あたり前の時間
第9話
●それぞれの想い
スッ
突然、背後から抱きしめられる私。
「………智耶さん……ま、待っ……て……!」
それは、バイト終わった直後、店を出た時に遡る。
これは突然に起きた出来事だった。
バイト終了後、私の前に現れた智耶さん。
【送るよ】
智耶さんに、そう言われ、あたり前のように気にも止めず、車に乗る私。
普通に会話していつもと変わらない智耶さんの様子。
「ごめん、ちょっと寄りたい所あるんだけど」
「うん」
普通に言われ、そのまま車は移動する。
しばらくして車は海沿いを走っている事に気付く。
一旦、車を止め車から降りる私達。
「智耶さん、寄りたい所って海だったの? 夜の海って……」
フワリと背後から抱きしめられた。
ドキッ
突然抱きしめられた事に驚く私。
これが、現実に今起きている状況だ。
「ちょ、ちょっと……智耶さん………ま、待っ……て……!」
「俺の中に真裕ちゃんがいた」
ドキッ
突然の告白をされた。
「こ、困るよ!」
「俺の想い、夏奈も知ってる」
「……………」
「お互い別に好きな人が出来て別れたんだ」
――― そう ―――
気付いてた
バイトを始めてから
久しぶりに何度か
4人で出掛けた事が続いたのだ
そのとき
お姉ちゃんが晴輝を時々見ている事に
「返事はすぐにとは言わないから」
「智耶さん……」
「付き合わせてごめん……帰ろう……」
私達は、海を後に帰る事にした。
その日の夜 ―――――
私は晴輝にメールを送った。
♪~
『晴輝、智耶さんに告白された。突然の事で驚いてるんだけど……』
♪~
『お前の事、兄貴から聞いた。まさかとは思ったけど、一層の事付き合ったら?』
♪~
『晴輝にしてみれば嬉しい事だよね。話しによれば、お互い好きな人出来たって事だし』
♪~
『夏奈さんの視線は感じていたけど、もし、その相手が本当に俺だとしたら、俺は勿論、付き合うつもりだから』
♪~
『そうか……そうだよね……分かった……』
数日後の夜 ――――
「真裕」
「何?」
「真裕の中に……晴輝君は、どういう存在なの?」
「えっ!?」
お姉ちゃんが私に晴輝の事を聞いてきた。
「私、晴輝君が好きなの……想い伝えて良い?」
「……やっぱり……そうだったんだ……好きな人……晴輝なんだね……」
「それで、どうなの? あなたの気持ち教えて欲しいの」
「私は……」
あれ?
どうしてだろう?
付き合う付き合わないは
二人の想いだから 私が どうこうじゃない
何を躊躇しているのだろう?
アイツは
晴輝は ずっと片想いしていたんだ
私が1番分かっているはずなのに
どうして姉に
"付き合って良いよ"
と言えないのだろう?
「真裕?」
「私は……まだそんな簡単に智耶さんの事、好きになれないよ! だからって晴輝の事も、そういう風に想えないよ! 勝手過ぎるよ!」
「……真裕……」
「勝手にすれば?」
「えっ!? ……真裕……」
「付き合うとか付き合わないとか……そんなの……」
私は部屋を飛び出した。
「ま、待って! 真裕っ!」
♪~
『もう勝手にして! お姉ちゃんと喧嘩した! お姉ちゃんに告りなよ。御幸せに!』
そんな中、津盛家では ――――
「兄貴、俺、夏奈さんと付き合って良いかな?」
「えっ? 急にどうしたんだ?」
「兄貴は、今、真裕が好きなんだろう?」
「……真裕ちゃん? ああそうだけど」
「だったら良いよな?」
「晴輝?」
「俺、ずっと我慢してきた。二人のデートにいっつも付き合わされて、辛い思いしてきたんだ!」
「えっ? 晴輝……お前……」
「途中からアイツ……真裕が参加するようになって、アイツには俺の夏奈への想い知ってる中、いっつも俺に接してくれてた」
「晴輝……」
「ともかく、俺、夏奈さんの事、ずっと好きだったから、それ分かって欲しい」
「…………」
俺は自分の部屋に行く。
すると携帯にお知らせメールのランプが点滅している事に気付く。
「メール?」
俺は携帯の画面に目を通す。
「真裕?」
ガチャ
俺は部屋を飛び出す。
「ちょっと出掛けて来る!」
「えっ!? 何処に行くんだっ! 晴輝っ!!」
バタン
「あの、馬鹿っ! 何考えて……危な過ぎだろ!?」
俺は、無我夢中で、街中を探す。
俺自身も何故、部屋を飛び出したかは分からなかった。
○街中
私は一人ブラつく。
「ヒュー、彼女可愛い~♪」
「こんな時間に一人?」
「ねぇ、遊びに行かない?」
「結構です!」
「良いじゃん!」
夜の街。
次から次と男の人が声をかけられる。
私は足早に去った。
夜道は一人じゃ危ないって分かっていた。
私は、バイト先に行く。
勿論、開いていないのは承知だった。
案の定
【close】
の札が下がっていて、店内も真っ暗だ。
時間は、11時を廻っている。
「本当……馬鹿だ……」
帰ろうとした、その時だった。
「……真……裕……?」
名前を呼ばれ振り向く視線の先には ――――
「……晴……輝……?」
スタッ
走り去ろうとする私。
グイッと腕を掴まれた。
「待てよっ!」
バッと掴まれた腕を振りほどく。
「離してっ!」
「こんな時間に女の子一人危ねーだろ!? 何、考えてんだよ!」
「……でよ……何でよ! ……どうして……?」
部屋を飛び出した挙げ句、私の前に現れたのは、いつも憎まれ口を叩き合う晴輝の姿。
会えたのが奇跡と言うべき名のだろうか?
「真裕……」
「私なんか放っておいて! 晴輝は、お姉ちゃんの傍にいてやれば良いじゃん! 私は一人で良いし! どうせ私の事で心配しているだろうし! 晴輝から私は大丈夫だからって伝えて! 今更ノコノコ帰る気ないから」
走り去ろうとする私の腕を再び掴む。
「だったら、俺ん家に行けよ! 兄貴には言っておくから!」
「相手の想いを知ってる所にいろって? 私の気持ちは一切ないのにいられるわけないじゃん! 友達の所にでも行くから! 放っておいて!」
「お前、今、何時と思ってる訳!? 夜、11時を廻ってんだぞ!」
「……………」
「……晴輝は……良いよね……お姉ちゃんと相思相愛になるのは目前だし……」
「……真裕……とにかく帰ろう。未成年の俺達が、こんな時間にウロウロしていたらアウトだから。現時点で捕まっていないのが 奇跡だから」
私達は、一先ず移動しながら晴輝は智耶さんに連絡している様子。
「……ごめん……晴輝……」
「……真裕……」
晴輝が、お姉ちゃんと付き合う事になったら
私達の関係も崩れていく?
こうやって肩を並べて歩く事もなくなる
バカしあう事も
憎まれ口を叩き合うことも………
「……晴輝、片想いが実る時がきて良かったね」
真裕が笑顔で言う表情の中に
何処か寂しさがあった
俺も両想いになり
相思相愛になれる所で
嬉しいはずの思いの中
何処か寂しさを感じた
心の底から喜ぶ事が出来ない俺がいた
「……真裕」
「……晴輝」
私達は同時に口を開いた。
「「何?」」
私達は再び同時に口を開いた。
「…………」
「お前が話せよ」
「……うん……お姉ちゃんと……付き合う事になったら……晴輝との時間なくなっちゃうね……」
「えっ?」
「バカしあったりするのは流石に出来ないよ。憎まれ口叩き合う事も……多分、4人で出掛ける事はなくなるだろうし……」
「そうだろうな」
「…………」
「……どうしてだろう?」
「えっ?」
「晴輝が、私と会うまえからずっと片想いしていた事知ってるのに…素直に心からおめでとうって言えない……お姉ちゃんに付き合って良いよって……別に晴輝に特別な想いがある訳じゃないのに……私……」
グイッと抱きしめられた。
ドキン
「晴……輝…? どうし……」
抱きしめた体を離し片頬を優しく触れる。
ドキン
「……俺も……夏奈さんの事は嬉しいはずなのに……何か引っ掛かってる」
「えっ?」
「どうしてだろうな……」
「そんなの……私が……」
キスされた。
ドキン
「悪い……何かあったら……俺の傍にいてくんねーかな?」
「……晴輝……な、何、弱気なってんの? 晴輝は幸せにならなきゃ駄目だよ! ずっと片想いしてたんだから! 順番が回ってきたんだから」
「……そうだな……」
再び私を抱きしめる晴輝。
お互い何の想いもないのにキスを交わした私達。
私達の未来は
どんな未来が待ち受けているの?
その後、私達は智耶さんと合流し、私はお姉ちゃんの所に戻る。
そして、晴輝は、お姉ちゃんから告白され付き合う事にした。