バウンティーハンター
賞金首
世の中には様々な悪党が存在する
騙す者
奪う者
壊す者
そんな者達は危険と判断されれば、賞金首として賞金を掛けられ、手配書が貼られる
賞金稼ぎ(ハンター)
そんな賞金首を捕まえる、或いは殺す事で金を稼ぐ者達
1人で行動する者
仲間と協力する者
他人を利用する者
悪党を許せない者
そんな者達が情報を集め、賞金首を追い掛ける
しかし、勘違いしてはいけない
賞金稼ぎ(ハンター)は決して正義の味方ではないのだと
・・・・・・・・・・
様々な種族が暮らす世界
『ワルストレイク』
昔は種族間で戦争があったりと対立していたが
現在はそれぞれの特性を生かして助け合い、生きる
そんな時代
バン!!
「おい聞いたか? また虐殺だってよ!」
「ああ、例の『首狩り』だろ? 懸賞金がまた上がって、遂にAランクになりやがった」
それでも悪党は現れる
「また犠牲者が出た、ほら『サイコパス』にぐちゃぐちゃに弄くられたらしい」
「肉の塊にされたのに、死ねずに苦しんでたらしいな……追ってたハンターがそれ見て引退したってさ」
悪党は好き勝手に他人を苦しめる
「『国崩し』の目撃情報だってさ!」
「Sランクの? もう何百年も語られてる奴だろ? 実在してんのかよ?」
そんな悪党を捕らえようにも、国が派遣する兵では処理しきれない
そこで国は考えた、悪党に賞金を掛けて、実力があるものに始末してもらおうと
その為の組織を作った
ギルドには様々な実力者が集まった
ギルドは集まった実力者達に賞金稼ぎ(ハンター)という肩書きを名付けた
しかし、問題が起きた
ハンターと悪党……賞金首で実力差が有りすぎて、何十人ものハンターが死んでいったのだ
それを問題と見たギルドはランク制度を作った
ハンターと賞金首
それぞれにFからSのランクを付け、ランクに見合った賞金首の討伐をハンターに依頼する
こうすることで、無謀な相手に挑み、殺される事は減ったのだった
「…………」
そんなギルドの1つの支部に1人の男が現れた
「……こいつかな」
男は掲示板に貼られている手配書を1枚剥がし
ギルドの受付に持っていく
「頼む」
「はい、畏まりました……えっと……ハンターさんのお名前は?」
「『ベルフ』」
「…………あ、あったあった、Cランクのハンターさんですね! えっと手配書の方は……はい、Cランクの『魔物使い』ですね! 受理しました! こちらが魔物使いの資料です!!」
男……ベルフは資料を受け取ると、ギルドを後にした
・・・・・・・・・
ここは平和な田舎村『ルトの村』
付近には多くの森が存在し、村人達は畑の収穫物と森の恵みである果物や獣を狩って暮らしている
「むー!」
その村に暮らす少年『クリス』は退屈していた
まだ幼いクリスは村を出ることを許されておらず、毎日繰り返す畑仕事に嫌気が差していた
「クリス! 空なんか見てねえで働け!!」
そんなクリスを彼の伯父が叱る
「やー! もうあきたー!!」
「働かねえなら飯抜きだぞ!」
「ぶー!」
渋々働くクリス
そんな時だ
「た、大変だぁぁぁぁ!!」
村人の1人がやって来た
「なんだ! どうした!!」
「?」
伯父が村人と話すと、ただでさえ怖い顔を更に険しくした
「クリス!!」
「うわぁ!?」
伯父がクリスを抱き上げる
そして村の広場に向かって走り出した
クリスは何がどうなってるのか理解できずに困惑していた
広場に辿り着くと、殆んどの村人が集まっていた
「クリス、お前はここに入ってろ! いいか? 絶対に出るなよ!!」
伯父はクリスを小屋に叩き込んだ
「……なんなの?」
クリスは立ち上がり、小屋を見渡す
そこには村の子供達が集められていた
「…………?」
クリスは首を傾げる
なんで小屋に集められたのか?
どうして子供だけなのか?
考えてもわからないクリスは、大人達の話を盗み聞きしようと、小屋の扉に手を掛ける
ガチャガチャ
「あ、あかないや」
閂を掛けられたのか扉は開かない
小屋に閉じ込められた
「…………」
考えても仕方ないと思ったクリスは、小屋に集められた他の子供達と遊んで時間を潰すことにした
・・・・・・・・
ルトの村の大人達は怯えていた
「良いか? 子供達は必ず守るんだぞ?」
村長が大人達に言う
『おう!!』
大人達は農具を構えて答える
この行動には勿論理由があった
というのも、普段は見かけない魔物が近くの森に現れたのだ
魔物を目撃したのは兄弟二人組の狩人だ
兄の方が先に魔物に気付き、弟に伝える
弟が魔物を確認した時、魔物が二人に気付いた
それからあっという間の出来事だった
一瞬で、兄が魔物に噛み砕かれた
弟は理解が遅れた、目の前に兄の頭が落ちた時に脳が状況を理解し、彼は村に全力で逃げた
そして村人達に魔物の存在を伝えたのだ
村人達はすぐに行動を開始した
先ずは武器を集める……農具や3本しかない剣だ
次に村人を1ヶ所に集めた
魔物が村に攻めてきた時に全員で協力して倒すためだ
そして、子供達を小屋に避難させた
すぐに出来ることはやった
後は魔物を仕留めるだけだ……
『ゴォアアアアア!!』
聞いたことがない叫び声
魔物が村に来たのがわかった
村人達は魔物に立ち向かうのだった
・・・・・・・・・
「……なにいまの?」
クリスは外から聞こえた声に首をかしげた
次の瞬間
バキボキ!!
「うわぁぁぁ!?」
「きゃぁぁぁぁぁ!?」
小屋の屋根がぶっ飛んだ
「!?!?!?」
クリスは空を見上げる
「ゴォアアアアア!!」
そこには大きな生き物が小屋の中を覗き込んでいた
口には赤い液体がついている……
「ひっ! ひぃぃぃ!!」
「おかあさぁぁぁぁん!!」
「うわぁぁぁぁん!!」
小屋に居た他の子供達が泣き出す
バキボキ!!
大きな生き物が小屋の扉を……扉があった壁を破壊する
そこでクリスはやっと村の様子が確認できた
大人達が倒れてる
赤い液体をべっとりとつけて……
伯父も倒れていた
「ゴォアアアアア!!」
気がついたら大きな生き物はクリスの目の前に立っていた
「…………」
クリスは動けなかった
子供ながら理解できた、自分はこれから死ぬのだと……
「……ぁ」
身体が震えてきた
怖い怖い怖い
ジョロロロ……
凄まじい恐怖に漏らす
「ゴォアアア!!」
大きな生き物が口を大きく開く
「あ……うぁ……うわぁぁぁぁぁ!!」
食べられる!
涙を流しながらクリスは叫んだ
「ぬぉぉぉぉぉ!! 逃げろ! クリス!」
「おじざん!?」
倒れていた伯父が大きな生き物を後ろからしがみついて引っ張った
「ゴァ!」
「ぐわぁ!」
大きな生き物が腕を振るうと、伯父は吹っ飛ばされて、壁に叩きつけられた
「おじざぁぁぁん!?」
クリスは伯父の側に駆け寄る
「ゴォアアア!!」
「!!」
大きな生き物がクリスと伯父に向かってくる
「!!」
今度こそ食べられる!
クリスは伯父にしがみついて目を閉じる
ドシュ!
グチュ!
肉を裂き、潰す音が響いた
…………
「?」
しかし自分は何ともない
クリスは目を開けて伯父を見る
伯父も潰された様子はない
大きな生き物の方を恐る恐る見る
「ゴ……ゴガ!」
「これは間に合ったと言うべきなのか?」
大きな生き物がバラバラになっていた
クリスと大きな生き物の間には男が1人立っていた
「……間違いないな、『魔物使い』の印がある……餌としてこの村を襲わせたか」
男は肉片となった大きな生き物を見て呟いた
「んっ? おお、気が付いたか? ガキんちょ」
男がクリスの視線に気付く
「え、えと……おじさん誰?」
「おじさん……俺はまだ18なんだが? まあいい、俺はベルフ……Cランクのハンターだ……って言ってもガキにはわからんだろうな」
ベルフはそう言うと伯父を持ち上げる
「ガキ、怪我の治療をするから他の奴等と一緒に包帯やら薬やら集めてこい、もう魔物は居ない筈だが、何かあったら叫べよ? 直ぐに駆けつけるから」
そう言ってベルフは歩き出した
「……」
クリスはまだ混乱していたが、他の子供達と一緒にそれぞれの家から治療道具を集めるのだった
・・・・・・・
「ベルフ殿、この度は助けられました……」
村長がベルフに頭を下げる
「気にするな、これも仕事だ」
ベルフはそう言うと数枚の紙を取り出して村長に渡した
「この男を知らないか? 『魔物使い』って名称で呼ばれてる賞金首だ、今回の魔物の襲撃もコイツが起こしたんだが……」
「……申し訳ありませんが、見覚えがありませんな……村の皆に聞いてみますが……」
「ああ、そうしてくれ、あとここら辺で人が隠れて住めそうな場所ってあるか? 洞窟とか空き家とか」
「それならば、森の奥に洞穴があった筈……」
「洞穴か……少し探ってみるか……場所を教えてもらえるか?」
・・・・・・・
ベルフは森の奥に向かって行った
「おじさん死なない? 大丈夫だよね?」
その頃、クリスは手当てを受けた伯父の心配をしていた
「ああ、血も止まった、あとは寝とけば良いらしい、俺の事はもういい、クリス、お前ももう寝ろ、疲れただろ?」
「やっ! おじさんの側にいる!」
「なら一緒に寝るか?」
「うん!」
クリスは伯父の隣に寝転がる
少ししてから小さな寝息をたてるのだった……
「…………お前だけは、守ってやるからな」
伯父はそう言ってクリスの頭を撫でるのだった
・・・・・・・
「……どうやら遅かったみたいだな」
ベルフは洞窟に辿り着いていた
洞窟にはさっきまで人が居た痕跡が残っていた
「拠点を変えたな……だが、そう遠くには行ってない筈……暫くは村の周辺を探るしかないな……」
そう言ってベルフは洞窟を後にしようとして……
「んっ? なんだこれ? 足跡? ……デカイな」
ベルフは足跡に触れる
「まだ温かい……さっきまでここに足跡の主が居たか……魔物使いの切り札か?」
ベルフは少し考えてから
「仕方ない、ギルドに連絡しておくか……予想よりも厄介な相手になりそうだ」
そう呟いてから、ベルフは村に戻った
・・・・・・・・
それから数日間
ベルフは村の周辺を調べた
「ちっ、魔物使いの野郎……拠点を変えるくせに、あの村から離れようとはしないな……村に何かあるのか?」
「…………」
「……おいガキ! 隠れててもわかるんだぞ! 出てこい!!」
ベルフは振り返って叫ぶ
「うわぁ!」
クリスが驚いて隠れていた茂みから飛び出す
「一昨日から付きまとってたよな? 何のつもりだ?」
ベルフはクリスに歩み寄り、威圧する
「あ、あの……おじさん……僕達を助けてくれたから……あ、ありがとうって……言いたくて」
「俺はおじさんって歳じゃねえ!!」
「ひゃう!?」
「ったく! それと勘違いするな、俺はお前達を助けたつもりはない、仕事で邪魔だったから魔物を殺しただけだ」
「で、でも……」
「はいはい、礼は聞いた、さっさと村に帰れ、俺はお前と遊んでる暇はないんだ」
「……うん」
クリスは帰るために歩き出した
「……ったく」
ベルフはクリスの姿が見えなくなるまで見守ってから、調査を再開した
・・・・・・
翌日
「よし、やっと尻尾をつかんだな」
ベルフは森でたった今殺した数体の魔物の死骸を調べて頷く
「魔物使いの印が全部ついてる……奴が近いな」
「なんでわかるの?」
「コイツらは見張りだ、獲物なら襲い掛かり、敵なら主に危険を知らせる役目を任された魔物だ、それを仕留めたんだ、まだ魔物使いは俺に見つかったとは気付いてない…………っておい! なんでガキがここにいる!!」
ベルフは隣に立つクリスに驚く
「ここ、僕達の遊び場だよ?」
クリスは不思議そうに聞く
「おいおい、こんな魔物がうろついてる時に森に入ってくるんじゃねえよ! まさかお前以外のガキも?」
「ううん、僕だけ、おじさんの手当て用の薬草が無くなってたから取りに来たの!」
「それなら後で俺が持っていってやるから、お前は今すぐ帰れ!!」
「でも……すぐそこだし……」
「いいから帰れ! この森は危険だ!!」
「……はぁい」
ベルフの真剣な表情を見て、クリスは言うことを聞く
「…………」
クリスの姿が見えなくなるまで見送ったベルフは、魔物使いの拠点に向かう
・・・・・・・・・
「…………」
クリスは落ち込んでいた
薬草を手にいれたら直ぐに帰るつもりだったのだ
それなのにあんなに怒鳴られて……
「はぁ……あっ!」
ふと、横を見ると、目的の薬草が生えてるのが見えた
少し道から外れてしまうが、ちょっとくらいなら平気だろう
クリスはそう思って薬草を取りに行った
「これだけあったら大丈夫だよね!」
クリスは両手いっぱいの薬草を満足そうに見る
そして村に戻ろうとして振り返り……
「グルルルルルル!!」
「……へっ?」
・・・・・・・・
「ちくしょう! 殺られてたまるか!!」
「待ちやがれ!!」
その頃、ベルフは逃げる魔物使いを追い掛けていた
魔物使いの拠点を襲撃し、彼の配下の魔物を殲滅した
その間に魔物使いは拠点から逃げ出したのだった
そうやって追い続けていたら、2人は森の拓けた場所に着いた
魔物使いの目の前には大きな岩壁があった
「行き止まりだな……追い詰めたぞ魔物使い!」
ベルフは構える
「追い詰めた? それは俺のセリフだ!! 出てこい!!」
ピュー!!
魔物使いが指笛を吹く
するとベルフを囲むように森の中や岩壁の上から50体程の魔物が姿を現した
「俺の最高傑作達だ!! 村を襲わせた奴や見張りの奴とは格が違う!! くたばれハンター!!」
魔物使いが再び指笛を吹く
ピュー!!
それを合図に魔物の半分がベルフに襲いかかる
「……ちっ」
ベルフは舌打ちする
そして魔物がベルフに群がった
「ははははは! 死ね! 死んじまえ!」
勝利を確信した魔物使いは叫ぶ
しかし……
『ガァァァァァァ!!』
魔物の叫び声
それが響いた瞬間
ボワッ!
一気に群がった魔物が燃え出した
「んなっ!?」
驚く魔物使い
そして炎が消える
そこには無傷のベルフだけが立っていた
「……この程度か?」
ベルフは呆れたように言う
「ちっ! 魔法を使えたか!」
「どうする? 降参するなら殺さないが?」
ベルフは降参を促す
「ふ、ふざけるな!」
魔物使いが叫ぶ
その時だ
「うわぁぁぁぁぁ!!」
『!?』
子供の悲鳴が近付いてくる
そして……
「は、はなせぇぇぇ!!」
「!? ガキ!!」
クリスが狼の魔物に左脚を噛まれた状態で運ばれてきた
狼の魔物は魔物使いの側に止まる
「は……ははは! 形勢逆転だな! おいハンター!! このガキは人質だ! ガキを無事に帰したかったら動くんじゃねえ!!」
魔物使いは叫ぶ
「……お前は馬鹿か? 何の縁もないガキが人質になるわけないだろ? おいガキ! 大人しく殺されておけ!! それが大人の言うことを聞けなかった罰だ!」
「っ!!」
クリスは目を見開く
ベルフは自分を助ける気など無いのだと聞かされたのだ……
「う、うぅ……」
泣き始めるクリス
ただ、伯父の為に薬草を取りたかっただけなのに……なんでこうなったのかと後悔する
「そうか……ならこのガキは殺そう……」
魔物使いがそう言うと……
「っ!」
「んっ? おいハンター、動揺してるな? 本当にこのガキを殺していいんだな?」
「…………くっ!」
明らかに動揺しているベルフ
「……おじさん」
「だからおじさんじゃねえって言ってんだろ!! ……ああくそ!! おい魔物使い! 動かなかったらガキを見逃すんだな!!」
「ああ、約束しよう、ちゃんと村に生きたまま帰してやるよ」
「……ちっ」
ベルフは両手を下げる
「お前ら! ハンターを殺せ!!」
魔物使いが叫ぶ
残りの魔物達がベルフに襲いかかる
「おじさ……ベルフ!!」
クリスが叫ぶ
「……おい! 魔物使い!」
ベルフが叫ぶ
左肩に魔物が噛みつく
「もし、ガキに何かしてみろ!」
右足に魔物が噛みつく
「その時は……お前を苦しむ方法で殺してやる!!」
魔物が群がる
ベルフの姿が魔物で見えなくなる
ブシュ!
魔物が群がる隙間から血が噴き出した
「あ、あぁ……」
クリスは目を見開く
何でこうなったのか……
自分が真っ直ぐに村に戻らなかったから
自分が人質になってしまったから
自分のせいでベルフは殺されてしまった
「う、うわぁぁぁぁぁぁ!!」
クリスは泣いた
大声で泣いた
「さてと、後は村を襲うか」
「!?」
魔物使いの言葉にクリスは驚く
「な、なにもしないんじゃなかったの!?」
クリスは叫ぶ
「あっ? 何言ってんだ? 奴との取引はお前を生きて村に帰すことだろ? ちゃんと帰してやるよ、その後は村の連中と一緒に魔物の餌にするがな! はははははは!!」
魔物使いは笑う
愉快そうに笑う
「……くそ……うわぁぁぁぁ!!」
クリスは暴れる
しかし、狼の魔物はクリスから牙をはなさない
「うるせえな! 少し静かにしろ!!」
魔物使いはクリスを殴ろうとして右腕を振り上げ
ブン!
っと振り下ろした
ビチャ!
「……あっ?」
「!?」
魔物使いは理解出来なかった
自分の右腕が無くなってる事を
クリスは魔物使いの血が顔にかかって驚く
「なっ! あ……がぁぁぁぁぁ!!」
魔物使いは痛みに叫ぶ
「言ったよな? ガキに何かしたら……苦しむ方法で殺すってな」
ベルフの声が聞こえる
「ハ、ハンター!?」
魔物使いは群がる魔物を見る
次の瞬間……
「ガァァァァァァ!?」
「グォォォォォ!?」
魔物達の断末魔が響き
バラバラになった
そしてベルフの姿が現れる……
「な、なんだよその姿は!?」
魔物使いは驚く
クリスもビックリしている
ベルフの姿が変わっていたのだ
身体中に鱗が現れ
背中には大きな羽
蜥蜴の様な尻尾も生えている
そして、頭には2本の角が生えていた
「これから死ぬ奴に教える必要は無いだろ?」
ベルフがそう言うと、いつの間にかクリスを抱き上げていた
「!?」
魔物使いは左を見る
クリスを咥えていた狼の魔物が首を千切られて死んでいた
「……傷は思ったよりは深くないか、他に痛いところは無いか?」
「う、うん……」
クリスは何が起きてるのかまだわからない
そんな状態でベルフを見る
ベルフのさっきまでと違う鋭い目と目が合う
「……俺が怖いか?」
ベルフが聞く
「……よくわかんない」
クリスは素直な感想を言う
「でも、嫌いじゃないよ?」
「……そうか」
ベルフはクリスを魔物使いから隠すように自分の後ろに降ろす
「ひ、ひぃ……」
逃げようと震える足を必死に動かす魔物使い
「逃げるな」
ベルフはそう言うと腕を振る
ザシュ!
「ぎゃああああ!?」
魔物使いの左足が斬れた
「このままお前をバラバラにしてやるよ……」
冷たく言うベルフ
「かっ、はっ! く、くそ! 出てこい! アイツを殺せ!!」
魔物使いは叫んだ
「ウォォォォォォォォン!!」
ドスン!!
「うわぁ……」
クリスは思わず声をあげた
どこからか跳んできて目の前に立つ魔物
とてつもなくデカイ
「あの足跡はコイツか……」
ベルフは呟いた
「俺の切り札だ! やれ! そいつらを食っちまえ!!」
魔物使いは叫ぶ
「……クリス、そこから動くなよ?」
ベルフはクリスに優しく声をかけた
そんなベルフに……
「うん!」
クリスは力強く頷いた
「ウォォォォォ!!」
魔物は両手を振り上げながら組み、振り下ろした
その魔物の攻撃を……
パシッ!
「……この程度で切り札か」
ベルフは左手で受け止めた
「じゃあな、切り札」
ベルフは右手で拳を握り
「竜の一撃」
炎を纏ったパンチを打ち込む
ボッ!
魔物の上半身が消し飛ぶ
「……はっ?」
魔物使いは呆気に取られた
今まで、多くのハンターを殺して食べてきた切り札が瞬殺されたのだ
「う、嘘だろ? あ、ありえねえ!!」
戸惑う魔物使い
「受け入れろ、これが現実だ」
ベルフは魔物使いに近寄り……
ザシュ!
「あびゅ!?」
首を斬り飛ばした
・・・・・・・・
「竜人?」
「ああ、竜の血を飲んで、人間じゃなくなった化け物だ、普通は竜を討伐した奴がなったりするが、俺は育ての親が竜でな、寿命で死ぬ前に俺に血を飲ませた」
元の姿に戻ったベルフはクリスを背負い、魔物使いの頭を右手に持ち、村に向かう
「でもベルフは化け物じゃないよ?」
「あれを見て言うか?」
ベルフは苦笑する
「だってかっこよかったよ?」
「そりゃどうも」
「……ねえベルフ! 僕もハンターになりたい!」
クリスが言う
「はぁ? 何言ってんだ、ハンターなんて、なりたくてなる仕事じゃねえぞ、俺はこれしか稼ぐ方法を知らないからハンターをやってるだけだ」
「でもハンターはかっこいいよ! ヒーローだよ!」
「……クリス、勘違いするな、ハンターは別に正義の味方じゃないんだぞ? ヒーローになりたいなら騎士にでもなってろ」
「やっ! ハンターになる! もう決めた!」
「はいはい、勝手に言ってろ」
そして村に辿り着く
そこには村人以外にもクリスには見覚えのない人達が居た
「おいおい、やっと来たのかよ」
ベルフはそう言うと1人の女性に声をかける
「あっ、ベルフ、その首は?」
「魔物使いの首だ、回収してくれ」
女性は魔物使いの頭を受けとる
「……確かに、じゃあこれが報酬ね」
女性は近くの男性に魔物使いの頭を渡すと大きい袋を取り出してベルフに渡した
「ああ、それと念のために魔物の残りが居ないか調べてくれ」
「その為に人手を集めたの……その子は?」
「この村のガキ、魔物使いに捕まって怪我した、治療してやってくれ」
「わかったわ、坊や、もう大丈夫だからね?」
「うぅ……」
クリスは女性に抱き締められる
「あ、ベルフ、貴方今回のでBランクに昇格出来るってよ、昇格しとく?」
「ああ、しといてくれ、今日は疲れたから休むわ」
そう言うとベルフは宿に向かおうとして……
「クリス、ちゃんと治してもらえよ?」
「んっ……」
クリスの頭を撫でて行った
・・・・・・・・
その後、クリスは女性に治療を受ける
直ぐに伯父が駆けつけて、クリスを抱き締めた
「心配させるな! バカ野郎!!」
「ごめんなさい……」
そして、女性が伯父にクリスの怪我の話をする
怪我は3日後には治るそうだ
しかし、傷跡は残るらしい
その話の間で、女性がハンターギルドの人間だと聞かされる
クリスは伯父と女性が話し合ってるのを聞きながら眠りに着いた
ーーーーーーー
数時間後
クリスは目を覚ます
外はまだ暗い
隣では伯父がイビキをしながら爆睡してる
「…………」
クリスは起き上がって、何となく窓から外を見る
「……あっ」
歩いてるベルフが見えた
荷物を持っている
「……ベルフ!」
たまらずクリスは家を飛び出してベルフを追った
「ベルフ!!」
「っ! クリス!? おいおい無理するなよ……」
「もう行くの!?」
クリスはベルフに聞く
「……あー、さっさとBランクのクエストを受けたくてな」
「せめて顔だしてよ! 助けてくれたお礼……まだ言えてないんだよ!」
「礼はいらねえよ、俺は仕事をしただけだからな……まあ、流石にいきなり出るのは悪かった」
「ぶー……」
「いじけんなって、もう会えない訳じゃないんだから」
「えっ? それって?」
「ハンターになるんだろ? だったらいつか組む時があるかもな」
「……うん!」
クリスは頷く
ベルフは少し照れ臭そうだ
「あー、クリス、お前何歳だ?」
「10歳!」
「なら5年だな……ハンターは特別な理由がない限り、15歳から試験を受けれる」
「試験……」
「そんな難しい内容じゃねえよ、文字の読み書きが出来るなら問題ない」
「勉強しなきゃ……」
「まあ頑張れ」
ベルフはそう言うと笑う
「クリス、お前がハンターになる頃には、俺はSランクのハンターになってやるよ」
「それって凄いの?」
「ああ、今は3人しか居ないからな、伝説になるかもな」
「直ぐに追い付くから!!」
「楽しみにしててやるよ!」
そう笑いベルフは村を出たのだった
クリスはベルフの姿が見えなくなるまで手を振った
・・・・・・・・・・
5年後
「じゃあ伯父さん! 行ってくるよ!」
成長したクリスは荷物を担ぐ
「ったく! 手紙くらい出せよ!!」
「うん!」
クリスは家を出る
途中で会う村の人と挨拶をしながらクリスは村の出口に向かう
『クリスー!! 元気でなー!!』
村の皆が思い思いに声を出しながらクリスを見送る
「行ってきまーす!!」
クリスは元気に返事をして、ルトの村から旅立った
「えっと、ここから1番近いハンターギルドは……」
クリスは地図を開く
ヒラリと1枚の紙が落ちる
「おっと!」
クリスは紙を拾い、内容を見てニヤリと笑った
"4人目のSランクハンター昇格 竜人ベルフ!!"
バウンティーハンター
ーーー完ーーー