98 武闘会 その11
ジレックのスピードや力など全てが1.5倍?いや2倍まで上がっている様子が伺えるのだが、それでもジレックの攻撃はザバルティに当たらない。当たっても剣と剣がぶつかる音がするのみ。
「ちくしょう!これでもダメなのかよ?」
弱音を吐くジレックは言葉と裏腹に顔は笑顔になっている。こういう者の事をこの世界は【脳筋・戦闘狂】と呼ぶ。
「くそが!」
体術と剣術を織り交ぜたジレックの攻撃は独特のリズムがあるのだが、その全ての攻撃を躱すか受け止めてしまうザバルティのスピードと技術は圧倒的な物であるという事が証明される事実となる。
「こ、これは凄い事になりました!闘技場の王者。対人戦に長けたジレックをもってしてもザバルティに傷を負わせるどころか、一撃を与える事もここまで出来ていません!恐ろしい事です!いったいアンタはどんだけ強いだよ?!」
ソレイユの解説。最後の方は地が出てしまっているような感じになっているが、この闘いをみている者全てが同じ思いを抱いているのではないだろうか?
「えっと。どれだけでしょうか?」
笑顔で振り向いて答えるザバルティを見てまた女性陣が「はぁ~ん。」と唸る。ソレイユも例外なく同じ状態である。独身女性には強すぎる刺激の様だ。否、独身に限らず同じらしい。その圧倒的すぎる強さに矛盾した純粋そうな一面に超絶なイケメン。優しさが溢れる笑顔に貴族としての優雅な振る舞い。更にこの世界の知恵者をも唸らせる知力に結果の伴う超特待生。本国の王女のみならず他国の王女までが求婚するという事実が世の女性達の心を鷲掴みにしてしまうようだ。
「くっそ!余裕だな!おい!!」
「そうではありませんよ。驚いていますよ。人の身でここまで強い人には初めてお会いしたので。」
「何だよそりゃあ?!」
「私はドラゴンと戦った事があるんですが、ここまで持ちませんでしたよ?ドラゴンは。」
「はぁ?それマジかよ?!」
「えぇ、マジです。」
連撃の最中だというのにこんな会話をする二人はやはり相当な力量を持っている人外の者であろう。しかし方一歩の人外の者であるジレックの攻撃は一切当たらないというのだから、ザバルティの強さは押して測るべしである。
「つうことは俺の方がドラゴンより強いって事だな?」
「まぁ、一概には言えないんですが、概ねそうでしょう。」
会話が試合終了後の様子のようなありさまであるから何処か緊張感が無くなってしまう。それによって見ている側の恐怖を和らげてしまうのだが、この二人は王国内の人間にとっては脅威となり得る存在であるのは確かな事である。
「ちっ。邪魔が入ったな。」
「その様です。」
不意に二人は行動を止めてお互いを見る事なく空を見上げる。観客達は急な変化にビックリするが、二人の様子を見て同じ様に上空へと眼を向けるとそこには上空で停止している物?者を発見しざわつく。
「パチパチパチ。いやぁ~凄い戦いでしたね。凄いですよ二人とも。」
「あぁ?なんだてめえは?つうかどうやったらそんな所に立っていられるんだよ?!」
「・・・。」
上空に停止している者がわざとらしい言い方で上から目線で煽るように言葉を紡ぐ。それに対してジレックが軽く返し、ザバルティは睨みつけているだけで無言。
「良く見たら、後輩のジャスティじゃねぇか?お前それ魔法か?」
「ふっふっふ。そうですよセンパイ。でもセンパイには今日は用が無いんですよ。」
「あぁ?何だって?」
会話をしていたと思ったら気づくとジレックの前に居て斬りつけるジャスティ。
「さよなら。センパイ。」
「そんな事させると思うのか?叡智の悪魔?」
いつの間にかザバルティがジャスティとジレックの間に立っておりジャスティの剣を掴んでいる。それを好機とみたのかジャスティは剣を持っている腕に力を込めるのだが、剣はビクともしない。
「まさか、正面から来てくれるとは私は思っても居なかったよ。」
「なんだ?その手を放せ!」
瞬時に激高するジャスティ。落ち着いた様子のザバルティ。
「見えなかった・・・。」
一人、置いてきぼりをくらうジレックを余所に二人は続ける。
「あのな。離すわけないだろ?」
「ちっ。」
剣から手を放すジャスティを目で追うザバルティ。
「もうお前は終わりだよ。私の目の前に現れたのが致命的だったな。」
「はぁ?」
するとジャスティは何かの壁にでもぶつかったかのような反応を見せる。
「この空間からは私を倒さない限り出る事は出来んよ。叡智の悪魔。」
「結界か。そんな物で俺は止められん。」
尚もこの空間から出ようとするジャスティだが、いっこうに出れる気配は無い。
「さらばだ。悪魔よ。」
ザバルティの左手と右手に魔力の高まりを感じる。
「まだそうとは決まってないだろうが!!」
同じ様にジャスティも魔力を高める。そしてジャスティは魔法をザバルティより先に発動させる。
「喰らいやがれ!!」
炎と氷と土と風の魔法の四つがザバルティに目掛けて飛んでくる。どれもが即死級の威力を誇るであろう最上級とされる魔法だ。しかしザバルティはたじろぐ様子もない。このままではこのスタジアムごと吹き飛ぶのでは周りは思った。観客も王様も。




