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異世界転移系ファンタジー短編集【家族】

ハロウィンの奇跡

作者: 3ツ月 葵

「よしっ! で~きたっと……。」


 私はモエ、22歳。

 今は魔女の万能薬を作っていたところで、私がこの世界に来てそろそろ十年が経とうとしているの。

 「この世界」ってなんなのかだって?

 じゃあ少し、私の事についてお話しするね。



 今からだいたい十年前、あれは友達の家でやったハロウィンパーティーでの帰り道の事だったかな……。

 私は魔女の仮装をして余ったお菓子を貰って弟がいる病院へと向かっている所だったわ。

 とある交差点の横断歩道を向こう側へと渡っている途中だった……突然やってきた暴走車にはねられて私は………。

 でも、気が付いたら私はこっちの世界の森の中にポツンといる状態で……あの時は人生最大にビックリしたわ。

 つ・ま・りは、ここは所謂ところの異世界っていうわけ。

 私はかなりパニックになりながらも森を彷徨い、偶然そばを通りがかって助けてくれた同い年の女の子の家で少しお世話になる事になったのね。

 あの時は苦労もしたけど新鮮な体験に驚きと感動を覚えて結構楽しかった思い出があるわ。


 田舎町って感じの場所だったけど、地球で言うところの中世ヨーロッパみたいな雰囲気で……それこそ赤毛のアンの様な世界観だったのが印象的だったわね。

 勿論、テレビもない、スマホもない、ゲームもない、電子レンジや掃除機や洗濯機といった当たり前のように使い慣れていた便利な家電製品がゴッソリないから全てが手作業でやらなくちゃなんなくって酷い手荒れになったのよね。

 そんな生活を暫く送っている中、この家のお母さんがよく効く薬だからと光に当たるとキラキラと光るハンドクリームを塗ってくれたの。

 もう本当に、魔法のように一日で肌荒れが治っちゃって……しかも治るだけじゃなくてツルツルスベスベになっちゃったから跳び叫ぶぐらい感動しちゃったんだよね。

 それでこのハンドクリームの秘密を聞いたらばこの町に住む魔女が作っている特性のハンドクリームだからなんだって教えてくれたの。


 翌日、その日のお手伝いを早めに済ませて話に聞いた魔女の店に遊びに行ったの。

 そうしたらば!

 なんと私の中にはすごく多くの魔力があって、魔女になる才能があるから是非ともあなたをもらい受けたいってスカウトされちゃったの!!

 もう嬉しくって、嬉しくって!

 でも、あるお宅でお世話になっているからすぐには答えられないって言ったら、じゃあ今からお願いをしに行きましょうって魔女さんったら即行動!


 私を連れ立って私のお世話になっている家に行き、「この子には魔女になる高い才能があります! 私が一人前になるまで精一杯面倒を見ますので、是非とも私の元へ修行に預けていただけませんか?」って。

 お世話になっていたお母さんは「この子の為になるならば」って、暫く考えた後にオッケーしてくれたわ。

 お母さんもだけど、私のことを本当の娘のようにかわいがってくれていたお父さんも、少し寂しがっていたけれど肉親のいない私がこの国でしっかり根をはって生きていく為にと最後には了承してくれたの。

 修行の為に魔女さんの所に移り住んでも同じ町だからすぐ会えるはずなんだけど……女の子はこの日、ずーっと泣いていたっけ……。

 小さな子供にとってはそれなりに離れた距離に、魔女さんのお店も兼ねた家があったからね。


 私は次の日には魔女さんの家に引っ越し、魔女さんとは師匠と弟子として五年ぐらい来る日も来る日も修行に明け暮れたっけ。

 ホウキで空を飛ぶ練習、魔女の薬の作り方、薬を作る為の薬草の育て方に食べ物を魔法で腐らせない方法………。

 修行期間が終わってからは魔女の住んでいない街で見習いとしての魔女の修行も――。

 ありとあらゆることを学び、様々な人たちと触れ合い、一年の見習い期間が終わった時に一度師匠の所へと戻ったけど、結局はまたこの見習い期間を過ごした街に戻って今度は自分のお店を正式に初めているのよね。



「長かったわ~。」


 本当に長かった……。

 この街に自分のお店を構えてもう四年……。

 紆余曲折色んなことがあったけど今ではいい思い出。

 今ではあの最初に出会った魔女特性ハンドクリームは勿論のこと、しゃっくりを止める薬、クシャミが出る薬、誘惑を断ち切る薬とか色々と作れるようになった。


「ただの人間には作れない――魔女にしか作れない薬を作れるって言うのが面白いのよね~。しかも変なのも多いし。」


 過去を振り返りながら私はなんだか面白くなってクスクスと思わず一人で笑い出した。


「でも―――。」


 私は今作ったばかりの一瓶の薬を手にして溜め息を吐いた。


「パパやママ、弟はどうしているかしら……。せめて異世界で元気にやっているって伝えることができたなら………。」


 私はあの日から一時たりとも忘れたことはない。

 元の世界に帰れるものなら帰りたかった。

 でも―――でも、魔法のある世界にいても帰る方法はなく、私はいつしか諦めた。


「こんなに便利な薬があるのに……―――。」


 その時、窓から大きな鳥がビュンっと勢いよく飛び入ってきた。


「キャアッ!!」


 私はビックリして叫び声を上げた。

 ぶつかる!―――そう思って頭を両手でガードしようとしたけどもう遅かった。

 その大きな鳥は勢いを殺すことなく音を立てて私の頭にゴツンとぶつかった。



 ――で、気が付くと……。


「えっ? ええぇ~!!?」


 人生最大が二度目の驚きに遭遇した。

 明らかに――。


「明らかに――ここ、日本だ! 私の住んでいた街!」


 そう!

 何故だか分からないが元の世界に私、戻ってきちゃったのである。


「戻って……来た?」


 キョロキョロと周りを見渡すとどれも見慣れた物しかない光景で……。

 夕暮れ時の中を家路へと急ぐ人が多くいた。

 だが何かおかしい………。


「あれっ? もしかして………今日ってハロウィン?」


 道行く人の幾人かはお化けやゾンビ、魔女なんかの仮装をしており、本物の魔女の格好をしていた私は特に目立って浮くこともなく今日限定ではあったが街に馴染んでいた。


「ハロウィンの日で良かった……じゃなければ不審者扱いされていたかも―――。」


 本物の魔女である私は、仮装でするのと違って可愛い系でもセクシー系でもなく、古びた感じの真っ黒なちょっとおどろおどろしい感じなので怪しさ満点の格好であった。

 と、ホッとして街を見ている時に不意に目に飛び込んできたものが私の心臓をドクンと強く脈打った。


「にせん……にじゅう?」


 仮装したアイテムの所々に描かれた2020の文字―――。

 私が異世界に飛んでしまった時も2020年―――。

 私はその衝撃から次第に速くなっていく心臓の音を感じた。

 もしかしてと思い、近くにあったコンビニに駆け込んだ。

 道行く人に尋ねようとも一瞬思ったが、さすがに「今何年ですか?」って突然聞かれてきたら怖いと思われると思い、コンビニに来たというわけだ。


「え~っと………。」


 私はコンビニの中に入ると今日の新聞が置かれているコーナーへと行き、怪しまれないように目的の者を探している風を装って新聞の日付欄を確認した。


「2020年10月31日―――。嘘でしょ―――――。」


 私は腰を抜かしてその場にへたり込んでしまった。


「あり得ない!」


 コンビニの店員さんがどうしたのかと慌てて傍目から見ればおかしな行動をする私の様子を確認しに来た。

 へたり込んで動けなくなってしまっている私を見かねた店員さんは仕方ないなといった感じで手を差しだし、私は申し訳ないながらもその手を取ってやっと立ち上がることができた。


「救急車か……お家の人でも呼びましょうか?」


「いえ―――。」


 私は店員さんの申し出を断り、フラフラとさせながらもコンビニを後にした。

 私は十年の年を取った状態であの日へと帰ってきてしまった―――。

 これからどうしたものかと思いあぐね、近くにあった後編のベンチへと座った。


「どうしよう……これから。」


 家に帰るわけにもいかず、途方に暮れてボーっと空の向こうの方を眺めた。

 そして暫くしてハッと気が付いた。

 ポケットをゴソゴソと漁り、元の世界に戻ってしまう直前に持っていた薬を握り締めた。

 先程戻ってきた直後に、落とさない様にとすぐにポケットに入れていたのだ。


「これを……これを弟に―――。」


 私は薬瓶を再びポケットの中へとしまい、弟がいるはずの病院へと急いだ。

 私とは年の離れた幼い弟は。生まれつきの病気になって長らく入院生活を余儀なくされていた。

 まだあの時は私も幼かったので詳しくは教えてもらえなかったが、とても難しい病気らしく飲めばすぐに治る様な薬もまだ存在していないという話だった。


「でも――でもきっと。これを飲めば―――。」


 一縷の望みをかけて私は走った。

 幸いにも弟が入院していた病院の小児科では入院している子供たちの為にとイベントごとをよくしているらしく、魔女の格好の私が病院の中へと入っても怪しまれる事はなかった。


「お見舞いですか?」


「ええ。すみませんこんな時間に……。」


「今日はハロウィンですからね。お見舞いが可能な時間を少し遅めにまでとっているんで大丈夫ですよ。でももうそんなに時間が無いのでお早めにお願いしますね。」


「わかりました。すみません。」


「いいえ~。」


 小児科受付で話しかけられた看護師さんにはニッコリと優しげに微笑んで返事をしてくれた。

 壁に書かれたイベントのお知らせ表を見ると昼にこの病院でもハロウィンパーティーをしていたらしく、廊下を歩いているとまだあちらこちらに飾り付けのカボチャのお化けの置物が残っていた。

 弟も今日は楽しんでいたのかなと考えながら、私は何度も来た覚えがある弟の病室を探した。


「ここだ――。」


 ドアの前に着いたはいいものの………困った。

 入ってなんて言おう――十年も年を取ってしまっているからお姉ちゃんだって分からないだろうし……下手したら変な人が来たって言って泣かれちゃうかも――。

 私がドアの前でどうしようどうしようとウロウロしながら逡巡していると―――。


「誰? ドアの前にずっと居るのは誰なの?」


 中から弟の声が聞こえてきた。

 どう言おうか迷ってすぐに入れずにいた私は観念してガラリとドアを開けた。


「ハ、ハッピーハロウィン!」


 若干冷や汗をかきつつも怪しまれないようにと笑顔で弟の前へと出た。


「魔女の格好したお姉さんは一体誰なの?」


「えっと………。」


 私が口をもごもごとさせて悩んでいると私の服の端を手で引っ張り、「だれ?」と更に弟は聞いてきた。

 薬を飲んでもらう為にと、私はエイッと覚悟を決めて正直に話すことにした。


「こんなことを言ったら信じてもらえないかもしれないけど――未来から来たあなたのお姉ちゃんなのよ。」


 弟は一瞬「えっ!?」と驚いた顔をしていたが、すぐに「あぁ、そうなんだ~。」と頷きだした。


「……あれっ? 疑わないの? 信じてくれるの?」


「うんっ。僕のお姉ちゃんなら未来からでも僕の所へ来てくれそうな気がするもの。」


 私ってそんな感じに思われてたんだ~、何と可愛い弟なのだろうかと頭を撫でたくなっちゃった。

 和やかに解れた場の空気に本来の目的を忘れそうになったが、いけないけないと思い直して場を仕切り直す為にコホンと一つ咳をした。


「あのね、お姉ちゃん――あなたの病気を治す特別な薬を未来から持ってきたの。飲んでもらえる―――かな?」


「それって……苦い?」


 弟は眉をひそめて上目遣いで苦い顔をして私を見てきた。


「いや、ほんのりと甘いシロップ薬だよ。だから大丈夫! 飲んでくれる?」


「うん! それなら飲むよ。お姉ちゃんが折角未来から持ってきた薬だもの。これで僕の病気が治るんだよね?」


「勿論!」


 ポケットから取り出した薬瓶を弟に渡すとキュポっと蓋を開け、そのままジュースでも飲むかのようにごくごくと一気に飲んだ。


「プハーっ! このお薬、ジュースみたいでとっても美味しいよ!」


 飲み切った弟は嬉しそうにニコニコとした笑顔で空になった瓶を差しだしてきた。


「そう……体の具合はどうかな?」


「ん~? なんかよく分かんない。でも、このお薬を飲んだら少し胸のところの苦しいのが軽くなった気がするよ。」


 私は弟の手を握り、魔力を使って体の中の流れを確かめてみた。


「あぁ、これは治っていってるわね。一晩寝て、明日の朝になればもうすっかり治っているはずよ。お医者さんに見せればきっとすぐ退院よ。」


 そう言って私は弟にウィンクした。


「やったーぁ! 治ったらお姉ちゃんといっぱい遊びたいな~。」


 無邪気に喜ぶ弟に寂しい気持ちになりシュンと下の方に俯くと時計が目に入った。


「あっ! もう時間だわ。帰らなくっちゃ!」


「もう帰っちゃうの?」


「帰らなきゃならない時間だからね。」


「そっか……またね。」


「またね。」


 別れの挨拶をしてドアを開け、一歩外へと出たタイミングでちょうど歩いていた看護師さんと頭をぶつけてしまった。


「あっ! ご、ごめんなさい――。」


 そして次の瞬間に目を開けると―――。


「あぁ………。」


 私が四年以上暮らしている我が家へと帰って来ていた。


「ただいま。」


 その日の夜、あれから後の弟のことを夢に見た。



 あの次の日の午前中に主治医が弟の様子を見に来て、定期的に行っている診察をするとおかしなことに病気はすっかりと良くなっていた。

 これは変だぞと両親が呼ばれて精密検査をするも異常は何も見つからず、それどころか病気も完治して元気でピンピンとしてはしゃいでいる弟の姿が……。

 主治医も両親も「奇跡だ……!」とビックリするやらで喜んでいた。

 母が「何があったんでしょうね」と主治医に疑問を溢すも主治医はただ無言で首を横に振るだけで――。

 それを聞いた弟が「お姉ちゃんが魔女になって未来からよく効くお薬を持ってきてくれたんだよ!」だって。


 ―――フフッ。


 それを聞いた大人たちは皆ポカーンとしてたのが可笑しくって可笑しくって……。

 で、弟は「モエお姉ちゃんが来たんだよ。」と言うと両親は「そんな――まさかっ……!!」って顔をしてた。

 でも―――「ハロウィンだし、他のお化けに紛れてあの子もこっちに来たのかもしれないわね」ってお母さんが泣いていて……。


 ごめんね、お母さん。

 もう二度と会えないかもだけど……私は異世界で元気にやっています!

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