92 武闘会 その5
対戦者には申し訳ない事をしたと思う。ある意味大人げない行動だ。この世界では16歳の子供に30歳の大の大人が負ける。しかも動けずに負ける。生きていけなくなる出来事かもしれない。そう思っている。もし万が一にでも彼ロメロが消息を絶つような事になってしまったら、責任をとり私が面倒を見る。そして更なる高みへと連れて行くつもりだ。
「シーリス。今日の対戦相手の今後の動向を張り付いて調べておいてくれ。」
「かしこまりました。」
意図をくみ取ってくれている様だ。
「今日はこれまでだ。家族と合流する。」
「わかりました。」
その後すぐに家族と合流した。
「お疲れさまでした。」
ミーリアが誰よりも早くねぎらいの言葉をかけてくれた。
「今日は残念じゃったのぉ~。」
「彼もこのアスワン王国に置いては10指に入る剣の使い手で強者なのだが、お前との力の差は有り過ぎたようだな。」
「はい。彼はトーマスより弱いでしょう。下手をすると私の屋敷の従者よりも弱いのではないですか?」
「そう言うな。それが今のアスワン王国の現状だ。」
「一から鍛えなおさねば厳しいかもしれませんね?」
「そうかもしれん。」
「先ずは父上が教官になる必要が出てきそうですね。」
「おいおい。俺を担ぎ出すのか?」
「少なくとも、歴代最強の騎士と呼ばれる彼より、父上の方が強い。」
「俺は剣士ではない。魔法も使うから純粋な彼のような騎士とは違うよ。」
うん。と言わない父上。どうも国の軍部に入りたくない様子だ。
「まぁ、この体育祭が終わったら、ザバルティ。お前に話が来るのは間違いないな。」
「また私ですか?私は要塞建設の方で忙しいのですが。」
「かっかっか。ザバルティよ。お主は若い。色々と恩を売っておいて損はあるまいよ。」
「お爺様までそんな事をおっしゃるんですか?」
父上だけでなくお爺様もどうやら、私にやる事を勧めるらしい。
「今日はそれ位にしてあげてくださいな。ザバルティも先の事をそんなに思い詰めて考えないのよ。」
母上が父上とお爺様を窘めてくれたが、私にもアドバイスをくれた。
「では、体育祭を楽しみましょう。」
「そうね。ミーリアの言う通り。とにかく今はこの祭りを楽しみましょう。」
「「「「賛成!!」」」」
弟や妹が母上に賛成した。どうやら会場へ来る間にあった屋台に目星を付けていたようだ。
「先ずは、マリリン第三王女に呼ばれたランチに行かねばなりませんよ。」
私を含めた弟達子供組と父上とお爺様の男連中は揃って忘れていたようで、少しガックリした様子を見せた。他人事の様に言っているが勿論私も含まれる。
「そんなに、ガッカリしないの。第三王女マリリン様からの招待ですからランチはお呼ばれしますが、夕食は外で食べましょう。」
母上の言葉を聞いて私達は目を輝かして母上を見た。母上とお婆様は苦笑いを浮かべていた。
「あらあら、そんな反応をしたら王女に失礼よ?」
「ミネルバ様。それは問題ではございません。あのメス・・・。マリリン第三王女殿下も家族団らんにお邪魔したいだけでしょうから。」
「メス・・・?そうかしら。」
「あらあら、ザバルティがモテてミーリアがヤキモチを焼いていますのね。」
「いえ。あの、その・・・・。」
母上の言葉で耳まで真っ赤にしたミーリアは下を向いてしまった。母上やお婆様には流石のミーリアも
歯向かう事は出来ないようだ。
「では、皆も揃ったしマリリン第三王女の所へ向かいましょう。」
「「「「は~い。」」」」
母上の号令に子供達は声を揃えて返事をした。
◇◇◇◆◇◇◇
「あれは魔法でも使ったのかしら?」
「いえ。魔法の痕跡はありませんでした。」
「では何故、ロメロは動かなかったのかしら?」
「いえ、ロメロは動かなかったのではなく、動けなかったのでしょう。」
「え?それはどういう事かしら?」
「ザバルティ君は私達の想像を遥かに超える強さの持ち主であるという事ですよ。」
「そうなのね?流石はザバるん。」
「あながち、超越者であるという噂は間違いでは無いのかもしれません。」
二人の女性が一室で話をしている。ザバルティ・マカロッサの事を。そしてその二人の目は彼を遠くから見下ろしている。そして愛おしそうな顔を見せているのだった。
「さて、私はザバるんのご家族とランチです。楽しみだわ。」
「ずるいですね。職権乱用ですよ?」
「貴女もすれば良いじゃない?教師と生徒のいけない関係。」
自分で言っておきながら顔を真っ赤にしてキャー!と言う女性を言われた女性はニコリとして。
「それ、しても良いんですか?お許しいただけるならアプローチしますけど?」
「えぇ?本気なの?」
ニコリと笑うだけで返事をしない教師と言われた女性。
シリアスな感じだったその場の空気がギャーギャーと騒がしくなったのだった。
◇◇◇◆◇◇◇
スタジアムの医務室。ここには先の武闘会で負傷した者が連れてこられる場所だ。
その医務室のベットに一人の男が寝ている。
「容体はどうですか?」
「特に問題はないでしょう。ただ気絶させられただけの様です。」
「それは良かった。」
すると、ベットに横になっていた男がうぅと呻きながら目を開く。
「気づきましたか?」
「うぅ。は、はい。」
「大丈夫ですか?ロメロ先輩。」
「あぁ。ジャスティか?」
「えぇ。そうです。先ほどの事を覚えていますか?」
ロメロは、はっ?とした顔をして周りを見渡し、自分の置かれている状況を把握した。
「負けたのか?」
「そうですね。」
「そうか・・・。」
「動かなかったのは何故です?」
一度深く考える様にロメロは目を閉じた。そしてゆっくりと口を開いた。
「動かなかったんじゃない、動けなかったんだ。一体彼は何者なんだ?」
それを聞いたジャスティは口の端を釣り上げてニヤついた。
「やるじゃないか、ザバルティ君。」
そしてボソッと独り言を吐くようにつぶやいたのだった。




