あたり前の時間
第10話
●伝わる温もり
ねえ晴輝
私は 今 とても複雑なの
晴輝は
今 幸せなの?
「晴輝君」
「……夏奈さん……その呼び方辞めて貰えませんか? まあ……俺も言える立場じゃないけど……夏奈さん……俺と付き合って良かったと思えますか?」
「えっ? どうして?」
「……俺と付き合って幸せって……そういう気持ち伝わってこないし。……つーか……笑顔が減ったの気のせいかな?」
「……晴輝……君……」
「……俺……夏奈さんに無理させてんのかな? ごめん……今日は帰ります」
俺は、夏奈さんに引き止められ、俺達は倒れ込んだ。
見つめ合う俺達。
「一人にしないで……傍にいて……」
「ただ……ぃ……」
私がバイトから帰ってくる。
≪うわっ! 晴輝来てたんだ。やだ……タイミング≫
帰宅する私の目の前に飛び込んだ光景は、二人がソファーに倒れ込み、見つめ合う晴輝とお姉ちゃんの姿。
私は、その場をゆっくりと去ると近くの公園に行く。
「はあぁぁ~……」
公園のブランコに腰を降ろし、私は大きい溜め息を吐く。
少しして ――――――
「真裕?」
ビクーッ
突然、声をかけられ驚く私。
「きゃああっ!」
ドサッ
ブランコから落ちてしまった。
「…………」
「……っ……」
私はお尻を撫でながら、ゆっくりと立ち上がり声のする方に目をやると、晴輝がいた。
「は、は、晴輝ぃ!? えっ? 今からヤる所だったんじゃ」
「は? えっ!? ヤ……る……所……?」
「……あっ!」
「……てめー……帰って来たのか?」
「ごめん……タイミング悪かったみたいで、気付かれないように慌てて部屋を出たんだけど……」
ストン
隣のブランコに腰を降ろす晴輝の姿。
「……晴輝……?」
「最近さ……俺……夏奈さんの事、良く分かんねーんだ」
「えっ?」
「付き合わない方が良かったのかな?」
「……晴輝……」
「片想いの時はさ、相手の機嫌とか客観的っていうか……良く見えていたし分かっていた気がすんだけど……今は……全然分かんねーに近い」
「自分のものになったから……見えるものも見えなくなるんじゃない?」
「えっ?」
「だってさ、好きな人とかって他人のものになって気付く時あるじゃん! それに、片想いの時が幸せだったなぁ~って……自分のものになったら目の前の事に鈍くなってるんだと思うよ……なんて……分からないけど……」
「…………」
「まあ元気出しなよ! せっかく片想いが実ったんだよ。らしくないよ! 晴輝! じゃあね!」
私は軽く走ると、すぐに足を止めた。
「……ああ……」
そんな私に、すぐ気付き
「真裕……?」
私の名前を呼んだ。
「……でもね……晴輝の気持ち分からなくもないよ」
「えっ!?」
「私……今……私の中には誰がいるか分からない……正直……複雑だから……」
私は振り返る。
「真裕……」
「でも、恋愛には悩みはつきものだから。晴輝はお姉ちゃんと幸せにならなきゃ……もし、何か引っ掛かってるなら距離おいてみたら?」
「楽しめない恋愛は楽しくないよ! 自分と見つめ合って素直になりなよ!」
私は走り去った。
「本当……気付けばアイツ元気付けられてんな……俺……」
ある日の事。
「ごめん、智耶」
私達の知らない所で、お姉ちゃんは、元彼の智耶を呼び出し二人は会っていた。
「別に良いけど余りコソコソ会うのは辞めた方が良いと思うけど……」
「分かってるけど、智耶しか相談出来ないんだから仕方ないでしょう? 付き合ってよ」
「それで? 晴輝とうまくいってんだろう?」
「その事なんだけど……私……晴輝君に無理させてるのかな? って…好きなんだけど……何処か複雑で、お互い何か違うって……そう感じるのよね……」
「…………」
「私自身も無理してるのかな?」
「思い過ごしじゃないのか?」
「そうかな?」
そんなある日 ―――――
「夏奈さん……俺達……距離おきませんか?」
俺は夏奈さんに、そう告げた。
「えっ? 晴輝君……?」
「夏奈さんも俺も、何処かボタンかけ違いしている気がするから」
「……そうか……分かったわ……」
そんな事があった事など知らない私は、その日のバイト帰り携帯片手で話をしながら帰っている途中 ―――――
「ハハハ…そうそう…それで……」
物思いにふけている晴輝の姿を見かけた。
≪晴輝……?≫
私は見て見ぬ振りをした。
「えっ? あ、ごめん……うん……それでね……」
私は少し話をして携帯を切った。
「は・る・き」
ピトッ
熱いコーヒーを晴輝の頬にあてる。
「熱っ!」
「アハハ……ごめーーん」
「お前なーー」
呆れたような、ちょっとお怒りモードの晴輝。
「大丈夫?」
「大丈夫じゃねぇよ!」
やっぱり不機嫌になった感じ。
「じゃあ病院行く?」
「その必要はねーよ!」
「そう? それよりどうしたの? ヘコヘコだね。お姉ちゃんとラブラブデートだったんでしょう?」
「ラブラブ…ねぇ~」
プシュ
缶コーヒーを開けると一口飲む晴輝。
「苦っ! てめー……これブラックじゃねーかよ! 人がブルーになってる時に意地悪はよせよなっ!」
「ブルーだから、トコトンブルーになる様にブラックコーヒー用意しといた」
「はあぁぁっ!? 意味分かんねーし!」
「まあまあ、そう怒らないの! 飲めるかな? と思って買ってきたから仕方がない。ごめん」
別の缶コーヒーと交換する私。
「これなら大丈夫?」
「ああ、まあブラックよりまし」
「こっちもあるよ」
「いや、こっちで……って……一緒じゃねーかよ!」
私はクスクス笑いながら、わざとからかう様に同じである缶コーヒーを見せる。
そんな私もブラックコーヒーを一口飲んでみた。
「うわっ! 苦っ! 無理無理! お子ちゃまの私には無理! 正に大人の味!」
「……バーカ」
他愛もない話をする俺達のやり取り。
久しぶりに会話をしている。
多分、コイツなりの励ましなのだろう?
何となく、そんな気がした。
俺達だから、こんな冗談も言える。
本当、気楽でありのままでいられる。と、思う。
「で? どうなの? お姉ちゃんとうまくいってるんでしょう? 両想いのハッピーエンドの先に見える二人の未来はバージンロードなんでしょう?」
「……別れた……」
「えっ!?」
「……つーか……距離おいた」
「……そっか……まあ、必要かもね? お姉ちゃんの事が良く分かんないって言ってたしね」
「まあな……」
「両想いなんだし、またより戻そうと思えば戻せるだろうし」
「……どうかな……? だと良いけど……」
「前向き、前向き! 弱気になるなっ! せっかく幸せ掴んだんだから。別れたり、より戻ったり恋愛にはあるあるじゃん!」
「そういうお前は、どうなの?」
「えっ? 私は……進展なし!」
「えっ? そうなのか?」
「うん。……中途半端でズルズルで……ハッキリしたいけど……本当、智耶さんには悪いなぁ~って……思う」
「……そうか……」
私達は、時間を忘れる位、話をしていた。
どれ位の時間が経っていただろうか?
「寒っ! ……いい加減帰ろうよ……」
「そうだな」
私達は帰る事にした。
スッと私の手を掴む晴輝。
ドキッ
突然の晴輝の行動に胸が大きく跳ねた。
「晴輝……?」
「お前の手冷た過ぎ!」
「心が優しいから」
「何処がっ!」
「晴輝は、心が冷たいから温かいだよ」
バッ
繋いだ手を離す晴輝。
「あっ!」
「もう繋がねーーっ!」
「良いよ。だって手繋いで欲しいって頼んでないし。それに私達、別に付き合ってるとかじゃないから。晴輝が勝手に……」
グイッと私の手を掴み引き寄せたかと思ったらキスされた。
ドキッ
胸が大きく跳ねた。
「!!!!!」
「お前、本当ムカツクなっ! 口減らず! 黙って繋がれてろ!」
「そこキスする所? 信じらんないっ! お姉ちゃんとキスすれば良いじゃん! する相手間違ってる!」
「うるせーー」
私達は騒ぎながら帰る。
そのまま私達は手を繋いで帰る。
アイツから伝わる手の温もりが
とても優しく温かく感じた
私は
この時間が
この瞬間が
すごく好きだった……
ねえ晴輝……
私達は
このまま友達のままなのかな?
私……
あなたのこと
知らない間に
心の中に
心の奥に
秘めた想いがあったのかもしれない