこに立っていたのは獣神のベヒモスだった。


 朝から珍しいなー、なんて思っていると、彼はスタスタとカウンターに歩いてきて、言った。


「先ほどのあの神は何者だ?」


「ん? ヤモリくんの知らない人? マルドゥークの紹介で来た人だけど」


「あの者、天上神だぞ」


 ベヒモスの言葉に、私は目をパチクリと瞬かせた。天上神。正式には神を超えた神、または超神と言い、天上界、すなわち地球からこの世界に落ちてきた生物のことを言う。


「え、本当に?」


「ああ、あの者から感じ取れた強大な力は、確実にそうだ」


 ベヒモスはそう言って、カウンターの横に設置されているテーブル席に座りこむ。


「この世に存在する天上神は、そなたと我を含めて四人のはずだが、その全員を我は知っている。だが、あの者は初めて見る。新しく生まれた天上神なのか……」


「いや、物探しの神器と交換で神器を置いていったんだけどさ、いにしえの大戦で使われた神器だとか言っていたから、古参の神様じゃないかな」


 私は、アイテム欄にしまっていた神器を五つ取り出して、カウンターの上に置いてみせた。


「いにしえの大戦? 九百年前の戦いか。あのような神はどちらの陣営にも見かけなかったが」


「これがその神器だけど」


 私は、カウンターの上の神器を手で指し示す。


「見覚えのない神器だな……」


「つまり、いにしえの大戦は九百年前の戦いじゃない?」


「そうなるのだろうな。そして、我が知る限り神器が使われた大規模な戦いなど、九百年前の一度きりだ」


「となると、ヤモリくんがこの世界に来る前の戦いとか?」


「我は人が未だ石槍を使っていた時代にこの世界へ降臨した。それよりも前となると、人の神は生まれておらぬ。そして、最初に神器という概念を作り出したのは人の神だ」


 うーん、どういうことだろう。

 あ、もしかしたら……。


「あの人、人間の神じゃないけど人語をしゃべる高度な知性があるみたいだし、人じゃなくても神器は生み出せたんじゃないかな。それで、人類誕生以前に獣神達をそれで打ち負かしたとか?」


「ふむ。だが、これらの神器はあの者が一人で作りあげたのか? 占いの力でもないとそう都合よく、天上界から落ちてきた創世の力になど出会えぬものだが」


「私みたいに、天上界から落ちてきたときに大量にあまった創世の力で、この神器を作ったとか……」


「理には適っておる。だが、これらの神器は一人の神が作り出したとは思えぬ意匠の違いがあるな」


 確かに……五つの神器は、それぞれデザインの傾向がバラバラだ。縄文土器と弥生土器を並べて置いたような、ハッキリとした違いが見て取れる。

 やっぱり、人類誕生以前のいにしえに、神器を作れる獣神達の間で戦いがあったということ……?


「まあ、謎の人物ってことで」


 解らないものは解らないので、私はそう言葉を締めた。


「むう、気になるな。どれ、追いかけてみるか」


 ベヒモスが席から立ち上がり、入口に顔を向けたその瞬間、私が所有する神器のAIであるイヴが、音声を発した。


『対象人物、すでにこの村から遠く離れています』


「なに?」


『高速で飛行する乗り物に乗っているようです』


「そのような神器も持っていたのか……」


 ベヒモスが驚き顔でつぶやく。うーむ、戦闘用の神器だけじゃなく、飛行用神器もあるとか、他にもいろいろ持っていそうな人だなぁ。


『いえ、創世の力の反応がないため、この乗り物は神器ではないようです』


 となると、魔道具かな? 魔法都市関係の人なのかなぁ? でも、魔法都市の人からリザードマンの話なんて聞いたことないね。


「神器ではない空を飛ぶ乗り物だと……? 本当に何者なのだ」


 ベヒモスのその言葉に、私は同意するしかなかった。

 まったく、謎は深まるばかりである。

 まあ、私に対するアププの用事は終わったから、再会することもないだろうけどね。

 とりあえず、世界は謎に満ちているってことで。人類誕生以前に古代魔法文明があったとかだと、ロマンがあるなぁ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ホモサピエンスの前の人類に爬虫人類がいたとか? あるいは宇宙から来た神?
[良い点] 更新乙い [一言] ワニ、トカゲ、ドラゴン、色々な顔があるけど、どんな顔だったのやら さて、レプティリアンが高速UFOでやってきたとか、それなんてムー?
[一言] とりあえず監視は続行かな?
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