94 武闘会 その7
準決勝第一試合 ザバルティ・マカロッサ VS エリザネス・ジェスター
「君の闘いを見てきたが、あまりにも隔絶した能力の持ち主の様だ。今日は胸を借りるつもりで戦わせてもらうわ。」
「できれば、女性に攻撃を加える事をしたくないので、降参して頂けるとありがたいです。」
「それは無理よ。私は国の威信をかけて来ているのだから。女とは言え剣を持った人であるのよ。気遣いは無用よ。」
「それは残念です。では、せめて試合終了後に治療は私にお任せください。」
「ふふふ。変な事を言うのね。負ける事は考えてないみたいね。」
「そうですね。負ける事は考えていませんし負けません。それは間違いがありません。」
「そこまで、言い切られると辛いわね。良いわ。試合後の治療が必要な時はお願いするわ。」
交わす言葉が変な調子であるが、二人は至極真面目に話をしている。不遜ともとられかねないザバルティの言葉は実際に力を見せつけている事からも自信の表れであるし結果を出しているので認められる発言でもある。逆にエリザネスの余裕ともとれる発言の方がこの場合おかしいのだ。
「試合スタートです!」
いつも通りのソレイユの掛け声で試合はスタートする。
「では全力でいかせてもらうわ。」
エリザネスは宣言し攻撃を開始する。最初は魔法を使わず武技のみでの連続攻撃だ。
繰り出す斬撃は鋭く早く正確な連撃。それをザバルティはその場に居ながら躱したり剣で捌くなどしている。一瞬でも対応が遅れたら致命傷になると想像されるその攻撃を、その場に立ったまま動かずに捌いているザバルティより、攻撃をしているエリザネスの方が押されている様にみえる。不意にエリザネスはその場から後ろへと飛ぶ。
「やはり、凄いわね。一撃も与える事が出来なかったのは初めてよ。では、これはどうかしら?」
言い終わるやいなや、エリザネスの左手から炎が上がる。上級魔法の炎だとわかるそれをエリザネスはザバルティへと放つ。5メートルはあろうかと思われる高さまで燃え上がる炎はザバルティへと襲い掛かる。炎の壁がザバルティを襲うがザバルティは動かないのだが、ザバルティの一定の距離に来るとそれ以上ザバルティへと近づかない炎。ここまでの闘いであれば打ち消す行動をとっていたザバルティは油断なく炎の向こうへと意識をしている様子だ。そこへ氷の刃と化す剣の斬撃が襲う。そう、エリザネスの攻撃で氷のエンチャントをした剣である。しかし、それを待っていたかのようなザバルティの動き。瞬時に剣に青い炎の纏わせ、相殺するかの如く剣を合わせる。エリザネスの氷の剣とザバルティの炎の剣はぶつかり合う。共に青色と青色の剣は甲高い音をさせながらお互いを弾く様に遠のく。エリザネスは連撃を入れようとして動くがそれを許すまじとザバルティの斬撃がエリザネスへと向かう。それに反応したエリザネスは後ろへ後退する。
「残念。これも防いじゃうのね。」
一言発した後にエリザネスからザバルティへと強烈な風が走る。目の前にあった炎を切り裂きザバルティへと到達する直前に土の壁が突如現れ風を防ぐ。その壁が出来るとエリザネスの左手は上から下へと振り下ろされると同時に土の礫が空よりザバルティへと降り注ぐ。それに対してザバルティから大きな氷が向かって行き礫を全て吸収してしまうとそのままエリザネス目掛けて落下していくが、エリザネス
左手がその方向へと向けられると炎が氷に向かって立ち上る。そこで相殺。
「守っていながら攻めてくるなんて・・・私決めたわ!」
「何を決めたんですか?」
「私の夫になる人を。」
「はぁ?」
呆気にとられたザバルティに向かってエリザネスは再び飛び込む。しかし、今度は剣を途中で鞘に納めてだ。それに対してもザバルティは警戒し防御の姿勢をとる。
「受け止めてね!」
「???」
ザバルティは蹴りもしくは打撃がくるのではと警戒する。
≪ザバルティ様。両手を開いてください。警戒は終わりです。≫
言われた通りの行動をザバルティは咄嗟にする。するとザバルティの両手の中にエリザネスは飛び込んできた。
「私の負けよ。ザバルティ。二つの降参だわ。」
「?」
「わからないの?この試合私の負けよ。降参するわ。それが1つ目の降参。そして2つ目の降参は貴方を認めたのよ。私が惚れてしまったの。」
「はぁ?」
ザバルティは困惑するも、審判はエリザネスの降参宣言を聞き勝敗を決める。
「勝者、ザバルティ・マカロッサ!」
普段ならここで「おぉー!」とか、会場に木霊するのだが今回はそうならなかった。何故なら、今現在のリングの状況はザバルティがエリザネスをお姫様抱っこで抱えているのだから、会場中に困惑の声が上がっている。
「ザバルティ様に何をするんですか?このメス豚が!!」
「ザバるんに抱き着くんじゃねぇよ!!」
約2名ほど、怒りの顔を浮かべる女性が居るようではある。その2名は怒髪天の怒りを露わにしている。




