69.東京出身なので、雪国の冬には憧れる。
ある日の朝、やけに寒いなと思ってガラス窓から外を見ると、外が一面真っ白になっていた。雪が積もったのだ。いよいよ冬到来だね。
私はゲーム倉庫の中を漁って冬用のアバターコスチュームを探し、『天女の羽衣』にダッフルコートをセットすると、外に繰り出した。
うん、五センチメートルくらい積もっているね。こりゃあ、冬用のブーツもいるなぁ。
私は毛皮のブーツを履いて玄関から雪の上へと足を踏み出し、新雪に足跡を付けていく。
「うーん、いいね!」
私は関東生まれの関東育ちだから、こういう雪国での生活って憧れていたんだよね。
よし、雪だるま作ろう!
私は手袋をはめ、雪玉を作ると、それを転がし始めた。
ころころ、ころころ、ころころりん。あはは! たのしー!
と、一人ではしゃいでいると、隣の村長さん宅から一家全員が出てきた。
手には、それぞれ木のスコップを持っている。
「おはようございまーす!」
私がそう挨拶すると、村長さん一家がそれぞれ挨拶を返してきた。
「なんだぁ? なぎっちゃ、大玉なんか作って。遊んでいるのか?」
村長さんが、家の前の雪かきを始めながら、そう話しかけてくる。
「うん、大きな雪玉を二つ重ねて雪だるま……雪男を作るんだよ」
「子供みてえなことしてんな……」
「私は雪がほとんど積もらない地方出身なんだから、初雪くらい楽しませてよ」
「それは構わねえが、自分の家の前の除雪はしっかり頼むぞ。村人の義務だからな」
「おっけー。木工のおっちゃんから買い取ったスコップを一個、自分用にするよ」
私は村の雑貨屋なので、冬に必要な道具を村の職人から買い取って店に並べてある。
店に入ってスコップを一個手に取ると、私はそれを持って店の前の雪かきを始めた。雪だるま作りは中断だ。雪は広場にたんまりあるから、雪だるまは後でそっちの方で作ればいいからね。
私が全力で楽しみながら雪かきしていると、正面から憂鬱そうな表情のマリオンが、スコップで雪をかきわけながら近づいてくる。
ため息なんて吐いて、何事だろう。
「どうしたのさ」
私が話しかけると、マリオンはだるそうに除雪の手を止めて言う。
「魔法都市じゃ雪なんて降らなかったのに、これから毎年の除雪作業が再開すると思うと、だるいわ……」
「除雪楽しいじゃん」
「そう言っていられるのは、最初の数日だけよ」
マリオンはそう言って、雪かきを再開させた。
うーん、まあ、確かにスコップでちまちま雪かきは、毎日やるなら飽きてきそうだね。
あれ? そういえば……。
「マリオン達、なんであれ使っていないの?」
「……あれってなによ」
「スノーダンプ! って、この国の言葉でなんていうんだろう」
スノーダンプ。トラクターショベルの先端部分を人サイズにしたものに取っ手が付いた、除雪道具だ。
取っ手を両手で押して雪の上を滑らせて、大量の雪を運ぶ道具である。
「すのーだんぷ……また天上界の物品?」
「そうだね。巨大なスコップみたいなもの」
「巨大なスコップって、どうやって手に持つのよ」
「取っ手がちゃんとあるんだよ。うーん、言葉で表すより、さっさと作って見せた方が早いね。木工のおっちゃんのところ行ってくる!」
私はスコップをその場に放り投げて、木工房へと向けて走り出した。
「せわしないわねー」
後ろからマリオンが何か言っているが、私の大発明で除雪のわずらわしさから解放されるんだぞ? ふふふ、今から感謝の言葉を用意しておくがいいさ。
そして、私は雪が積もった村の道を進み、木工房の前に到着する。
すると、そこでは木工職人のおっちゃんが、奥さんと子供の三人で除雪をしている様子が見えた。
「おっちゃん! 除雪道具を作るよ!」
「う、うん? なぎっちゃですか。すみませんが除雪が終わるまで営業停止です」
「いや、その除雪をするための道具を作るんだって。簡単な構造だから、完成品を使って除雪をするといいよ」
「むっ、それはいいですね。よし、工房を開けますよ」
それから私は工房の中に案内され、おっちゃんに設計図を描くよう言われる。
「設計図を描くほど精巧な物でもないんだけどさー」
そう言いながら、私は金属ペンのペン先にインクを浸けて、概略図を描いていく。
それは、側面を抜いた四角い箱に取っ手を付けた物。原始的なスノーダンプって感じの図だ。
「なるほど。これは雪の上を押して滑らせるのですね? ソリと似たようなことをするなら、底面を歪曲させたほうがいいですよ」
「おっ、確かにその方が滑りやすそうだね」
「取っ手もここを補強して……」
やがて、おっちゃんの修正により、より洗練された木製スノーダンプの図が完成した。
「じゃあ作っていくよ。まずは三つ。おっちゃんちと村長さんち、そして私の分だね」
「はい、手伝います」
そして、この道、数十年のおっちゃんを助手に、私はゲームの木工スキルで後押しされた木材加工をしていく。
レシピ未登録なのでゲームシステムで一瞬のうちに完成とはいかないが、それでも木工スキルは技術的なサポートをしてくれるのだ。
ちなみにおっちゃんは開拓村の前身である傭兵団出身ではなく、村長さんが村を作る際に他所からスカウトしてきた人材の一人だ。村の職人は、そういう人達が多いね。
「よし、完成!」
「早速試しますよ!」
と、意気込んだのはいいものの、すでに木工房の前は奥さんと子供の手によって除雪が完了していた。
仕方なく私達は、奥さんにあきれるような目で見られながら、道から外れた場所でスノーダンプの動作試験を終えた。
使用感はバッチリで、後は水を弾く塗料を塗るかどうかをおっちゃんと話し合い、木工房の新製品として急遽、増産することが決まった。
おっちゃん曰く、雪が降る地方ならどこへ持っていっても売れるとのことで、冬の間に町へ行商しにいくことも視野に入れるべきと熱く語られたのだった。
うん、まあ、それだけ作れるなら売りにいくことは構わないけどさ……まずは村人に行き渡らせることを考えないとね。
◆◇◆◇◆
スノーダンプが完成して、村人に驚きを持って迎えられてから数日後。
何やら昨晩は強く吹雪いていたようなので、厚着して就寝したのだが、外はいったいどうなっているだろうか。
そう思って、コートとブーツを装着して外へと繰り出してみると……。
「な、なんじゃこりゃあ!」
雪が! 雪が腰のあたりまで積もっている!
どうしろと……どうしろというのだ、これは!?
「おーい、なぎっちゃ、無事かー?」
と、村長さんとマリオンが雪をかき分けてこちらへ向かってくるのが見えた。
「村長さん。これ、どうすればいいの?」
「どうもこうもねえよ。除雪するんだよ!」
「あー、はい……」
私は、仕方なしに家の中からスコップとスノーダンプを出して、除雪を始めた。
まずは広場の中心に向かってスコップで道を作り、その道を中心にしてスノーダンプで少しずつ雪を運んでいくが……。
「面倒臭い!」
私がそう叫ぶと、私の近くで除雪作業をしていたマリオンが言う。
「だから前に言ったでしょう。除雪はだるいって」
「あー、もう、火の魔法で融かしちゃいたい!」
「融けた雪があとで凍り付くから、絶対に駄目よ」
「うひー……。誰か私の代わりにやってくれないかなぁ」
「神様が除雪をさせられるって、何事って感じよね。神殿の神様達は、当然除雪は免除されているし」
しかし、私には手足のように使える信者などいないのである。魔法都市にいるカルト信者どもも、私がこの村に住んでいる以上役には立たない。
いや、ちょっと待てよ。人手なら、ある。
私は、倉庫の中に仕舞っていたゲームアイテムをその場で探し出し始めた。
えーと、あった。魔法習得書だ。
私はそれを取り出すと、その場で使用して新しい魔法を習得した。そして、早速その新魔法を使う。
「≪クリエイトゴーレム:アイスマン≫!」
すると、私の横に体高二メートルほどの氷でできたゴーレムが出現した。
「さあ、私の代わりに除雪しろー!」
ゴーレムの魔法は確かフレーバーテキストに、術者の意のままに動くって書いてあったはずだから、いけるでしょ。いけるよね。いけ!
「お、おっ、おお! ゴーレムがスノーダンプ使ってる!」
私は、命令通りに動き出したゴーレムを見て、その場で跳びはねるようにして喜んだ。
それを見て、マリオンが目をぱちくりさせながら言う。
「ゴーレムかぁ、いいわねー。飽食の学派の土ゴーレムは、単純な農作業しかできないのよね」
マリオンもゴーレムの魔法を使えるのか。
彼女は猫を使い魔にしているし、どうやらこの世界の魔法は使役系も充実しているようだ。
と、しばらく除雪を続けているうちに、魔法の効果時間が切れてゴーレムが消滅した。
動作は良好だったので、私は今度こそ≪魔法永続化≫の技能を使ってゴーレムを呼び出し、スノーダンプを持たせて除雪を行なわせた。
腰まであった雪は見る見るうちに広場の中央へ押しやられ、ついでに村長さん宅の方まで除雪を手伝わせた。
村長さんは私にお礼を述べ、さらに言った。
「ゴーレムか。怪我を気にしなくていいから、屋根の雪下ろしによさそうだな」
「いやいや、氷の塊だよ。屋根抜けるよ」
「駄目か。たまに屋根から落ちて怪我する奴がいるんだよな」
「そこはほら、経験値チケットで『Lv.8』になった生命力でどうにかしてよ」
そんなことを言いつつ、私は自分の家の屋根を見上げた。
屋根の上に登って雪下ろし……ちょっと楽しそうだ。




