64 休日 その2
「はい?」
「お前、俺の動き一つ一つが見えてるんだろう?」
バッチリ目が合ったもんな。言い逃れは無理かな?するとアイリーンが横から入ってきた。
「名前を名乗りなさい。無礼でしょう?」
「へっ。お前に用事は無いよ。そこ兄ちゃんにようがあるんだ。邪魔すんな。」
その子は言い終わると同時にアイリーンに蹴りを入れようとした。その蹴りが本当に早くアイリーンは見えていないし気づいても無いようだ。マズイと思った私は蹴りを繰り出し止めた。
「やっぱりね。お前は見えてるね。間違いない。」
「いい加減にしな!」
コーネスが魔法を放つ。火の魔法だ。無詠唱を取得したから呼び動作が無い。一直線にその子に向かっていく。
「そんな物届かないよ?俺には。」
手刀一閃で火を打ち消す。いくら街中で下級しか使ってないとはいえ、この至近距離で手刀で打ち消すとか凄い事だと言える。見た目年齢がかなり低く見えるから余計に。
「こら小僧。待たんか!」
「やべ。今は無理か。じゃ、またな。」
追いかけていた男が近づいてくると、慌ててその場を離れまた、脱兎の如く逃げ出した。
「こら、待ちなさい。」
「いや。構わなくていい。」
アイリーンが追う様子を見せたので、直ぐに止めた。
「ザバルティ様。大丈夫ですか?」
「問題ない。それより、これからの時間を楽しもう。なかなか無い休みの日だからね。」
「ふふふ。心配して損してしまいましたわ。」
「本当ね。でもすごく変わった子でしたね。」
「嫌だけど、どこかで関わりそうだね。」
だって、セリフが「見つけた。」だからね。困ったもんだ。それに、あの子は人間では無さそうなのも面倒だって思ってしまう理由の一つだね。近いうちにここに来そうだ。
「さぁ、行きましょう。甘い食べ物が待ってます。」
「あぁ、そうしよう。」
その場を後にした。
◇◇◇◆◇◇◇
「へぇ。あいつの動きが見えてるのか。凄いな。これは面白い物が見れるかな?」
一人のフードを被った者が独り言の様に呟いた。
◇◇◇◆◇◇◇
「美味しかったですね。」
「本当。美味しかったね。」
「ふふふ。また、連れてきてくださいね。」
「あぁ。三人共連れてくる事を約束しよう。」
三人共に満足してくれていたようだ。だが、何故か三人共に少し不満な顔をしている。三人共っていうのがダメだったかな?難しいものだ。
「食べる物は食べたし、次は運動だな。」
そう。私達はお茶を飲んだ後、ランチをした。とても美味しかった。
「では、屋敷へ戻りましょう。」
「いや。このまま、市街へ出て森に入ろう。」
「でも、装備が無いですよ?私服ですよ?」
「それは、大丈夫だ。では、行こう。」
不思議がる三人を引き連れて市街へと出る。門番に止められたが、名前を聞いて直ぐにひいてくれた。
一言「お怪我の無いように。」と言われただけだった。直ぐ近くの森へ向かった。もちろん走ってだが。少し開けた場所に出た所で止まった。
「はぁはぁ、流石にキツイですよ。」
「ふうふうふう、本当に厳しいです。」
「はぁはぁ、流石ザバルティ様です。」
「すまない。いつもの調子で走ってしまった。すまない。ここで、休憩してくれ。」
そう言って、アイテムボックスから、休憩用一式を出した。
テーブルに椅子を出し、お茶を用意して皆を座らせた。防壁魔法を周辺にかけた。
「私は、少し先の方へ行く。待っていてくれないか?」
「はい?わかりました。」
「これを食べて休んでいてくれ。これは【ケーキ】という物だ。とても美味しいぞ。」
「ありがとうございます。果物が間に入ってますね。美味しそう。気をつけて行ってきてくださいね。」
少し試作してみたイチゴケーキを真ん中に置いた。皆は心配そうな顔を向けるが付いてこようとはしなかった。聡い子達だ。私は少し先へ向かった。岩がゴロゴロしている山肌についた。ここらで良いだろう。
「いい加減出てきたらどうだ?」
「気づいていたのか?いつからだい?」
木の陰から女らしき者が顔を出した。ダークエルフと呼ばれる種族だ。エルフ同様に綺麗な顔をしている者が多い。肌は黒いのがダークエルフで、私の秘書のエルフ達は逆に肌が白い。その違いが大きく二つの種族を分けている。
「いつでも、良いだろう。何の様だ?」
「つれないねぇ。何でそこまで余裕なのかねぇ?」
「決まってんだろ。自分の置かれている状況がわかんねぇんだよ。こいつは。」
もう一人の人間が言葉を発した。ゴブリン族のようだ。言葉を確りと話す所をみるとハイクラスなのだろう。
「で、どうするんだ?このままおしゃべりか?」
「な、わけねぇだろうが!」
ゴブリンの方がイライラしているようだ。ダークエルフは手を出す気が無いのか動きはない。それにカミコちゃんのソナーに反応があるのは全て、モンスター的反応ばかりだから、ゴブリン系の者ばかりなのだろう。ちゃんと彼女達に防御を施してきて良かった。この世界のゴブリンもどうやら女性に厳しいようだからな。さて、少し本気でやるか?次から相手するのも面倒だしな。
「そうか、では遠慮はいらないという事で、良いな。」
「ふざけやがって!ブリエンド。手を出すなよ。」
「わかっているわ。見届けるだけよ。」
そんなやり取りを交わしている。見て帰れると思っているのかな?力を開放すると共に、強烈な【殺気】を敢えて、全体に発する。
「うっ。」
「何?これ?」
二人は動けないようだ。さぁ、スタートだ。




