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7.義理と人情とか言っていたらそのうち痛い目見そう。

 刑の執行の場から逃げだそうとして、素手で村の戦士達を叩きのめしていく罪人の少女。

 原因は、私が与えた経験値チケットで少女がレベルアップしてしまったことにある。

 仕方ない、とりあえず――


「≪手加減攻撃≫≪ショックウェーブ≫」


「ぐえー!」


 魔法で黙っていてもらう。

 衝撃波の魔法に吹き飛ばされた少女は、血反吐を吐いて吹き飛んだ。

 ≪手加減攻撃≫の技能を使ったうえに、魔法に注ぎ込むMP(マジックポイント)も絞りに絞ったんだから、死にはしないだろう。


「≪魔法永続化≫≪スレイヴチェイン≫」


 対象の動作を縛る魔法をかけて、捕縛完了。そして、周囲が死屍累々なので回復魔法だ。


「≪エリアヒーリング≫」


 広範囲をカバーする無差別回復魔法の効果で、倒れていた戦士達や村長さんが身を起こした。


「くっ……見事にやられたぜ。だが、これが魔道具の力か。すげえじゃねえか」


 村長さんが背中をさすりながらそう言う。

 そして、魔法の鎖に捕らわれている少女を一瞥し、さらに私の方を見た。


「なあ、なぎっちゃ。あの魔道具を売ってくれるって本当か?」


 あの魔道具。経験値チケットのことだろう。


「うん。有限だけど、売るだけあるよ。ただし、私の目の前で使うのが条件だけどね。チケットを村の外には持ち出させない。人が極端に強くなる危険性は解ってくれるよね?」


「おう。この力があれば、魔獣の森での被害もだいぶ抑えられそうだぜ! がはは!」


 まあ、強くなるであろう村人達の管理は村長さんに任せれば、悪いようにはしないかな。

 さて、それよりも少女の方だ。


「みじめですわ。みじめですわ」


「ねえ君」


「ひゃ、ひゃい!」


 私が話しかけると、少女は驚いて飛び跳ねようとした。まあ、魔法の鎖で捕らわれているので動けないのだが。


「魔道具使えば無罪放免だっていうのに、暴れて被害を出したね。これは、もう一回実験台になってもらわなきゃ駄目だよね?」


「出来心ですわ! 出来心ですわ!」


「そんな悪い子には、お仕置きとして、これだ」


 私は倉庫の中からホワイトホエール号で買ったテーブルと椅子を取り出し、広間に設置。

 そして、さらに倉庫の中から一つのアイテムを取りだして、少女の前に差し出した。


「罰として、これを食べてもらうよ」


 取りだしたアイテムは、ちゃんこ鍋。MMORPGで作れるステータスアップ料理だ。


「これは、食べると三十分の間、身体の耐久力が上がるという神器由来の料理だよ」


「美味しそうですわ……いい匂いですわ……」


「これもさっきの魔道具と同じで、私以外が食べるとどんな不都合が起きるか判らない。食べる?」


 私は両手に持ったちゃんこ鍋をテーブルの上に載せながらそう尋ねた。食器として、木のスプーンもそえておく。


「食べますわー!」


 テーブルに飛びつこうとする少女だが、魔法の鎖のせいで動けない。


「んじゃ、同意したってことで。≪ディスペルマジック≫」


 私が魔法の鎖を破棄してあげると、よほどお腹がすいていたのか、少女はテーブルにすぐさま駆け寄り、座ると同時にスプーンを手に取ると、元貴族令嬢とは思えない勢いでちゃんこ鍋を食べ始めた。


「熱いですわ! 熱いですわ! でも美味しいですわ!」


「そりゃあけっこう」


 うんうん、と私がうなずいていると、村長さんがこちらに近づいてきて話しかけてきた。


「なあ、ただの塩野菜スープにしてはめっちゃ美味そうなんだが……あの料理も商品か?」


「あー、ちゃんこ鍋はねぇ、在庫あんまりないんだよね」


 なにせ、耐久力を上げる料理だ。耐久力は、後衛である大賢者にはあまり必要の無いステータスだった。


「そうか……」


「神器由来の力が適用されるかは判らないけど、材料集まったら作ってあげるよ。普段、食事を用意してくれているお礼に」


「そうか……!」


 MMORPGのキャラクターとして生産システムも使えるっぽいので、レシピが登録されている料理なら作れるはずだ。この世界の野菜等が生産システムに弾かれないのかは、試していないのだが。

 と、そんな会話を村長さんとしたら、周囲の顔役や戦士達の視線が私に集まった。

 ……しょうがないなぁ。


「材料集めてくるから、村を挙げて今度ちゃんこ鍋パーティーでもしようか」


「うおー!」


「宴だー!」


「なぎっちゃちゃんの歓迎の宴じゃー!」


 歓迎会! いいね!

 でも、私の歓迎の宴なのに、料理を用意するのは私なのはいったいどういうことなのか……!




◆◇◆◇◆




 その日の夜、村長宅の私に割り当てられた部屋で、私はホワイトホエール号のイヴと会話をしていた。


「しかし、この世界の住人にはゲームシステムが適用されていないっていうのに、経験値チケットとかの効果があるんだねぇ」


 思い起こすのは、少女ソフィアがレベルアップして出たMMORPGのエフェクトだ。

 私がレベルアップしてエフェクトが出るのは解るのだが、まさかこの世界の住民もレベルアップしてあのエフェクトが出るとは。


『マスターには一見、ゲームシステムが働いているように見えます』


 私の言葉を受けて、イヴが何やら説明しだす。


『ですが実際の所、地球から落ちてきたエネルギー……創世の力で全てが成り立っています。この世界に広く存在する力ですので、現地の人々には親和性が高いのでしょう』


「ああそっか。私はゲームキャラになったんじゃなくて、あくまでゲームキャラになりきっているだけなんだね」


『はい。今のマスターはあくまで、ナギサ様の記憶と、パソコンである私にインストールされていたゲームのデータの二つを参考に作り出された、ゲームキャラクターを模した存在です。ゲームキャラクターそのものではありません』


 私はゲームの世界にトリップしたわけではない。

 地球より下にある世界に落ちて、思いつきで頭の中にあるゲームのキャラクターを肉体にしただけなのだ。ただ、その肉体にはホワイトホエール号の前身となったパソコンにインストールされていた、MMORPGのゲームクライアントのデータも使用されているらしい。


『本当はゲーム内の倉庫に入っていたのにもかかわらず、マスターの持つ倉庫には入っていないというアイテムが存在する可能性も高いです。マスターの脳内から完全に存在を忘れられていた場合、そうなります』


「あー、そうなるのかー。MMORPGの個人データは、ローカルじゃなくてサーバ側に保存だからね」


 大賢者の魔法データとか、アイテムのアイコンデータとかは、ローカルのゲームクライアントに入っているだろう。でも、個人のセーブデータはオンラインゲームなのでパソコンの中には入っていないのだ。


『一応、私達は今も地球となんらかの繋がりが存在するようなのですが、ゲームサーバと繋がっているかは不明です。一方、ホワイトホエール号の設備は完璧にゲームを再現してあります』


 ホワイトホエール号のもとになったゲームは、オンラインゲームではない、買いきりのゲームだ。ゲームデータもセーブデータも全部パソコンの中に入っていた。


「ゲームにないアイテムをショップに追加してくれても、いいんよ?」


『マスターが余らせている、地球で着ていた服の分と箸の分のエネルギーをこちらに回してくだされば、可能ですが?』


「あー、このエネルギーは、せっかくだから取っておくよ。いつ何が必要になるか判らないからね」


 私はそう言って、ずっと手に持っていた酒杯から、ウイスキーを口の中に流し込んだ。この酒杯は、無限に酒の湧く神器である。


「それにしても、ソフィアちゃんが村に受け入れられてよかったねえ」


 罪人の少女ソフィアちゃんは、魔道具の実験台となることで罪をつぐなったとして解放され、この開拓村に住むこととなった。


「役割が戦士というのが、ちょっと不安だけど……」


『レベルアップして常人の力を超えたのです。戦士が相応しいでしょう』


「そうだけどさー。それにしても、他の町で罪人になった人を匿って大丈夫なのかな?」


『魔獣の森への追放刑は、領地から永続的に追放する刑ではなく、魔獣の森から自力で脱出することで罪の清算とする刑だそうです』


「ならよかった。さて、明日は経験値チケット販売かー。村長さんかジョゼットに丸投げできないかなぁ」


『外に持ち出されたら危険と判断したのはマスターです。最後まで見届けてください』


 はー、しょうがないか。

 まあ、村の戦士達全員がチケットを買うとなると、結構な量の資財が集まるね。

 資材の半数はホワイトホエール号のショップで売るとして、ショップで何買うかなー。


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― 新着の感想 ―
[一言] ソフィアちゃん脳筋プレイしそうだよなぁ
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