58.女子会の女子は、女性という意味であって女の子という意味ではない。
ある日の午前、私は村の鍛冶屋さんを訪れていた。
先日からちょっとした雑貨の作成を頼んでいて、それの受け取りに来たのだ。
「ほれ、なぎっちゃ。できてるぞ」
「ありがとー、おっちゃん。うん、しっかりした火バサミだね」
頼んでいた品は、鉄の火バサミ。
握ってみると、しっかりと動くようだった。
「しかし、なぎっちゃは鍛冶もできるって聞いていたが、自分で作らなくてよかったのか?」
「レシピ登録していない品は一から作らないと、瞬時に作成はできるようにならないんだよ。で、一から作るくらいなら、頼んだ方が楽じゃん?」
「俺はなんでも自分で作るから、その感覚は解らねえな。ま、楽をするためにどんどん仕事を回してもらえるなら、こっちは大歓迎だが」
「多分、今後もいろいろ頼むと思うよ。良い品は、うちの店で委託販売してもらうのもありだし」
「その火バサミなんかは、数作って置いてもらうのもありかもなぁ……」
一家に一個はあると便利だよね、火バサミ。
ゴミ拾い用の大きい物と、料理用の小さめのトングとで、複数種類あるとなおよし。
そんな提案をして、私はアイテム欄に火バサミをしまった。そして、鍛冶屋さんと雑談を始める。
「奥さんの調子はどう?」
「もうすぐ産まれそうってんで、てんてこ舞いだな」
実は鍛冶屋さん、奥さんが妊娠していて、臨月に入っているのだ。
「出産の時、何かあったら私を呼んでね。『Lv.8』になっているから、母体はそうそうへこたれないだろうけど」
「ポーションがあるから大丈夫だとは思うが、いざというときは頼むぜ」
その後、名前をどうするかとか、男女のどちらがいいかとか、子供に鍛冶を教えるのかとか、いろいろ話した。
すると、神殿の方角から鐘の音が鳴った。神器の『世界時計』とつながっているという魔道具の鐘だね。これが鳴るってことは、正午だ。
「おっと、正午に人と会う約束していたから、これで失礼するね」
「おう、また何かあったら言ってくれ」
そうして私は鍛冶屋さんを出た。
さて、今日のお昼はみんなで食事だ。
自宅前に着くと、ジョゼット、ソフィアちゃん、マリオンの女子メンバーがすでに集まっていた。
ソフィアちゃんとマリオンは初めて会うらしく、挨拶を交わしている。
マリオンは「なんでドギュール家のご令嬢が?」と不思議そうにしていたが。
「やっほー、お待たせー」
「お腹が空きましたわー」
「おー、ソフィアちゃん、待たせてごめんね」
この村は昼食をがっつり食べる風習は特にないのだが、貴族の娘だったソフィアちゃんは、よくお腹を空かしていることが多い。
貴族時代はお菓子だのお茶だので、間食を取ることがよくあったらしいね。
「さて、今日のご飯は、これを食べます」
私はそう言いながら、アイテム欄から一つの食材を取り出した。
「じゃじゃーん、サツマイモー」
南方から仕入れた、大振りのサツマイモだ。
「見たことがない芋だな」
ジョゼットが、サツマイモを見ながら不思議そうな顔で言う。
「このあたりは結構北だから、サツマイモは育てていないのかな?」
サツマイモは日本でも、南の方で作られていたからね。
となると、ジョゼットはサツマイモを初めて食べることになるのか。ふふふ、秋の味覚を存分に楽しむとよいぞよ。
「赤芋ね」
サツマイモを見て、マリオンがそんなことを言った。
なるほど、この国の言葉では、サツマイモは赤芋って呼ぶのか。
「よく手に入ったわねぇ」
マリオンがそう言ったので、私は得意げに答える。
「私には、転移魔法があるからね」
「あなた、なんでもありね……」
魔法神ですからー。でもカルト宗教は勘弁な!
「赤芋は甘いから好きなのだけど、この村では育たないのよねぇ……」
「マルドゥークに頼めば、天上界で品種改良された北でも育つサツマイモを神器で出せそうだけど」
残念そうな声音のマリオンに、私がそう言った。豊穣神マルドゥークは、地球に存在する作物を生み出す神器を所持しているらしい。私はそれ、まだ見たことないけどね。
「マ、マルドゥーク様って、偉大な豊穣神様じゃないの」
「うん、知り合いだよ」
「話がすごすぎて、頭が理解を拒むわ……」
額に手を当てて、頭を横に振るマリオン。このくらいで音を上げられては困るよ。
「この村に住むなら、神様には慣れてくれないと」
「遠くから見守るだけで、関わり合いにならないようにしておくわ……私はなぎっちゃと会話するだけで精一杯よ」
「そんなこと言っても、無駄だよ。だってね……」
「おーい、待たせたのう!」
私がマリオンと話していると、上の方からそんな声が聞こえてきた。
空を見上げると、そこにはミニドラゴンに乗ったヘスティアがゆっくりと降りてくるところだった。
「な、何? 竜の子供?」
「竜ですわ! 竜ですわ!」
マリオンがあわてふためき、ソフィアちゃんがテンションを上げる。
そんな声が響く中、ヘスティアはミニドラゴンから降り、召喚を解除してミニドラゴンを消した。
「まだ始めておらんな?」
「うん、まだ今日の食材を見せただけだね」
「ふむ、知らぬ顔があるな」
「あ、ヘスティア、こちら、村に帰ってきた村長さんの娘で、魔法使いのマリオンだよ」
「おお、噂の肉魔法の使い手か! ヘスティアなのじゃ。村の一員として仲良くしておくれ」
「ヘ、ヘスティア様……よろしくお願いします……」
急にガチガチになったマリオンに、姉のジョゼットが近づいていって、肩を叩いた。
「失礼があってはいけないが、過度に敬いすぎることもないようにな」
「すごく高度な要求をされてる……!」
まあ、そのうち慣れるだろう。
というわけで、私達は昼ご飯の料理をするために、出かけることにした。
今日の料理は、焼き芋。それも、焚き火で焼く焼き芋だ。
まず私達は、落ち葉を集めるために、村の南にある里山へと向かった。
「じゃあ、一人あたり、この麻袋いっぱいになるだけの落ち葉を集めること!」
私は大きめの麻袋を各々に渡し、各自山へと向かわせた。
里山には猪が出るが、みんな『Lv.8』の猛者なので、問題はないだろう。
私も麻袋を持ち、火バサミで落ち葉を集め始めた。
「なぎっちゃが道具を使ってズルしていますわー」
「残念、火バサミは一個しかないんだ」
「素手で頑張りますわー」
ソフィアちゃんとそんなやりとりをしてから、数十分後。皆が麻袋いっぱいの落ち葉を集めたので、村の東にある川へと向かった。
そして、川辺に麻袋の落ち葉を出して、山にする。
さて、焚き火の準備は整ったので、次はサツマイモだ。
私は≪アクアボール≫の魔法で水を出し、皆に手を洗わせると、アイテム欄からサツマイモと、一つのアイテムを取り出した。
「じゃじゃーん、アルミホイルー」
「なんじゃそれは。金属の紙か?」
ヘスティアがアルミホイルを見て、不思議そうに言う。
他の面々も、アルミホイルは初めて見るのか、興味深そうな表情を浮かべている。
「これは、アルミニウムっていう熱伝導率の高い金属をとことんまで薄く延ばした一品だよ」
「初めて聞く金属だが、金箔のように叩き延ばして作るのか?」
そんなジョゼットの疑問に、私は答える。
「生産システムの鍛冶スキルを使ったよ。料理スキルの親戚だね」
「ああ、不思議現象でなんとかしたのか……」
「スキルを使わない場合は、金属のローラーで挟み込んで、強い圧力をかけて延ばすんだったかな? まあ、今のこの世界の技術力じゃあ難しいかもね」
「オーパーツですわー」
ソフィアちゃん、オーパーツって概念、この世界にもあるの?
「で、このアルミホイルで、サツマイモをくるみます。みんな、材料渡すから自分で食べる分をやってね」
川辺に野外用のテーブルをアイテム欄から取りだし、サツマイモとアルミホイルを上に並べた。
それを各々が手に取り、サツマイモをアルミホイルでくるんでいく。
「ふーむ、この金属の紙は、見れば見るほど、新しい料理の構想が思い浮かんでくるのじゃ」
ヘスティアがアルミホイルをまじまじと見ながらそんなことを言う。
「私のスキルで作れてよかったよ。蒸し焼きにして木炭を作るレシピで使う素材なんだけどね」
ゲーム中ではアルミホイルは使い道が少ない素材だったので、長いこと倉庫の肥やしになっていた。
「なるほど、赤芋をこの金属の紙でおおうことで、中まで蒸し焼きにするのね。これ絶対美味しいやつ!」
「赤芋は久しぶりに食べますわー」
「ソフィアも赤芋食べたことあるの? 美味しいわよね」
「お腹が空いてなりませんわー」
マリオンとソフィアちゃんが盛り上がっているが、ソフィアちゃん、すまない。
「焼くのに一時間かかるよ」
私がそう言うと、ソフィアちゃんは「ええっ!?」とショックを受けたような顔になった。
「まあ、それくらいかかるじゃろうなぁ……」
料理神のヘスティアにはその辺が感覚的に解るのか、納得の表情で言った。
「なぎっちゃの不思議料理で一気に作りませんのー?」
「焚き火で焼くから良いんじゃん! さあ、包んだのなら、落ち葉の中に突っ込むよー」
渋るソフィアちゃんをせっつき、みんなで手分けをして落ち葉の山にサツマイモのホイル巻きをうずめる。
さて、周囲を確認して、延焼しそうな物がないことを確認し、着火だ。
「≪リトルファイアー≫」
小さな火種を落ち葉に飛ばし、魔力を維持して燃やし続ける。
すると、次第に落ち葉から煙が出てきて、炎が上がり始めた。
「おー、すごい煙だ」
「山に落ちていた落ち葉だからな。土に直接触れていた物は湿っていて、煙が出やすい」
ジョゼットのその言葉に、私はなるほど、と唸った。以前、キャンプ漫画がアニメ化したときに、ネットでキャンプ知識を仕入れたんだけど、湿った木の枝は薪にすると煙が出るって豆知識を耳にしたことがある。
「さて、ここから一時間待つよ」
「待ちきれませんわー」
「マリオンの魔法都市の話でも聞いて、時間を潰そう」
私がそう言うと、マリオンは「私!?」とおどろいていた。
うん、新入りなんだから、自己紹介も兼ねてやりなさいな。
そうして、少女達(一名二十六歳、一名千数百歳)による午後の談話会は、あっさりと一時間の時を稼いだ。女子が集まると、話題って尽きないものだよね。
「よーし、取り出すよー」
私は火バサミで落ち葉の灰をかき分け、アルミホイルに巻かれたサツマイモを取り出した。
そしてサツマイモをテーブルの上に置き、アルミホイルを解く。うーん、甘い匂いがただよってきた。
「ちゃんと焼けているかな?」
「どれ、確認してやろう」
ヘスティアが焼き芋の前に立つと、神器を展開して一本の鉄串に変えた。そして、その串を焼き芋にすっと刺す。
「うむ、中まで火が通っておるな」
「おーし、じゃあ、これを紙で包んで、と」
私はアイテム欄から藁半紙を取りだし、熱々の焼き芋をそれで包んだ。
よし、焼き芋、完成だ!
「はい、最初はソフィアちゃんからどうぞ」
ずっとお腹を空かせていたソフィアちゃんに、一個目を譲る。
「私でいいのかしら? 私でいいのかしら?」
「いいよー。いっぱいあるからどんどん取り出すね」
そうして、私が焚き火跡から人数分の焼き芋を取り出していくと、その間にソフィアちゃんが、皮を剥いて焼き芋にかじりついた。
「んんー! ほくほくであまあまですわー」
「うわわ、私も早く食べたい!」
「はいはい、年齢順で次はマリオンねー」
「年齢順じゃと、私が最後になってしまうのじゃが!」
「ヘスティアはジョゼットに順番ゆずってあげてねー。あなたお姉さんでしょ」
「すまない、ヘスティア。先にいただく」
「むむむ!」
そうして、まずは一人一個ずつ焼き芋が行き渡る。
私も最後に焼き芋を手にして、皮のままかじりついた。うん、屋台の石焼き芋ほどは甘くないけど、熱々で美味しいね。
「たまには、こういう手を凝らさない料理もいいものじゃのう」
ヘスティアがしみじみと言い、私はそれに「そうだね」と同意した。
この近辺は魔獣の危険があるので、のんびりキャンプ飯とはいかないけれど、ちょっとした野外料理は悪くないものだね。




