フリークスへようこそ
私達はここから出られない。
私達は何の為に存在しているのか。
そんな事を考えられるのは私だけ。
他の子達は最初からここにいるから言葉を話したり思考したりしない。
私は最初からここにいた訳じゃない。急に連れてこられたんだ。
私は12歳になった頃から成長が止まった。
パパやママはそれでも私を愛してくれた。
でも、ここに連れてこられた。
もうお父さんやお母さんは生きていないかも知れない。
毎日毎日痛い事をされる。
それでも私は死ななかった。
手足をちぎられたって生きてる。
とても痛いけどまた生えてくる。
奴らはそれを虫でも観察する様に見てるだけ。
他の子達も同じ。他の子達は皆目が1つだったり、手が沢山あったり、とても大きかったりする。
でも皆共通して死ぬ事は無かった。
異形のバケモノ《フリークス》、そう奴らは私達を呼んだ。
他の子達は私みたいに外に出た事が無いから外に出たいと思わない。
言葉も知らないからコミュニケーションも取れない。
ただ行動でお腹が空いた、とか痛いとかって言うのを表してる。
どうせ誰も助けてくれないから表すだけ。我慢出来ないから。
私はそれが可哀想だと思った。
だって、美しい朝焼けも燃えるような夕日も突き抜けるような青空も飛ぶ鳥も虫も草や花も見た事がなくって。
それを見て心が震える事も、嬉しいと思ったり悲しくなったり、愛しいと思う事も無いんだから。
私は他の子達に絵を描いて見せた。
これが空、これが雲、これが鳥だよって。
みんな最初は興味を示さなかった。
毎日体の何処かが痛いからそれどころじゃ無かったのかも。
でも5号と呼ばれる1番体の大きな子が私の下手くそなうさぎの絵をみて初めて少し笑ったの。
私がきっとこの絵をみて下手くそすぎて笑ったからマネをしたのね。
そうしたら他の皆も絵を見て口元を歪ませた。それが笑うって事だよ、って笑った口で笑う、って教えた。
そうしたら2番目に小さな6号があーとかうーとしか言えなかったのに、小さな声で「わらう」って言った。
そうしたら皆拙いけれど「わらう」という言葉を覚えた。
それから悲しいや楽しいも教えた。
怒るって感情はよく理解出来ないみたいだった。私はいつも奴らに怒っているけどそれがよくわからないみたい。
逆に他の子達は怖いっていうのはすぐに理解した。奴らが来ると怖いになるって言ってた。
私は一生懸命絵本を作った。昔ママに読んでもらったお姫様と王子様の話。
これで愛しいを教えようとしたんだけど難しかった。まだ早かった見たい。
だから、他の愛って何かなって考えた時にパパとママが浮かんだ。
だから私は皆のママになろうって思った。
パパにはなれないから、いずれパパは探す事にする。
皆に私をママって呼ばせて、ママみたいに皆を可愛がった。
そうしたら私も皆の事がすごく可愛くなって愛しくなった。
皆も私をママと呼んで慕ってくれるようになった。だから愛してると大好きって言葉を教えた。
夜は皆のベッド6個全てまわって布団をかけておでこにキスをしてまわった。
ママが私にそうしてくれたから。そうするととても幸せに眠れるの。
朝になるとまた奴らがやってくる。
だから夜くらいは幸せに眠れるように。
ある日突然部屋を移動させられた。
すごく焦っていたから何かあったのかもしれない。
目隠しをされて拘束された後多分荷台か何かに乗せられて夜中に移動した。
皆怖いと言ったから大丈夫、大丈夫と繰り返した。
私がいじめられた時ママがそう言ってくれたから。
移動させられた先の部屋には窓があった。
頑丈な格子と網が付いていて高い所にあるから外は全然見えないけど初めて陽の光が部屋の中に入る環境になった。
皆にこれが太陽の光だよって教えたけど電気の光との違いがあまりわからないみたい。
本当はこの先にある青い空や太陽、たまにふる雨を見せてあげたいけどこの窓じゃ見るのは難しそうだ。
ここに来てから奴らは毎日くる事が無くなった。でもすごくイライラしていて来るときはうんと酷い目にあった。
私が痛いや怖いを教えてしまったから、皆もっと辛くなってしまったかもしれない。
でも私がごめんねと言うと皆はママが大好きと言った。答えになっていないけど、それが答えだと思った。
私の可愛い子供達。
この子達にもっともっと広い世界を見せてあげたい。
私は子供達に名前を付ける事にした。
番号で呼ぶのは嫌だから。
1号は可愛い女の子。目が1つしか無いんだけど凄く遠くまで見る事ができる。絵本が大好き。アシュリーと名付けた。
2号は1番小さな男の子。見た目は人間と変わらないけれどお腹に大きな口がある。おしゃべりが好き。ルディーと名付けた。
3号は私よりも大きな男の子。腕が6つもあって便利そう。皆の面倒をよく見てくれる。ビクターと名付けた。
4号は男の子でも女の子でもない。白い肌に赤い瞳で鋭い歯と爪がある。でも1番の怖がり。フィオと名付けた。
5号は体の大きな男の子。本当におっきくて毛が無い。力があって私を片手で抱っこできる。でも1番甘えん坊で最初に笑うを覚えた子。ビルと名付けた。
6号は2番目に小さな女の子。兎さんの耳が付いていて目も全部赤いのが兎さんと一緒で可愛い。可愛いが好きでアシュリーについて回ってる。ダリアと名付けた。
それぞれの名前を教えてあげるとそれぞれ名前を呼びあって楽しそうにしている。
やっぱり名前は大事だよね。
その夜、格子窓からうわあ!と叫び声が聞こえた。
捕まってから初めて聞く奴らではない声だった。窓をよく見つめると男の子が立っているようだ。
「ねえ、あなたは誰?どうしてここに来られたの??」
「お、お前ら!!何なんだよ!!」
「私達はフリークス、そう呼ばれているよ。ねえ、どうしてここに居るの?」
「お、俺、ただ怪しい奴らがここに住み始めたって聞いたから確かめにきたんだよ!!」
「しーっ!見つかっちゃうよ!見つかったらきっと殺されちゃうよ」
「だ、誰にだよ。お前ら閉じ込められてるのか…?悪い事した奴らなのか?」
「…違うよ。私も子供達も悪い事なんてしてない。奴らが私達を閉じ込めて酷い事をするの」
こうしてこの男の子に外の状況を聞いた。
ここは半地下になっていてこの格子窓は地面から近い位置にあるらしい。
男の子が危ないと思ったから、それだけ聞いて帰ってもらった。
でもそれからこの男の子は時々現れるようになった。アシュリーはママの書いた絵本みたいねって言ってた。
男の子は事情を話すうちに私達が可哀想だって言ってくれた。
そして私達にここを出たいか聞いて帰ってしまってから暫く来なくなってしまった。
久しぶりに寂しい、と思った。
こんな気持ちになったのはママとパパと引き離されてから初めてだった。
暫くして男の子は現れた。
そして明日ここを出ようと言った。
私はどうやって?と聞いたら俺が何とかする、と言った。
こうして明日の月が真上に登る頃脱出する事になった。
私達は彼が来るまで逃げ出すなんて考えた事がなかった。外にどれくらい奴らが居るかもわからないし、逃げ出せるなんて思ってなかった。
でも、子供達に外の世界を見せてあげたい。私にできる事なら何でもしたいと思った。
子供達には明日ここを出ると伝えた。
もしかしたら凄く痛い目に合うかもしれないし、失敗するかも知れない。
でも初めて手にした希望に胸が高鳴った。
皆、それぞれ出来る事をする様練習した。
アシュリーは夜目が聞くので逃げる際の監視を、ダリアは耳がいいので物音に注意する。
他の子達と私はいざという時奴らに対抗するためにベッドの柵を解体して武器にした。
そして夜がやってきた。
男の子は何処から手に入れたのか普通に鍵を開けて入ってきた。
初めてかれと対等したけれど、ビクターと同じくらいの男の子でこんなに行動力があるようには見えない男の子だった。
挨拶もそのそこに静かに外へ踏み出した。
子供達は初めての外だ。
狭い部屋以外の景色を始めてみたのだ。
ここは森に囲まれた敷地内にある小屋だったようで辺りに人影はない。
奴らは私達が逆らう事はないと、油断していたのだ。小屋の周りには特に罠などは見当たらない。
子供達を大丈夫、大丈夫と落ち着けて静かに踏み出す。
奴らの住んでいる場所はすぐ近くだ。
灯りがともっているが人影はない。
男の子が先導して歩いていく。
門には人が立っているので外から来るものに対しては警戒しているようだ。
ダリアが急にくる!と言うとこちらを光が照らした。
怒声が聞こえ奴らが走ってくるのが見える。
私は覚悟を決めて子供達を連れて行くように男の子に言った。
彼は拒否したが私は無視して奴らに向かって走って行く。
私の力だけで抑えられるとは思わない。でも子供達が、もっと外の世界を見て笑ってくれるのならそれでもいいと思った。
ベッドの柵を構えて突っ込んでいく。
でもすぐに蹴り飛ばされる。それでも立ち上がって出来る限りの唸り声をあげて何度も柵を振り回した。
何度かそうしていると銃声がして左肩を撃ち抜かれた。痛い痛い痛い。
でも、逃げる訳にはいかない。力の入らない左手から右手に柵を持ち替えて立ち上がる。
その様子に奴らはすこし怯む。その隙をねらって1人の頭を思いっきり殴るとそいつの頭から血が出た。
それに逆上して私を押し倒して殴り続けた。
あぁ、意識を失ってしまう。だめ、もう少しだけ頑張らないと。
力の入らない手で辺りを探るが使えそうな物はない。その手からも力が抜けそうな所で私の上にいた男の首が取れた。
血が噴き出て降り注いだ。
は…と思ってゆっくり立ち上がるとフィオが立っていた。
この子は、1番怖がりで奴らが来る前はいつも私に抱きついて震えていたのに…。
あぁ、フィオは怒るを覚えたのだ。
「ま、ま。痛い、だめ!」
「…ありがとう、フィオ。私の可愛いフィオ。ダメじゃない危ない事しちゃあ」
「だって、だって、まま、居ない、やだ!」
その言葉を聞いて私の過ちに気付く。
そうだよね、ママと離れ離れは嫌だよね。
そうこうしているうちにまた奴らがやってきている。逃げなくては。
フィオに手を貸してもらって立ち上がると何故か他の皆も戻ってきた。
そうして奴らと対当することになってしまった。
私はその様子を見ている事しか出来なかった。でも、皆いつのまにかこんなにも成長していたんだ。
アシュリーに向かって行く奴をビルが叩き潰す。アシュリーとダリアは囮役のようだ。
ルディーは捕まったふりをしてお腹の大きなくちで奴を噛み殺した。
ビクターは6本の腕で奴らを捕まえて絞め殺した。
あぁ、私の可愛い子供達。こんなに汚れてしまって。外に出たら可愛い服を着せてやりたい。
男の子はいつの間にか私の横に立って私を支えてくれている。
この男の子がいなければ私達はこうして戦う事も出来なかっただろう。
「…ありがとう、来てくれて」
「いや、これ、お前らだけでも大丈夫そうだったな」
「そんな事ないよ、君がいたから私達は外に出られたんだ」
微笑みかけると男の子は少し赤くなる。
あぁ、私の王子様。
アシュリーの言う通り、王子様が私を救い出してくれた。
怒声が聞こえなくなって子供達がこちらに歩いてくる。所々怪我をしているが奴らに痛めつけられるより断然軽い傷だ。
あぁ、こんなにも簡単な事だったのね。
なぜ私達は逃げ出そうとしなかったのかな。
騒ぎを聞きつけた奴が来る前に皆で男の子のほった塀の下の穴から外へ抜け出した。
こうして私達は自由になったのだ。
ここは丘の上にある森の中だったようで少し行くと街へ続く道へ出た。
坂から朝焼けが見える。美しいグラデーションに心が震える。
「私の可愛い子供達、これが朝焼けって言うのよ!あれが鳥、あれが雲!草や木だってあるわ!花もある!」
「ママ、嬉しい、だね」
ルディーは両手をいっぱいに広げてくるくると回った。
みんな一様に空を見上げて初めての涙を零した。
数年後ある噂が流れた。
新しく街に来たサーカス団。
名前を《フリークスサーカス》という。
異形の美しい者たちが華やかな芸を披露する。
珍しい事に皆団長であろう幼い少女をママと呼び、異形でない青年をパパと呼んでいる。
1つの街には滞在せずいろんな街に現れては異形の仲間を増やして旅をするサーカス団。
いつか、見てみたいものだ。
実はこれ私夢で見た話なんですけど、ちょっと付け加えただけでほぼこのストーリーのまま夢で見ました。
自分の妄想力に自分で驚きました。