72 現地調査 その1
初日の私達調査メンバーは総勢で15名になる。
他の33名はベース基地にて待機しベース基地の設営と防衛準備と食事などの準備にあたっている。明日には別動隊となった6名合流する予定だ。
10万規模の兵隊が入る要塞づくりであるから、色々な要素が必要になる。ある意味では、街一個分の規模と設備となるだろう。現代日本でいう所の米軍基地みたいな物を想像するとわかりやすいかもしれないが、どうだろうか?つまりその要塞内に長期間生活出来るような設備が必要だという事。なのに守備の面で不足が無い事も重要である。
「場所の選定に時間がどれ位かかってしまうのか?という事が問題ですね。」
「そうだね。厳密な調査をしておかないと、後で不測の事態が沢山起こる事になってしまうからね。」
そうなのだ。調査を怠ると設営時に色々と不備が起こってしまうのだ。正確であれば正確な程、精密な建造にする事が出来るのだ。それを建設関係に詳しいセシリアはよくわかっているのだ。
これも段取りに入る大切な作業なのだ。現代の日本人にそれがどれだけ分かっている者が建設業に携わっているのか?疑問を持つ事がしばしばあったが、技術が上がり、その技術のおかげで、少々の手を抜いても平気になった部分はあるが、刑事の現場100回に通ずる部分であるかと思う。
「ところで、何故、この地域にこの時期になって設営するんでしょうね?」
「正確な答えは分からないが、憶測では2つある。数年以内に大きな戦争が起こるであろう予測がたっている事とが一つ。あと、カンガリ大将閣下が国軍の強化を図っている事が関係していると思うよ。」
「国軍の強化に要塞がそんなに関係ありますか?」
「そうだね。一見すると対して関係ないように思えるよね。現在のアスワン王国の軍の内容を見ると意味が分かって来るよ。」
「どういう事ですか?」
「現在、我が国を筆頭に貴族のいる社会においてそれぞれの貴族が持つ私兵の割合は国の主要戦力になっているのは知っているよね?」
「ええ。それは分かります。」
「つまり、貴族の反対があれば戦争や兵数を整える事が出来ないという事に繋がる。」
「そうですね。」
「それはつまり貴族が造反して他国についたら?」
「敵が有利になりますし、そもそも一方的に負ける事も考えられます・・・。そうか、それを国軍を増員し貴族に頼らない組織にするつもりがある。という事ですね?」
「そういう事。その為にこの南西地に一大軍施設を造り、国営直属の軍を設置する事で、今までの貴族に頼る防衛の仕方を変えるという事なんだ。それはつまり国軍強化につながるというわけだ。」
「その先駆けが、軍務と爵位の分離だったという事ですね?」
「その通り、それをカンガリ大将閣下が自ら率先して行おうとしているという事なんだ。」
「誰の知恵なんですか?・・・というか、それにザバルティ様が噛んでますね?」
「私?それは無い。ただ、どうだろうね?カンガリ大将閣下がご自身の考えでされている事だと思うよ?」
鋭い私の信者たるシーリスの横からの発言にドキリとしたが、誤魔化す事にした。あんまり自身のアピールは控えたい。
「ふうん。そうですか?」
あんまり信じてないようだ。信者なのに盲目的ではない所が私の信者らしいが、こういう時はそれが痛いな。
「話が逸れてしまったが、現状での私達にとってはこの要塞の設営が一番の仕事であり、成功させる必要のある事でもあるから、ここは気を張ってやっていこう。」
「何か?誤魔化されてます?」
「そんな事はないよ。目の前の事に集中しようという事だよ。」
「まぁ、良いですけどね。」
厳しい追及をかわしていると目の前に丘が見えてきた。
「よし、先ずはあの丘の上に行ってみよう。周辺の状況が分かりやすいだろうから。」
「「「了解です。」」」
目標としていた丘を指して皆を先導して馬を走らせた。目の前にありながら、丘の上に行くためにかなり遠回りをした感じだ。グルグルと回りながら上がる坂道になっており最後は真逆に場所から登る形となった。
「ようやく着きましたね。」
「そうだな。結構な距離があったな。」
「グルグル回りましたもんね。」
「攻めにくく守りやすいが逃げにくいという感じかな?」
「どういう事ですか?守るのは楽だけど、いざ逃げようと思っても逃げ場がない。飛行手段でもあれば別だが、それは攻め手も同じだからな。現在の戦争の形では逃げにくいというのは色々と難しいかもしれないな。」
「そうですね。それに、要塞の場所にするには大きな道から離れていて、要所にはなりにくいですね。」
「だが、この見晴らしは勿体ないな。この丘の構造を変えてでも、見張りを立てる場所にはしたいと思うな。」
私達の前には360度見渡せる状態になっており、見晴らしは最高。自然豊かな森や平原が広がっている。ここにピクニックとか最高だろうな。なんて事を考えていたりした。




