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10.仕様が違うから変な挙動も仕方が無い。

 ソフィアちゃんの手で猪は仕留められた。

 ジョゼットは槍を構え、倒れた猪に近づいていく。


「……見事だ。瀕死だな。血抜きをしよう」


 ジョゼットが猪の首付近に槍を突き入れる。すると、血がどばどばと傷口から噴き出てきた。


「うえー、気持ち悪い」


 思わずそんな言葉が出てしまう。


「なんだ、なぎっちゃ。この程度で気持ち悪がっていては、解体など耐えられぬぞ」


「軟弱ですわー」


 う、ソフィアちゃんも平然としているや。うーん、リアルの狩猟生活って現代日本人には厳しいなぁ。

 そんな会話をしている間に、ジョゼットは持参したロープで猪の足を縛り、木に吊るして血抜きを始めた。


「こんな大きな猪も、軽々と吊るせたな。魔道具の力恐るべしだ……。なぎっちゃ、ソフィア。食肉となる獲物は、血抜きという工程が必要だ。できれば生きている間に、体内から血を抜き取る。おこたると、肉の味が悪くなってしまう」


「初めて聞きましたわー」


「私は聞いたことあるかな」


 猟師を兼業している漫画家が、猟師生活のドキュメンタリー漫画を描いていたんだよね。それを読んだことがある。


「だが、ここは魔獣の出る森だ。血の臭いを周囲にばらまくと、肉食性の魔獣が寄ってくる可能性が高い。なので、一人で狩りに行くときは猪のような大物を狩るのは控えた方が安全だな。魔道具で強化されたといえども、多勢に無勢だ」


「しばらく一人では森に入りませんわー」


 魔獣は魔石を体内に持つ生物のことで、獰猛な性質を持つ種類がほとんどらしい。

 その性質上、遭遇したら戦うしかない。経験値チケットを配ったから、そうそう村の戦士達が魔獣におくれを取るとは思わないが……。


「むっ、マップにアクティブモンスターの反応ありだよ。こちらを襲う意思のある動物が、三匹近づいてくる。気をつけて」


 私は視界の端に表示させていたマップを見て、二人に注意を呼びかけた。


「三匹……狼か、魔獣か……」


 ジョゼットが槍を手にしながら言う。


「私が魔法で倒してみるよ。一応、近づかれたときに備えて武器だけは構えていて」


 そうして吊り下げられた猪の前で待機していると、茂みの中から角の生えた大きな狼が一匹飛びだしてきた。


「角狼! 魔獣だ!」


「ほいっと」


 マップで敵の出現タイミングを知っていた私は、ジョゼットの叫び声と同時に、初級攻撃魔法≪マジックミサイル≫を放った。五つの魔法の矢が私の手元から飛び出し、角狼を打ちすえる。

 さらに二匹の角狼が飛び出したので、これも魔法で迎撃した。


「……見事だ。しかし、ここまで大規模な魔法だと、毛皮は使えなくなったのではないか?」


「かなり弱い魔法なんだけどねぇ」


 と、そう言葉を交わしている間に角狼は絶命したのか、周囲にドロップアイテムをばらまいた。そう、ドロップアイテムである。四角いキューブ状のクリスタル。それが角狼の死体の周りに散らばったのだ。

 さらに、マジックミサイルで貫かれた角狼の死体は、地面に溶けるようにして消滅した。


 うはあ、ゲームの仕様が適用されているや。

 MMORPGでは、倒した敵の死体は長時間残らず、その代わりに討伐の成果としてアイテムキューブを落とす(ドロップする)。その仕組みがこの世界でも発揮されているのだ。


「き、消えた? いつもの収納の魔法を使ったのか?」


「いや、違うよ。死体はドロップアイテムに変わったんだ」


 私はドロップアイテムのキューブに近づき、『回収』と念じてみる。すると、ドロップアイテムは全てアイテム欄に回収された。


「また消えましたわ! また消えましたわ!」


「今度は魔法で収納したよ。ドロップアイテムは……うん、毛皮十枚に骨がいっぱい、魔石五個。肉もあるね」


「毛皮が十枚だと?」


 私の成果報告に、ジョゼットが怪訝な顔をする。

 私はアイテム欄から毛皮十枚を取り出して、彼女に見せてみた。


「これが今の三匹から獲れた毛皮だよ」


「明らかに三匹分より多いではないか! それに汚れていないし、裏側に肉片もこびりついていない……今すぐ実用品として使用できるぞ」


「不思議すぎますわ! 不思議すぎますわ!」


「私は魔法の力で、倒した相手をアイテムに変換できるんだよ。だから、見た目より多くの素材が獲れることもある。まあ狼を倒して毛皮が一枚も獲れないことだってあるんだけど」


 ただし、私は≪取得アイテム数増加≫の技能を持っているので、動物を倒して毛皮が獲れないということはそうそう起きないね。


「だから、毛皮が十枚に魔石が五個も獲れたというのか……すさまじい力だな」


「解体もしなくていいしね!」


 私がそう言うと、ジョゼットは声をあげて笑い、ソフィアちゃんは「軟弱ですわー」と煽ってきた。こいつら遠慮が無いな!

 そうしている間に、猪の血抜きが終わり、吊るしていた猪を地面に下ろして横たわらせた。


「大物だから、今日の狩りはここまでにして帰るのがよいのだが……」


 ジョゼットがそう言うが、目はこちらを向いている。私は苦笑して、彼女に言葉を返す。


「魔法で収納してあげるよ。内臓は抜かなくて良いの?」


「抜いた方が軽くなって運びやすくなるし、肉の臭みも抜けるが、内臓にも使い道はあるのでな。運べるならこのまま運びたい」


「了解っと」


 私は猪の死骸をアイテム欄に突っ込んだ。


「本当に便利な魔法だな。そうそう、本来なら獲物を仕留めた後は内臓をすぐに取り除き、獲物を水へ沈めて熱を抜くとよいのだが……肉食の魔獣が居るこの森では不可能だ。一応知識として覚えておいてくれ」


 あー、それも漫画で見た記憶があるなぁ。

 確か湖に数時間浸すとかだったけど、角狼が群れているような森でそんな悠長なことはしていられないか。


「私のアイテム収納魔法は、収納物の時間が停止しているから、村に帰ったらその辺やってみるといいよ」


 私のやっていたMMORPGでは、食料品に消費期限の類がない。そんな仕様が現実化した今、ゲームを再現するためにアイテム欄や倉庫の中では時間経過がしないという処理がなされているようなのだ。


「そうか! それは、久しぶりに上等な肉が手に入りそうだな!」


「時間停止とか、すごすぎて頭がおかしくなりそうですわ! おかしくなりそうですわ!」


 うーん、この場合、ジョゼットの反応よりソフィアちゃんの反応の方が正常なんだろうねぇ。


「さて、二人の活躍は十分見せてもらったから、今度は私の弓の腕でも見てもらおうか。この近くに泉があるから、そこに来る鳥を射貫いてみせよう」


 ジョゼットはそう言って弓を掲げてみせた。


 その後、ジョゼットは泉にて、鳥を三羽射貫く見事な腕前を披露。

 成果は十分ということで、今日は帰還することとなった。帰り道、また角狼の群れが現れたので、三人で分担してそれぞれ獲物を確保し、ほくほく顔で村へと戻ったのであった。

 ちなみに猪と角狼の解体見学は遠慮させてもらったよ。私、獲物を狩っても解体の必要ないから、いらない知識だもんね。


 そしてその日、経験値チケットの成果を試したがった村人が数多く森へと入り込んでいたらしく、村の解体場は大混雑していたと夕食の場でジョゼットが説明してくれた。

 きっと今夜はあちこちの家で肉を食べているのだろうなぁ、と私はモツ煮スープを味わいながら思うのであった。


 さて、肉は十分村にあるみたいだし、野菜を集めてちゃんこ鍋パーティの準備、整えないとね。

 数日間行商をした限りだと、地球にあった野菜がこの世界にも存在するようだ。それっぽい材料は、はたして集まるだろうか。


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― 新着の感想 ―
絶滅しますわ!生態系の崩壊ですわ!
[一言] だがちゃんこ鍋の素は無いはず
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