『さすらいの、トンデモないペテン師』
『さすらいの、トンデモないペテン師』
㈠
「HELLO,HELP ME」
確かに、そう言ったのだ。天空からその声は聞こえたような気がした。まるで奇跡の墓地だ。周縁から騒ぎ声が聞こえてくる。そうか、そうだったんだ。自分はさすらいの人間だが、もしかすると、トンデモないペテン師かもしれないと自覚した。或いは、相手もそうなのかもしれない。
もっと聞こえる様に言ってくれ。鼓膜に響くように、そう、この声は、確かに「HELLO,HELP ME」の声だ。別段、驚いている訳ではない、ただ単純に、自分がどこへ行こうと、どこにもない土地などありえない、ということだ。文章が、英語の和訳みたいに、なっているのは気づいているが、やめられないのは、声が聞こえるからだ。この無造作な声、それでいて、天使か悪魔か、はたまた天国か地獄か、そんな択一の問題でもありそうにない。日本語が壊れる、そう思った、こともあった。
㈡
何が何だか分からない先頭に立って、自身を喪失した廃墟の家は、無造作に手を釣り上げ、ふらふらとするんだ。まさしく、「HELLO,HELP ME」だ。繰り返されるのが、怖いんだ、もう場所から逃げて、只管自分だけのために、精神を攪拌していたいんだ。それでも、デーモンはやってくるだろう、当たり前のように。
不可思議な世界に身を下した自分は、自身が包囲網に囲まれ、逃げ場のないことに気付く。当たり前だ、初めから自分は自分ではなかったのだ。誰かに作られた、人造人間のようなものだ。それでも、難しいことを考えずに、ただ目の前の当たり前に従って、誰とも言葉を交わさず、遠い宇宙のことなどを、無作為に考えながら、暗室で日々を過ごしていたんだ。この様な自分の生態を誰が知るだろう、誰が助けるだろう、それでも、一応は周囲を見渡して、「HELLO,HELP ME」と叫んだんだ。そうしなければ、自分のみならず、他の人々まで、地獄へと行きそうだったから。
㈢
秘境において、訳の分からない言語上の問題で、支離滅裂な会話をすることが、意味を発生させるのは目に見えている。謎を解き明かすことで、一定の収穫はあるからだ。それでも、難しいと言えない我々は、眩暈の中で、離れた温度を捨て去るのであろう。
此処において、当然のごとく、「HELLO,HELP ME」は存在し、叫ばれる。どれだけ叫んでも、言語が通じないのだから、意味ないよと、道行く誰かに言われそうだが、それでも叫んでいる生物的執筆者は、何かをエグる様に佇んで、風位を当てに様々な場所へと移動するのである。夢の中の音楽は、また、夢の中の文章は、記憶の破綻により、分からなくなってしまうが、それこそが、何かをまた探し当てるという意思に繋がる訳だ。もう一度言おう、誰かに届かなくても、そう言う意識で居たら、今度は遠方から、自分へ向けて、聞こえてきたので、もう自分は怖くなくなった。生存者としての自分は、ただ、誰かの「HELLO,HELP ME」を聞いているだけである、ペテン師の様に。




