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3.力を隠すのはめんどうだけど、力を見せるのもそれはそれでめんどうそう。

 明くる日、ジョゼットと名乗った女性を案内につけ、開拓村に必要な雑貨を買い集めた私。

 昨日の塩の売り上げでこの周辺地域の通貨はそこそこ稼いでいたため、問題なく品物を揃えられた。


 そしてまた次の日、いよいよ開拓村への移動である。

 私の持つ馬車以外にも荷車が数台用意されており、その周囲に十人ほどの武装した男女が集まっている。


「どもども、行商人にして魔法使いのなぎっちゃだよ。移住希望だから、よろしくね」


 この世界でどんな名前を名乗ろうか迷ったのだが、結局私は今の肉体であるMMORPGのキャラクター名を名乗ることにした。

 私の名前はいろいろあるからな……プレイしたゲームのデフォルトネームの存在しない主人公の数だけな。

 さすがに『串焼きさん五郎』を名乗る勇気はなかった。結構やりこんだブラウザゲームの主人公名なんだけどな。く、もうプレイできないのか。


「魔法使いか。普通ならば詐欺を疑うところだが、何もない開拓村まで来て、わざわざ詐欺をすることもないか」


「騙したのがバレたら魔獣の餌よ。そんな馬鹿はいないんじゃない」


「まったくだ」


 武装した戦士団のみなさんがそんな会話を交わす。

 詐欺は、自分は騙されないと思っている人がかかりやすいんですぜ。

 まあ、私は詐欺じゃないけど。いや、この世界の本当の魔法を学んだわけじゃないから、一種の騙しには違いないが。


「魔法使いだよー。ほらほら、≪リトルファイアー≫」


 初級の火魔法を指先に発動させる。本来ならば野犬くらいなら一撃で倒すダメージを与える攻撃魔法なのだが、使うマジックポイントを絞るイメージを持って発動すれば、このように規模を縮小して発動することが可能なようなのだ。

 このあたり、魔法の扱いがゲーム時代よりファジーになっていて助かった……。


「おお、火だ……」


「魔道具じゃないのか?」


「半袖の服のどこに魔道具を隠せるんだよ」


 戦士団の人達が火を見てざわめく。あ、私の格好は今日も布のチュニックです。町を出たら馴染みの愛用装備に替えてもいいかな。

 そして、周囲の会話で、魔道具なる素敵アイテムがこの世界にあることが判明。

 ああー、私が『魔道具』というこの地方の単語を知っているってことは、イヴが収集した地上の情報には魔道具の存在もあるってことか。イヴめ、私に報告しなかったな。まあ、なんでもかんでも報告されたら困っちゃうけど。


「なぎっちゃが多様な魔法を使えることは、すでに私が確認済みだ。さあ、それよりも出発だ。日が暮れてしまうぞ」


 ジョゼットがそう皆をまとめ、私達は町を出発することになった。

 彼女、若いのにこの戦士団のまとめ役っぽいんだよね。私の職業(クラス)である大賢者の『看破』技能でも、他のメンバーより高ステータスなのがうかがえる。


 感心しながら、私はまだ不慣れな馬車の操縦を頑張った。御者って思ったよりも大変だねぇ。

 馬車には荷物が満載なので、私以外のメンバーは皆、徒歩だ。開拓村まで徒歩で五日だっけ? 正直、付き合ってられないよね。

 だから私は、休憩で皆が止まったタイミングで、宣言した。


「これから皆さんには、開拓村まで行ってもらうよ!」


 私の言葉に、不思議そうな表情を浮かべる戦士団のメンバー達。


「何を言っているのだ、なぎっちゃ。今まさに向かっているではないか」


 ジョゼットが呆れた声で私に言う。

 私はそれを半ば無視してさらに言葉を続ける。


「到着は本日です! 私のー、転移魔法で!」


「は?」


 ぽかんとした顔で口を開けるジョゼット。


「転移って……あの転移か?」


「うん、転移魔法だね」


「伝説の転移?」


「伝説かは知らないけど転移魔法だね」


 ジョゼットの疑問の声にそう答えていると、ジョゼットは大きな溜息を吐いてシワの寄った眉間を手でもみほぐした。


「……冗談ではないのだよな?」


「面識のほとんどない人にこんな冗談言うほど、アホの子じゃないよ私は。さ、転移するよ。まずは座標だね。イヴ、周辺地図を出して」


 私がそう上空を飛んでいるであろうホワイトホエール号のイヴに呼びかけると、私が装着しているイヴの外部端末から立体地図が空間に投影された。


「うおっ、なんだ? 魔法か!?」


「あー、地図を表示する魔法みたいなものね」


 実際は純粋な科学技術だけど。ホワイトホエール号の登場するゲームに、魔法はないのだ。


「で、この地図のここが、さっきの町ね。それをこっちに進んでいるから、道を辿るとー……開拓村はここかな?」


「あ、ああ、そうだな。おそらくそこだ」


 ジョゼットがうろたえながらもそう答えた。

 うんうん、よかった。開拓村がちゃんと存在していて。実は行商人を騙して襲う山賊でしたとかだったら、大変なことになっていたよ。ジョゼット達が。そのときは、みんな大賢者の能力で吸収して、ヘルプ機能行きだった。


「じゃあ村の手前のここを拡大してー。ここ、ここに転移するよ。いいかな?」


 私は開拓村手前の開けた場所を指さしながら、そう尋ねた。


「……ああ、そこなら魔獣も出ないし、問題ない、な」


「おっけ。じゃあみんなー、大魔法使うから見とけよー! ≪魔法永続化≫≪マキシマイズマジック≫≪ディメンジョンゲート≫」


 大量のマジックポイントを投入して、私は転移魔法を発動した。

 地面から巨大な長方形のゲートが生えてきて、指定した座標と空間が繋がる。


「うん、できた。うん、ゲートから向こうの景色が、しっかり見えているね」


 ゲームでは無かった演出だ。≪ディメンジョンゲート≫の魔法は、ゲーム中では向こう側の景色など見えず、なんだかぐにょぐにょした渦が見えるだけだった。


 出現したゲートを戦士団の面々はおそるおそると眺めている。


「おい、向こうに見えるのって……」


「ああ、村の手前の道だ」


「本当に転移魔法なのか? 幻影魔法とかではなく?」


「幻影でもそれはそれですげえよ……」


 この光景を見せても、彼らは半信半疑のようだった。まあ、仕方ない。率先してくぐってみせるか。

 私は馬車に戻って、馬をゲートの方へ歩かせた。


「どうどう、しっかり行ってくれよ。おそろしいものじゃないぞ。あ、みんな、先に行っているからついてきてね。一応、魔法の効果時間は無限にしてあるけど」


≪魔法永続化≫は、この世界に来てレベル上限突破をして『Lv.100』になってから新しく覚えた技能だ。大賢者であるなぎっちゃの使える魔法は、どれも効果時間が短く、特に長いエンチャント系魔法でも十分間が最長だった。


 MMORPGというゲームのジャンルを考えると、魔法の効果時間が短いのは当然なのだが、現実で魔法を使うとなるとその効果時間では不便極まりない。それを解決してくれるのが、今回覚えた≪魔法永続化≫ってわけだ。

 ただの効果時間永続化だけじゃなく、効果時間を任意で決められる≪魔法効果延長≫もセットでついてきたお得な技能だ。


 そんな永続化のされたゲートを私は馬を操って馬車でくぐる。

 それから遅れること数分、戦士団の男が一人ゲートをくぐってきて、遅れて皆が荷車を引いてこちらに渡ってきた。

 そして、しんがりを務めていたのか、ジョゼットが最後にこちらにやってきた。


「本当に転移したのか……」


 周囲を見渡し、しみじみと言うジョゼット。

 そんな彼女に私は尋ねる。


「全員こっちに来たかな?」


「ああ、全員いる」


「じゃあゲート消すよー」


 魔法を消滅させる効果がある≪ディスペルマジック≫の魔法をゲートにぶつけると、ゲートは何もなかったかのように空気に溶けてなくなった。

 よし、実験したとおりの結果だ。あ、さすがにぶっつけ本番で転移魔法を使ったわけじゃないよ。イヴとの地図の連携から、ちゃんと事前に試してある。行き先は開拓村じゃなかったけどね。


 結果に満足した私は、周囲で立ち尽くす戦士団の人達に向けて言う。


「さあ、開拓村まであと少し。頑張って向かおうか」


 私のその言葉に、呆けたような顔で皆が動く。

 隊列をつくり、遠くに見える村へと向けてのろのろと移動し始めた。

 そんな最中、私の馬車の横にジョゼットが歩み寄ってきて、私に向けて言った。


「なぎっちゃ。あなたはいったい何者なんだ……」


 その言葉に、私はキメ顔で答える。


「言ったよね、世紀の大魔法使いだって。正確には大賢者なぎっちゃ。それが私さ!」


 魔法を使えることを隠して生きることはできる。その方が、めんどうが寄ってこないだろう。

 でも、そんな生き方ってはたして楽しいだろうか?


 力を隠してひっそりと……それ、賢者じゃなくて隠者だよね。

 私は、世界の落差で手に入れた力や神器を自堕落に生きるためにつかうと決めているのだ。

 だから、実力は出していく。めんどうが寄ってきたら、ありあまるスーパーパワーで撃退してやるさ。


 あ、でもホワイトホエール号は、この世界の人間の理解が追いつかなくて説明が大変そうだから、隠す方向で行くかな……。


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[一言] つまりパワープレイ( ˘ω˘ )
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