89 武闘会 その2
第一試合 アーノルド・ガイエン VS ゼスクド・バイエン
前年優勝者ゼスクドとアーノルドは姓が示す通り血縁関係にある。遠い親戚という事になる。
元々ガイエン家が主流の一族であり、バイエン家は傍流の一族。本家・分家の間柄である。一族は古くから王家に使える騎士の一族なのである。現在は爵位として子爵家となっているが、騎士の一族であるのだから、王家に対する忠誠心は高い一族であった。しかし、現在では、バイエン家が本家であるガイエン家とは袂を分かつ存在にまでなっている。バイエン家も騎士の爵位を預かる事になったからだ。つまり今現在は別の家として扱われているのだ。ガイエン家は本家である為、分家のバイエン家が言う事を聞かない事を良しとせず、また分家も独立したのに上に立とうとする本家に嫌気がさしている。つまり仲が悪いのだ。
「お前が最初の相手とは、丁度良い。これまでの雪辱を晴らして貰おう。」
「それは残念ながら、無理と言う物。貴方では叶わぬ思いでしょう。」
「昨年優勝したから調子に乗っているのか?昨年俺は出場していないぞ。」
「過去の栄光に縋るなど、私がするとでも思っているのですか?馬鹿らしい。貴方の家の者だけですよ?」
「な、何?!調子に乗るな分家のくせに!」
「本家であるのにその余裕の無さ。甚だ馬鹿らしく恥ずかしい。」
「いい加減にしないか。御前試合だというのに、学院生の振る舞いを忘れるな。」
審判の仲裁で黙り込む二人。
「アナウンスは私ソレイユがおこないます。それでは、第一試合スタートです!」
大歓声の中、解説者の掛け声と共に始まる試合。
お互いに睨み合い、動かかない静かなスタートになった。ジリジリと空気が緊張感を伝える。
「これは、お互いに相手を警戒して動きません。」
ソレイユの言葉にピクリと顔に反応が出る。
「ふん。なめきったその態度を後悔すると良い。」
アーノルドが先に動いた。素早く間を詰めると横一線に薙ぎ払う。バックステップで避けるゼスクド。
「そんな攻撃が当たるはずも無・・・?」
ゼスクドは避けた後言葉を発するも途中で違和感を覚え聞き手では無い方でお腹をさする。そこには横向きに傷がある。
「な?」
「どうした分家?避けれなかったのか?」
アーノルドの口元がイヤらしくつり上がる。ゼスクドは何が起こったのか分かっていないかのように困惑した顔を見せる。ゼスクドは確かに避けたはずである。剣先すら当たらなかったはずであった。しかし現実には切り傷が付いている。鎧によって防がれているものの、間違いなく傷がついている。
「おーっと、アーノルド選手の初撃でゼスクド選手の鎧のお腹に傷がついている!避けたはずのゼスクド選手は困惑の表情だ!」
ソレイユの解説に会場全体はどよめく。前年優勝者のゼスクドが後輩の者に先制を許した事にビックリしているのだ。
「ふふふ。どうした分家?」
アーノルドは好機と見て次々に剣を振るう。上から下へ下から上え、右から左へ左から右へ。繰り返されるアーノルドの剣を受けたり避けたりするゼスクド。押されているゼスクドの鎧はアーノルドが剣を振るう度に傷をつける。避けようが、剣で受けようが結果は変わらない。その内、ゼスクドの顔から鮮血が飛び散る。その後大きく退避した。
「おいおい。こんなもんかよ?あぁ?」
アーノルドの言葉を受けたゼスクドの表情が変わる。
「これはガイエン家の秘技ですね?遂に到達する者が現れたのですね?」
「だったらどうした?」
「私は思い違いをしていたようです。私は貴方に対する先ほど迄の行為発言を謝罪します。秘技を身につける努力に敬意を払いましょう。」
ゼスクドは同じ一門であるアーノルドの研鑽を努力を推し量る事が出来るのだ。努力無くして秘技は使える様にならない。天才でもない限り。
「ふん。それが分家が本家にする普通のこった。」
「いいえ。貴方が本家だからではありません。貴方の努力に対してです。」
「偉そうに。まぁ、俺を倒してから言えってんだよ!」
また、アーノルドは間を詰めて攻撃を再開する。先ほどを同じ様になるのではないか?と会場中が思っていたが、ゼスクドは避けている。傷もついてない様子だ。その違和感に早く気付いたのはアーノルドだった。
「どういう事だ?お前?」
「貴方の使っている剣技はガイエン家本家に伝わる秘技【パシュート】ですね。つまり追撃です。それさえわかれば対応できますよ。剣筋にいなければ、私に傷をつける事は出来ません。」
「ちっ。」
「まだまだ、貴方には負けるつもりはありませんよ。未熟な動きの貴方には。」
その言葉をゼスクドは発するとゼスクドは一気にアーノルドの眼前に入ると一閃。その剣撃はアーノルドは避ける事も受ける事も出来ずにその身にくらうとその剣圧により吹っ飛ばされる。
「がはっ!」
カチャりと剣を納めるゼスクド。余りに一瞬の出来事に騒然とする会場。
「勝者、ゼスクド・バイエン!」
先ほどの一撃でアーノルドは気絶してしまっていたのだ。審判の宣言により会場中が一気に歓声をゼスクドに送る。
「アーノルド。君はまだまだ強くなれる。私達ガイエン家を本当の意味で率いる事が出来るようになる。・・・君の努力次第だが。」
気絶しているアーノルドに届くはずもない言葉。それを投げかける天才剣士ゼスクドは手の内を見せないまま勝利したのだ。




