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12.地球料理で異世界人を啓蒙とか難易度高い。

「なぎっちゃのお手軽クッキングー!」


「お料理ですわー!」


「うむ」


 村の外を回ってちゃんこ鍋の材料を集め終わったある日。

 私とソフィアちゃんとジョゼットの三人は、料理を作るために集合していた。

 場所は、村の外れにあるコテージの中。このコテージはホワイトホエール号のショップで購入して、イヴに設置してもらった一時的な拠点だ。


 住もうと思えば今日からでも村長宅を出てこのコテージに住めるのだが、村の大工さんが私のためのマイホームを建築してくれている途中なので、このコテージは料理が終わり次第撤去することになっている。

 なぜコテージをわざわざ用意したかというと、ちゃんこ鍋を料理するためだ。

 コテージの中には未来的なキッチンが存在していて、薪を使ったかまどで煮炊きができない私でも問題なく料理をすることができる。


 ホワイトホエール号のショップではキッチン単体でも販売されているのだが、キッチンだけ買ってもどこに置くんだってなるので、コテージごとの設置となった。

 コテージを目の前に出現させたときのジョゼットの顔は見物だったね!


「さて、まずは材料を用意していくよ!」


「またあれが食べられるかと思うと、ワクワクが止まりませんわー」


「ちゃんこ鍋なる料理は、確か具材たっぷりの肉野菜スープだったな」


 私、ソフィアちゃん、ジョゼットが口々に好きなことを喋る。

 誰かと一緒に料理するのって楽しいよね。そういう機会があったのは学校の調理実習以来だけど。


「まずは、野菜で白菜と長ネギ、椎茸だね」


 私はそう言いながらアイテム欄からキッチンに材料を取り出していく。


「今の時期に、なんで白菜があるんだ?」


 ジョゼットが白菜を見ながら首をかしげる。今の季節は初夏。白菜が出回るような時期ではない。


「遠い場所まで買いに行ったんだよ」


 具体的には惑星の赤道を挟んでの反対側までね! ちなみにこの開拓村があるのは北半球である。


「陸地で南北に繋がっているから、植生がこっちとそんなに違ってなくて助かったよ」


 こっちの言語は通じない場所だから、またホワイトホエール号の学習装置で脳に現地の言語を叩き込まれる羽目になった。

 村の人達から経験値チケットと交換でいろんな物を仕入れていたから、現地の通貨は商会と取引して簡単に手に入ったけどね。


「今の時期に白菜が手に入る場所か……まったく想像がつかんが、遠い地でも白菜が存在するのは、緑の神の思し召しか」


「ふむん? 緑の神?」


 しみじみとしたジョゼットの言葉に、今度は私が首をかしげた。


「人類に作物をもたらした、偉大な豊穣神だ。彼の方が持つ神器は、その昔、新たなる野菜や穀物を多数生み出した。人類が狩猟の生活から、農耕の文明に踏み出す切っ掛けを与えたと言われている」


 あー、地球の野菜類がこの世界にも存在するのは、その神器の効果ってわけね。

 原種から変化し続けて地球の物とは似ても似つかない姿になっている作物も多いけど。この白菜も、≪鑑定≫の技能で白菜って表示されるだけで、日本で見ていた形とはどこか違うからね。

 私を支配する神器のシステムがこれを白菜と判定している、くらいの心持ちでいこう。


 しかし、ダンジョンの未鑑定品を調査するための≪鑑定≫技能が、食材探しに役立つとは思ってもみなかったよ……。


「次の食材はなんですのー?」


「おっと、次は肉だよ。オーソドックスな鶏肉だ。グリフォン肉の方が上がるステータス値的には上だけど、味は似たようなものでしょう、多分」


 ソフィアちゃんにうながされ、私はアイテム欄から鶏肉一羽分を取り出してキッチンの上に置いた。


「グリフォン肉とか貴族の私でも食べたことありませんわー」


「鷹の上半身に獅子の下半身を持つと呼ばれる幻獣か。鶏肉の味でいいのか……?」


 ソフィアちゃんとジョゼットが順番にコメントを入れてくれる。

 グリフォンって魔獣じゃないのね。ということは人を積極的に襲わないのか。飼い慣らされたりしていそう。うーん、ファンタジー。


「あとは塩と昆布と大豆だね」


 そう言いながら私は、アイテム欄から一食分ずつの食材を出していく。


「大豆ですの? あの料理に豆は入っていなかった気がしますわー」


「鍋に入れる豆腐と油揚げっていう料理の材料だね。四角くて白い柔らかいやつと、薄茶色で汁をよく吸うあれ」


「ふわふわのあれですわね。楽しみですわ! 楽しみですわ!」


「豆腐か……聞いたことがないな」


 ジョゼットの台詞から考えるに、この村では豆腐が食べられていないようだ。まあ海に面していないならにがりもないよね。


 それはさておき、料理をしていこう。

 まず用意するのはゲームで使っていた上級料理セット。それをアイテム欄から取り出して、キッチンに置く。まな板と包丁、鍋、フライパンとかがひとまとめになったセットだね。

 これとキッチンに備え付けられているコンロがあれば、生産システムの料理スキルが使えるようになる。


「豆腐から行くぞー。料理スキル発動!」


『材料を枠内に入れてください』


 スキルを発動したら、目の前に料理スキルの画面が表示された。

 私はその画面に大豆を入れ、さらに綺麗な水と木綿の布地、海水をアイテム欄から取り出してスキル画面に突っ込んでいく。


「料理開始!」


 スキル画面の『料理する』ボタンを右手で押すと、『料理成功!』という表示がスキル画面に表示され、アイテム欄に豆腐三丁とおからが一つ新しく出現した。

 私はアイテム欄からその豆腐を取り出して、まな板の上に置いてみせた。


「完成ー!」


「いや、なぎっちゃ、ちょっと待て」


「おかしいですわ! どう考えてもおかしいですわ!」


「次は油揚げを作るよー」


「いや、待て、なぎっちゃ、待て待て」


「なんだいジョゼット、いいところなのに」


 私は溜息をついて料理の手を止めた。

 対するジョゼットはジト目でこちらを見て、言う。


「料理をするんじゃなかったのか」


「したじゃない。豆腐できたよ」


「いや、今のは料理というか……魔法だろう?」


「生産システムの料理スキルを使ったよ。あえて言うなら、料理魔法?」


「……魔法で作れるなら、こんな立派なキッチンを用意した意味なかったんじゃないか?」


「いやあ、こっちに来てから料理スキル使うの初めてだからね。上手く魔法が発動しなかったら、頑張って一から料理をするつもりだったよ」


 わざわざ≪鑑定≫を活用して、ゲームで使われていたレシピ通りの名前の食材をそろえたから、失敗するとは思っていなかったけど。


「そうか……でも、魔法で作った料理はちゃんと食べられるのか?」


「心配ですわ! 心配ですわ!」


「ソフィアちゃんが前に食べたちゃんこ鍋は、私が向こうの島に居た頃に料理魔法で作った料理だから、なんの問題もないと思うよ」


「美味しかったですわ! 美味しかったですわ!」


 さよか。じゃあそれならこれから作るのも同じ味がするでしょ、多分。


「じゃあ料理を進めるよー。豆腐と食用油で油揚げを作るよ。今回の油は大量に仕入れてきたオリーブオイルね」


 料理成功っと。


「お次は白菜、長ネギ、椎茸、豆腐、油揚げ、塩、昆布、綺麗な水で料理錬成!」


「錬成とか言いましたわ! 錬成とか言いましたわ!」


 アイテム欄にちゃんこ鍋が一個錬成された。

 私はそれをまな板の上に出現させる。

 それをジョゼットがまじまじと見つめた。


「……湯気が立っているな」


「できたてだよー。ちなみに土鍋はどこからか出現しました! 多分食べ終わると消えてなくなります!」


「ああ、前に飲ませてもらった、魔法のお茶のカップのようなものか……」


「そうだね。それじゃあ、三人で味見しようか」


「作る過程を見ていたら、食べるのが不安になりましたわー」


 以前、ソフィアちゃんが実験台になって試食してくれたんだから、大丈夫だと思うよ!

 そして私達は、取り皿を用意して三人仲よく一人用鍋を分け合って食べた。MMORPGの料理は基本どれも一人用である。


「……これだけ美味な物を食べたのは久しぶりかもしれない」


 ジョゼットが複雑な顔をしてそんな感想を述べた。美味しかったなら普通に喜べば良いのに。


「まだ食べられますわー」


「味見でお腹いっぱいになっちゃ駄目だよ、ソフィアちゃん」


 物欲しそうにするソフィアちゃんをなだめ、私は本格的にちゃんこ鍋パーティー用の料理を用意することにした。


「よーし、村人全員分の錬成だー!」


「何か手伝えることはあるか?」


「手伝いますわー」


「あー、生産のスキルはアイテム欄から直接やりとりする方が早いから、手伝えることはないかな」


 私がそう二人の助力を断ると、ジョゼットは微妙な顔をして言った。


「……手伝えることが何もないなら、今日私とソフィアがここにいる理由はいったい」


「そこはほら、作業中のにぎやかしってことで。それに、料理スキルが上手く使えるかもわからなかったからさ」


「帰っていいか? 村では仕事がいくらでもあるんだ」


「ここまで来たら最後まで付き合ってくれるのが、人情ってものだよ!」


 その後、ちゃんこ鍋の調理は、数分間画面をポチポチするだけで簡単に終わったのであった。


 生産システムがこの世界の素材でも正常に働くのを確認できて、今日は大収穫である。

 これなら、素材だけ集めてスキルでアイテムを作りだして、ホワイトホエール号のショップで高く売りさばくという手段も問題なく取れる。快適な異世界生活が、今後も問題なく送れそうでなによりである。


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― 新着の感想 ―
[一言] ソフィアさんそのうち普通になぎっちゃさんの怪しい物品を疑問無く食べるようになりそう
[良い点] ソフィアちゃんが同じことを二回繰り返して話すの見てるとおバカタレント思い出します。指切られなくてよかった。
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