91 武闘会 その4
第1回戦第三試合 ザバルティ・マカロッサ VS ロメロ・フランツ
「君と初戦で戦えるとは僥倖だ。君に期待している人々には悪いが直ぐに決着をつけてしまうとしよう。調子に乗っている者が私は好きではないのでな。」
「そうですか。お手柔らかにお願いします。」
「ふん。あざとい姿勢を見せるのは止めよ。」
「いいえ。私は年輩者に対して一律に敬う気持ちを持っていますよ。」
「何を言い出すかと思えば・・・つまらん気遣いをして負ける事への予防線でも張っているのかな?」
「そんなつもりはありませんよ。本心です。しかし、少しも負けるつもりはありませんよ?」
「ほう。」
ニヤリとするロメロ。
「やはり、調子に乗っている様だ。私がその鼻をへし折ってやろう。」
「それは出来ないと思いますよ?実力差が分からない人では私に一撃すら当てる事はできないでしょう。」
「調子に乗っているだけでは無く。大きな口を叩くようだな。終わった後の吠えずらがみたくなったな。」
怒りの表情を見せるロメロ。どこ吹く風のザバルティ。
「では第三試合スタートです!」
ソレイユの掛け声がかかり、ロメロが一撃目を放つ為に動こうとした。しかし足がロメロの意志に反して動かない。焦りだすロメロ。
「だから、言ったではありませんか?実力差が分からない人では私に一撃すら当てる事が出来ないと。」
ロメロはザバルティを睨む。
「キサマ・・・魔法を使ったのか?」
「貴方が剣士である事が分かっているのに魔法なんて使いませんよ。」
ロメロの顔に困惑の色が伺える。それに反してザバルティは剣すら抜こうとしていない。
「今の貴方は、体がいう事を聞かないのではありませんか?」
「?」
「それは体が私に怯えているという事ですよ。頭が命令しても魂がそれを拒否しているんです。」
「な?」
「少し冷静になれば貴方位の強さがあれば、私の本当の強さが分かるのでは?それとも差が有り過ぎてわかりませんか?」
「言わせておけば!」
「すいません。私はこの武闘会において本気を出すつもりは無かったのですが、諸事情により見せつけねばならなくなったのです。お赦しください。」
「調子に乗りやがって!」
どんなにロメロの頭が動けと命令しようとも体はいう事を聞かない。焦るロメロを余所にザバルティは申し訳ないという表情でロメロに近づいてくる。ロメロは全身の穴と言う穴から汗が噴き出ている事に本人は気づく事が出来ずにいる。それ位魂が戦う事に恐怖しているのだ。歴戦のそして王国最強の騎士はそれでも最強の気概で頭だけでも戦う意思を見せているだけでも凄い事ではないだろうか?圧倒的戦力の違いは大人と子供どころの話ではない。赤ちゃんと古龍以上の違いがあるのだから。
「ロメロさん。そのような状態では戦えません。負けを認めてください。」
「五体満足なのに負けを認めろと?」
「そうです。心は戦うつもりでも体が言う事を聞けないのであれば、もうそれは戦えないという事です。」
「そんな事出来るか!騎士をなめるな!!」
「やはりそうですか。では、仕方がありません。」
このやり取りはザバルティの魔法により周りには一切聞こえないようになっている。一部を除いて。だから会場内はざわついている。
「どうしたの?どういう状況?」
戦況に動きが無い事。ザバルティが剣すら抜かない事。それが何かおかしいと気づく観客達。
「ザバルティが本気になっている。どうしてだ?」
「ここまで、圧倒する力が孫にあるとはのぉー。ワシにもわからんかった。」
ザバルティの父と祖父の反応と感想を聞いたミーリアが一言。
「悪魔がこの会場に居る事がわかったからではないでしょうか?」
「「なに?!」」
「先ほどコンタクトがあったと連絡がありました。牽制する気で見せているのではと思います。」
ミーリアの説明に頷くザバルティの身内。
「ふむ。では今日は武技や魔法は見れそうにないのぉ。」
「その様です。ザバルティ様と対等に戦える者など、この世界に少数しかいないでしょうから。」
「我が息子ながら強すぎて不憫な思いをさせるのはかわいそうじゃな。」
普通の人が聞いたらこの会話はオカシイ内容だが、ザバルティの事を知る者にとっては当たり前の内容になってしまう。
するとリングに動きが出た。
ザバルティが遂にロメロの前に立ったのだ。
「くそ!何で体が動かねぇんだよ!」
ロメロは訳も分からず。しかしザバルティから目が離せないでいた。ザバルティがロメロの前に立ち謝罪をする人間が見せる顔を作っている。そして右腕が後ろに下がる。
「本当に申し訳ない。」
ザバルティはそう口にすると、ロメロに衝撃が走る。そしてぶっ飛ばされた。
気絶したロメロを確認した審判。
「勝者ザバルティ・マカロッサ!」
その光景は異様の一言で片づける事が出来ない異常な光景だった。面白くない闘いと言えるし、何だこれ?と思えるのではないだろうか?しかし強さを求める者にはその意味が分かる。【蛇に睨まれたカエル】その言葉が脳裏に浮かぶのだった。




