96 武闘会 その9
晴天。雲が一つも無い何処までも青一色に染まった空。そんな中に響き渡る大きな声。
「遂に、遂にこの日がやってまいりました!本日は体育祭の最終日にして武闘会の最終日です。体育祭も武闘会もクライマックスがやってまいりましたぁ!」
響き渡る声は会場中に、そして王都テースト中に、それを越えてアスワン王国中に魔法の媒体を通して響き渡る。
「現在、紅組が187,580点。白組が187,550点。接戦が続いています。この最終戦である決勝戦の行方によって今年の勝利チームが決定します!」
ソレイユの説明は会場中の王国中の観客を煽る。
「本日は決勝戦という事もあり、アスワン国王・ケンブリット・アスワン王が主賓席にて観戦されます!」
ソレイユの説明と共に観客は王が居る席へと顔を向ける。そしてスタジアムのスクリーンに王が移ると大歓声が起こる。それを手で返すケンブリット王。
「本日は、天気にも恵まれた良い武闘日和になった。そして今年の体育祭は例年になくここまで接戦となっておる。そして最終日のフィナーレに相応しい対戦カードだ。皆と同様に儂も大変楽しみにしておる。皆で楽しもうでは無いか。」
そして手を振り挨拶を終えたケンブリット王に大歓声をあげる観客達。少し間をおきその場の盛り上がりそのままにソレイユは告げる。
「では、選手の登場です!」
リングの東側の方の扉が開く。それを合図に会場全体から、一斉に足の音と手の合わせた音が旋律を奏でる。
ズンズンパッ!ズンズンパっ!ズンズンパっ!更に炎がリングと入り口に道を形作る。扉の入り口に白い煙と共に「ブシュー!」と音がする。それらは全てタイミングを合わせた感じなのに自然な様子で選手が登場する。それと同時にソレイユのアナウンス。
「紅組代表!ジレック・スターリング選手の入場です!」
音は鳴りやまず同じリズムが続いている。アメリカンベースボールの入場シーンの様に。
「彗星の如く現れた天才と呼ばれる剣士です。闘技都市ライアンの闘技場にて10年間王者として君臨。アスワン国王の推薦を受けて出場。ここまで危なげなく勝利しての決勝です。積み重ねた戦歴と経験を生かす闘いは微塵も隙が無く更に天才と呼ばれるに相応しい技量の持ち主です!」
大歓声とリズム音が鳴りやまない中リングへと足を踏み入れるジレック。観戦しに来ているケンブリット王並びに王族や招待客の方へ顔を向けると一礼した。
「続きまして、対戦選手の登場です!」
ソレイユのアナウンスで一気に静まり返る会場の中、和太鼓の音が響き出す。
ドン! ドン! ドン! ドン! ドン!ドン!
間を大きく開けた和太鼓の如き音は徐々に間を縮める感じで鳴り響く。そして連弾が数十回続いて不意にバン!という音が響き渡ると静かになると、リングと西の入り口の間に稲妻が走り道を形作る。そして炎が入り口の両サイドに立ち上る。
「さぁ、アスワン王国の将来の担い手となるのか?それとも隣国のフランツ王国の将来の王になってしまうのか?期待の新人!!あのマカロッサ家の次期当主!白組代表ザバルティ・マカロッサ選手の入場です!」
間髪入れずにソレイユのアナウンスが流れると姿を現すザバルティ。ザバルティが姿を現すとまた太鼓の音が始まる。そして更に綺麗な音が響き出す。それは日本人ならなじみ深い三味線のような音と尺八と呼ばれる笛の音だ。厳かな空気感を音が奏でる中をザバルティはリングへと向かう。
「ザバルティ・マカロッサ選手のここまでの闘いは全て相手の得意とする攻撃を捌いて同じ技を使い倒すという規格外の強さを見せての勝利を積み重ねての決勝進出です!若干15歳の少年と言って良い風貌に似合わないその強さはまだ底を見せません!」
ソレイユのアナウンスの中、ザバルティはリングへと足を踏み入れて、ジレックと同じく主賓席へと体を向けて一礼した。
「さぁ、歴史的一戦になりそうなこの闘い。間もなくスタートです!」
ソレイユのアナウンスを受けて改めてケンブリット王が声を上げる。
「両者、ここまで良く戦った。これより此度の体育祭のフィナーレである。両者共に実力を遺憾なく発揮し、皆を楽しませてくれ。そして勝利を手にするのだ!両者共に準備は良いか?」
ジレックとザバルティは王の言葉を聞いて頷く。
「では体育祭・武闘会の決勝戦のスタートじゃ!」
王の宣告を受けて決勝戦は始まった。ジレックもザバルティも相手の様子を見る様に動かない。
「お前がザバルティか。実際に見ると本当にまだまだ少年という感じだな。」
「間違いなく少年ですよ。」
「ふっ。あんな闘いを見せておきながら少年と侮れとでも?」
「えぇ。その方がありがたいです。」
「言いおるわ。だがな、俺はこの大会で優勝しケンブリット王の直属の騎士に叙任してもらうつもりだから、お前に手加減もしないし、ましてや油断なんぞせぬぞ?」
「それは残念です。」
ちょっとした会話をして笑い合う両者にはお互い強者である事を感じていた。




