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なぎっちゃの異世界満喫生活~ネトゲキャラになって開拓村で自由気ままに過ごします~  作者: Leni
第三章 なぎっちゃと魔法使い

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59.唐突な学園編突入はネット小説がエタる予兆の一つ。

 今日は、七日の間に二日だけ設定している雑貨屋の定休日。

 ふと餃子が食べたくなったのでヘスティアに作らせてみようと、私は神殿へと向かった。

 神殿の入口すぐにある礼拝堂に入ると、なにやら子供達が集まっているのが見えた。


 神殿に子供達か。これはあれだね、勉強の日だ。

 この村では、子供達に最低限の読み書きと計算を教えている。村長さんの方針だ。教師役は神官さんか村長さんの奥さんがいつもやっていたのだが、どうやら今日は違うようだった。教鞭を執っているのは、魔法使いのマリオンだ。


 マリオンは、大きな木の板に紙を貼り合わせ、そこに書かれた数字を子供達に読ませている。あの紙は、私の雑貨屋で売っている物だね。昨日、マリオンが大量買いしていった。

 紙に書かれている数字は、どれも一桁のかけ算だ。というかあれ、九九(くく)じゃん。

 なるほど、マリオンは子供に九九を暗記させているのか。


 子供達は年齢がバラバラだが、九九はただの暗記だから、年齢による学習の進み具合を考慮しなくてもいい。マリオン、賢いな。

 マリオンが子供達に九九を一斉に唱えさせ、そして一人ずつ一の段から暗記させていった。

 よく見ると、子供達の手元には、マリオンが頑張って書いたと思われる九九の暗記表が配られている。


 はー、紙も無料じゃないってのに、マリオン、気合い入っているねぇ。

 私はマリオンの授業が終わるまで、子供達の九九の暗唱を聞きながら、後方で静かに見守った。


「はい、今日はここまで。みんな、次の授業までに毎日一回は唱えること! いいわね?」


 マリオンがそう言うと、授業から解放された子供達が、一斉に「はーい」と返事をした。

 そして、子供達が神殿から外へと駆けだしていく。授業の日は家の手伝いが免除される特別な日なので、子供達はこれから丸一日遊べるのだ。


 私は走る子供達の脇を過ぎ、木の板を片付けようとするマリオンの手伝いに入った。


「あら、ありがと。そっち持ってくれる?」


「はいよー」


 私は木の板の端を持ち、マリオンと一緒に神殿の倉庫へと運んだ。この板は、授業に共用して使う神殿の備品だ。

 そして倉庫に片づけた板から、マリオンが紙を丁寧に剥がしていく。


「紙にわざわざ書くとか、コストかかるよねぇ」


 マリオンを見ながら、私はそんなことを言った。


「そう言っても、子供達全員に見えるようにするには、紙を使うしかないわよ。板に直接書くわけにもいかないし。魔法都市では、石盤に水で文字を書いて授業していたところもあったけど」


「黒板はまだ発明されていないのかな?」


「こくばん? 聞いたことないわね」


「黒い板だよ。板を黒や濃い緑色に塗って、それにチョークっていう白い粉を固めた物で文字を書くの。文字は布でこすると消えるから、何度でも文字を書けるよ」


「ふむふむ……むむむ、画期的な発明の予感がするわ」


「地球……天上界では学校で広く使われていた道具だね」


「さすが天上界ね。……ねえ、それ、村で作らせていいかしら」


 マリオンが、そんな提案をしてくる。

 おお、これは以前、洗濯板を作った時に頓挫(とんざ)した、現代知識チートのターンか!?


「いいよー。確かチョークは、卵の殻とか貝の殻とかを砕いて練り固めるとできるんだったかな?」


「どっちも村では数が確保できないわね……畑の肥料に使うだろうし」


「要はカルシウムがあればいいから、石膏(せっこう)とか石灰でもいけたはず」


「石膏なら、国内に鉱脈があるから大量に仕入れられるわね」


 おっ、行商人なぎっちゃの出番かな。


「あと、石灰は村のガラス工房に在庫がいっぱいあるはずね」


 はい、行商人なぎっちゃ撤収です。


「よし、だいたいどんな道具か解ったわ。今度、試しに作ってみるわね」


「うん、頑張ってね」


「上手くいったら、魔法都市に売るのもありね! その時は、なぎっちゃが発明の権利者よ」


「おお、まさしく現代知識チート」


 そうか、今までの私に足りなかったのは、曖昧(あいまい)な知識を口にするだけで、完成品を作り上げてくれる天才工作キャラか! 村には、禿げ頭の魔法教師とか、ドワーフの職人とかいなかったからなー。

 これは、なぎっちゃの異世界開発生活、始まっちゃうかな!?


 そんなことを考えていると、マリオンが詳細を詰めたいと言いだしたので、私は雑貨屋のスペースを貸し出すことにした。

 雑貨屋のカウンターで、紙と金属ペンとインク壺を用意して、黒板の概略図を描いていく。


「万年筆も欲しいねえ」


「何それ」


 おっと、私のなんとなく言ったつぶやきに、天才工作キャラが食いついたぞー。


「持ち手の部分にインクを溜めておけるペン。ペン先に常に一定量のインクが流れて、インク壺なしで字が書けるの」


「画期的! それも天上界の道具?」


「そうだよー。あと、黒鉛を木の板ではさんだ、鉛筆って筆記用具もあるね。黒鉛や炭を固めた芯を木ではさんだペン」


「普通に、紙に木炭で文字は書くわよ?」


「でも、木炭を手で持つと汚れるよね? 芯を木でおおっているから、鉛筆は手が汚れないの。そして、先端を専用の削り器で削っていくことで、常に鋭いペン先を維持できるわけだ」


 私は金属ペンにインクをつけ、紙に鉛筆の概要図を描いてみせた。

 それをマリオンは、食い入るように見つめている。


「こんな筆記用具が天上界に……天上界では普通の知識なの?」


「うん、私も子供の頃、毎日学校で鉛筆を使っていたよ」


「へえ、なぎっちゃも、学校に通っていたのね……。何年くらい通っていたの?」


「六年、三年、三年、四年の合計で十六年だね」


「はあ? あなた、天上界で学者だったの?」


「いやいや、最初の九年は子供なら全員通うし、次の三年も大半が通っていたよ。最後の四年は、仕事に就くための専門知識を学ぶために通ったかな。私は学者じゃなくて、普通に会社に入って働いていたよ」


「はー、天上界、豊かそうな世界ね。そりゃあ、天上界なんだから、豊かに決まっているんだけど」


 教育を受けられる期間が長いということは、それだけ人々の生活に余裕があるってことだ。マリオンも、その程度のことは簡単に想像ついたらしい。


 この村には学校がないので、子供に本格的な勉強をさせたかったら、村の外に出すしかない。

 でも、マリオン以外で、村の外に子供が出ているという話は聞かない。

 この村の人達は魔獣素材で儲けているので金銭的には余裕があるんだろうけど、わざわざお金を出して勉強をさせるという贅沢な発想はしていないのだろうね。


「そういえば、マリオンは魔法都市に留学していたけど、ジョゼットはどうなの?」


「姉さん? あの姉さんが、魔法都市なんかに行けるほど頭がいいわけないじゃない」


「いやほら、貴族だけが集まる学校、この国の王都とかにない? 一定年齢以上の貴族の子は、入学義務があるみたいな……」


 昨今のファンタジー小説では割と定番だったんだけど。王都じゃないけど、トリステイン魔法学院とか。


「ないわね。貴族だけ集めて、いったい何を学ばせるの? 魔法都市のオリビア魔法学院は、単に貴族を一般市民から隔離する目的で作られた学校だったけれど、そういうことじゃないのよね?」


「領地経営とかの貴族教育を……」


「貴族って、家ごとに役職が全然違うわよ。だから貴族家は、それぞれの家に相応しい家庭教師を(やと)って、子供に英才教育をほどこすのよ」


「むむむ。王都の貴族学園、夢とロマンが詰まっているのに。実現するために必要なのはなんだろう……」


「先に学校の存在ありきなのね……。学校って、何か目的があって作られるものでしょうに」


 マリオンが呆れたような目で見てくるが、無視だ。


「王都に貴族を集める……そうだ、江戸時代の大名証人制度! 天上界の私がいた国は昔、首都に領主の嫡子と妻を留め置かせる人質政策があったんだよ。それと組み合わせれば、貴族学園が実現する……!」


 やった、夢の異世界ファンタジー、王都の学園編が成立する!

 だが、そんな私の喜びに、マリオンが冷や水をぶっかけてくる。


「何を期待しているか解らないけれど……、この国の王家は、そこまで地方領主に対して強い権限を持っていないわよ」


「圧倒的地方分権……! 学園編には中央集権が必要だった……!」


「それより、早く黒い板の概略図描いてくれない?」


「はーい」


 そうして、その日は一日、マリオンの筆記用具開発事業に付き合った。


 それから夜になって、昼に餃子を食べるつもりだったことを思い出した私。

 神器の皿で餃子を作り出して、晩ご飯にした。神器の酒杯のビールもセットだ。

 はー、ビールと餃子って、なんでこんなに合うんだろう。皿を神器にした私、偉い。


 と、一皿分の餃子を食べたところで、ふと気づく。

 神器の皿でおつまみとして貝を呼び出せば、チョークの材料確保できるんじゃない?


「グッドアイデアすぎない? 天才か、私は!」


 早速、神器の皿で試してみると……。


「うわ、出てきたー」


 神器の皿で、殻付きの焼き牡蠣を作り出せてしまった。

 気分が乗った私は、焼き牡蠣を大量に呼び出してビールと一緒にまるっと平らげていく。


 そして明くる日……私は居間の食卓の上に山盛りになった牡蠣の殻を見て、冷静になった。


「酔った勢いで食べ過ぎた……」


 一応、マリオンに使うか聞いてみよう。そう思い立った私は、朝から村長宅を訪ねた。


「魔法都市への輸出を視野に入れるなら、やっぱり開発段階から石膏とか石灰を使った方がいいんじゃないの?」


 マリオンにそう言われて受け取り拒否された私は、牡蠣の殻を前に途方に暮れた。

 どうすんだこれ。もはやただのゴミじゃん。

 とりあえず、農夫のおじさんに肥料として使わないか聞いてみることにしよう……。


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― 新着の感想 ―
[一言] 貝殻を高温で焼いて生石灰を作ると言う案は( ˘ω˘ )
[一言] そ、そん学院だと伝説級になった上に本気でどうしようもないエターになりかけたのが関係者のリスペクトにより完走した伝説の作品になってしまう!(初手学院召喚もある意味唐突?) エターでもいい。…
[良い点] 更新乙い [一言] 似た様な物は開発できたりしそう 品質は積み重ねだから、まぁねーって
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