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5.この世界の人とは仕様が違う私。

『本日のログインボーナス! 経験値10000チケット×10』


 そんなメッセージと共に、目が覚めた。


 開拓村に到着した翌日の朝。私は窓から差す朝日に照らされ身体を起こす。

 部屋の窓にはガラスがはまっている。ガラス板だ。辺境の村にこんな物があるあたり、どうやらこの周辺地域のガラス加工技術は、割と高いらしい。まあ、ここが村長宅だから、特に豪勢な作りをしているのかもしれないけれど。


 昨日、開拓村にやってきた私。入植者を募集している開拓村といえども、今現在、家の空きがあるわけではないらしく、新しく家が建つまでどこかに間借りをする必要があると言われた。

 そして、村長宅は部屋がいくつか空いているらしく、家賃を払ってしばらく住ませてもらうことにしたのだ。建ててもらう家の代金も前金で払ったよ。実はホワイトホエール号のショップには、惑星探査時の拠点にするためのコテージとかも売っているんだけどね。


 さて、ログインボーナスだ。

 オンラインゲームには毎日のログイン時、ボーナスとしてアイテムを無料で貰えるというサービスがしばしば存在する。私のプレイしていたMMORPGでも存在していて、ランダムではないなんらかのお役立ちアイテムが配られるといった次第だ。


 今日貰えた経験値10000チケットは、キャラクターのレベルを上げるための経験値が手に入るアイテムだ。

 私のやっていたMMORPGはレベル上限到達(カンスト)してようやく一人前という感じのゲームだったので、このチケットは初心者時代かサブキャラの育成くらいにしか役立たないアイテムだ。

 今の私はレベル上限が撤廃されたのか、ゲーム時代に存在しなかった『Lv.100』になっているので、チケットも有効だが、10000×10の経験値は、このレベル帯では雀の涙である。

 倉庫に入っている経験値チケットを全てつぎ込めば、次のレベルである『Lv.101』にはちゃんと届くっぽいけど。


 ちなみにログインボーナスが貰えるのは朝の五時以降だ。

 この世界ではどうなっているかというと、どうやら今居る場所の現地時間で朝五時判定らしい。窓の外を見てみると、いかにも早朝といった空模様である。


 私は、ベッドの上に座り、アイテム欄から経験値10000チケットを取り出した。

 ふむ。

 ……これ、こっちの世界の人に使ったら、どうなるんだ……?


 と、そんな疑問が浮かんだところで部屋がノックされた。


「なぎっちゃ、起きているか。朝だぞ」


「はいはーい、ちょっと待ってね。≪アンロック≫。はい、入ってもいいよ」


 私は、初級魔法の≪アンロック≫を使い遠隔操作で部屋の鍵を開け、声の主、ジョゼットを部屋に招いた。

 ちなみに鍵をかける≪ロック≫の魔法は存在しない。≪アンロック≫はダンジョンで使えるけど、≪ロック≫はMMORPGじゃ無用の長物ってことだね。


「入るぞ。……おはよう。その、なんだ、なぎっちゃ」


「ん? どったの?」


「そのベッドはどうしたのだ?」


 ジョゼットは、こちらを見ながらそんなことを尋ねてくる。

 ベッドか。今、私が座っているこのベッドは、私が持ち込んだ私物だ。

 ホワイトホエール号のショップに売っている、宇宙船内にある自室をカスタマイズするための家具で、名称は『ふかふかベッド』である。


「私物だよ。魔法の収納があるのは知っているよね? そこに入っていたやつ」


「そうか。この部屋に元からあったベッドは……」


「そっちも一旦収納しているよ。後で倉庫かどこかに運ぶから、案内してね」


「了解した。しかし、ずいぶんと高級そうなベッドだな」


「んふー、寝心地いいよ。簡単に調達できるから、村に欲しい人がいたら工芸品や魔獣の素材と交換で売るって言っておいてね」


「営業は自分でしてくれ。行商人だろう?」


「そういえばそうだった」


 持ち込んだ海塩は全部村長さんに買ってもらったけど、雑貨類や嗜好品がまだ馬車に残っているんだよなー。あ、馬の世話もしないとね。職業テイマーじゃないから、動物の世話は能力頼みができず、自力で頑張らなくちゃいけないんだよなぁ。


「それよりも、朝食だ。なぎっちゃが塩と乾物を持ち込んでくれたから、今日の朝食は少し豪勢だぞ」


「そりゃよかった。今行くね」


 私は腰掛けていたベッドから立ち上がり、装備画面を開いて衣装をパジャマから大賢者の愛用装備に変えた。

 すると、一瞬で私が着ていた服が切り替わる。


「……すごいな、魔法」


 ジョゼットが感心したように言う。


「他人の着替えは変更できないけどねー。っと、経験値チケットもしまわないとね。あ、そうだ」


 私はふと疑問が思い浮かんできたので、ジョゼットに尋ねる。


「ジョゼットって、魔獣を倒したらレベルが上がったりしない?」


「れ、れべる?」


「うーん、倒した魔獣の魔力やパワーを自分の糧にして、パワーアップしたりできる?」


「いや、私はそんな摩訶不思議な人間じゃないぞ……」


 大賢者が持つ技能の一つに≪看破≫というものがあるのだが、これを使うと相手の簡易なステータスを閲覧することができる。

 対象のレベルも調べられるのだが、ジョゼットやこの世界の人達を看破しても、レベルの部分は空欄になっている。

 やはり、この世界の人は魔獣を倒しても強くなれないのか。それはまた、過酷で現実的な世界だなぁ。


「実は、このチケットを使うと、その糧を得られるんだけど……」


「なぎっちゃのいた島の魔道具か何かか?」


「神器の副産物、かな。敵を倒したら力を得られるシステムをつかさどる神器があって、そこから産出されるチケットだよ」


 もちろん私のやっていたゲームに神器などという概念はない。ここでいう神器とは、ずばり私自身のことだ。私という神器を支配するシステムの副産物として、ログインボーナスでたまに経験値チケットが産出される。


「神器の恩恵か! それはまた、すごい品を持ち込んだな……」


「でも、この国の人がそういうシステムの範疇にないなら、正直誰かに試すのって怖いねぇ」


 人体実験になってしまう。

 さすがの私も、どんな結果になるか判らない状態でそこらの人相手に実験をすることは、はばかれた。


「しかし、使うだけで力を得られるのだろう? どのような力かは知らないが……」


「レベルが上がると、生命力、精神力、体力、腕力、耐久力、魔力、素早さ、器用さ、運の良さが自動で上がるよ」


「それは、すさまじいな……運の良さなんて曖昧な力まで得られるのか……」


「ここでいう運の良さは、魔獣に攻撃したときに致命傷を与えられたり、逆に致命傷を回避できたりする確率の高さのことかな。概念的な運の良さとはちょっと違うね」


「それでも十分だ! なあ、そのチケットとかいう品、差し障りがないなら私に売ってくれないか。私財から出すのでたいした金額は用意できないのだが……」


「経験値10000チケット程度なら山ほど余っているから、売っても良いんだけど……正直、何が起きるか判らないからちょっと……」


「そうか……」


「人体実験してもいい罪人とかが居れば心置きなく試せるんだけど、そんな人こんな村にはいないよねぇ」


 いや、罪人なら人体実験してもいいなんて話、人権侵害はなはだしいんだけど、それでもいつかは試す必要あるからさ。

 それなら、鞭打ちとかの重たい刑が執行されるような人に、刑の代わりに実験を受けてもらえれば、いろいろなゲーム内アイテムの効果を試せる。

 経験値チケット以外にも、食べたらステータスが一定時間上昇する料理だとかも試せる。って、あ、昨日村長とジョゼットに飲ませたリラックスティが、まさしく飲んだら精神力の回復速度が速くなる料理じゃん。うかつだったなー。


「いるぞ、今ちょうど罪人が」


「ん?」


「私達が町に出かけている間に、余所者(よそもの)が村に忍び込んで、食料庫を荒らしたらしい。今、捕らえて沙汰を待っている状態だ」


「何それ。人じゃなくて害獣の間違いじゃないの?」


 わざわざ厳重に柵で囲まれている村に忍び込んでやることが、盗みじゃなくて食料庫荒らしって……。


「ただの余所者の盗人ならば、利き手を切り落として魔獣の森に追放でよいのだが、どうやら扱いに決めかねているようでな」


「過激! この世界の刑罰過激!」


 鞭打ちとか想像していたけど甘かった……。

 いや、鞭打ちも痛すぎてショック死するらしいけどさ。


「なので、なぎっちゃが未知の魔道具の実験台にしたいと申し出れば、父上は受けるかもしれないぞ」


「ん、おっけ。相談してみるよ」


 私はそう言って倉庫の画面を開き、経験値チケットを中へと放り込んだ。

 さあ、朝食だ、朝食。

 あ、家賃しか払っていないつもりなのに、もしや三食付きだったりするのかな。ありがたいものだね。


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― 新着の感想 ―
[一言] 罪人にチケット使って効果あったら なぎっちゃが責任もって始末しまないとヤバいんじゃあ? ゲーム仕様なら経験値1万って 大抵はレベル10ぐらいまではあがる こうなると素手で軽装戦士ぐらいなら…
[一言] これでチケットで人にレベルの恩恵が与えられるようになったらヤバそう
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