54 兄と弟と
私は、父上と祖父とシャルマンと客人がいる部屋へと向かった。何故だかドキドキする。
ドアをノックして「ザバルティです。失礼します。」と言って中に入る。そこには、机の向こう側に父上が座っており、こちら側にお客様と思しき人が座っている。父上と右に見る様にシャルマンが座っており、その逆側に祖父が座っている。私は父上の隣に座るように言われた。
「ザバルティ。こちらが、お前に紹介したかった。ラムザ殿だ。」
「初めまして、ザバルティ様。私はラムザ・ハイマーです。シャルマン商会の名誉会長をしております。」
「何で、お前が!?嘘だろ?!」
紹介され男の顔を見た瞬間、電気が走った。
その顔に見覚えがあったのだ。有り得ない。私の前世での記憶なのだから。全く瓜二つなのだ。
そう彼は、私の前世において地球に居た時の親友だった男なのだ。親友だったというのに意味がある。彼は同い年であった。高校生の時から25歳になるまでよく一緒に居たというか、ある日急に彼は居なくなったのだ。当時、テレビや新聞なので騒がれた事件の被害者だった。私は彼を忘れた事等なかった。当時の事件的には何の証拠も見つからず、遺体さえ見つかる事がなく迷宮入りした事件である。科学的根拠のないままに神隠しにあったのでは等の話もでた謎すぎる事件だった。
そんな彼が目の前居るのだ。動揺しても仕方がない事だではないか?
「どうしました?お会いした事がありましたか?」
そのラムザと名乗る男に言われた。どう返したらいいのか、わからなかった。
「あぁ、いえ。すみません。何でもありません。」
どうなっているんだ?思考が止まるかと思った。
≪可能性として本人であるかもしれません。ゼロではありません。転移された可能性がある為です。≫
カミコちゃんが良い仕事をしてくれる。これで落ち着けた。私も転生している身。転移されていたとしても不思議ではない。
「本当にすみません。私はザバルティ・マカロッサです。シャルマン商会の会長とお会いできて光栄です。」
「いえ。こちらこそ。この国の将来を担うであろう特別な方にお会いできて光栄ですよ。」
シャルマン商会とは、この世界のあちこちに店を持つ大きな商店だ。とても有名で、私の学院の同級生になる予定のセレスティア・ファフナーの親の経営しているファフナー商店が警戒している商店である。特徴は従業員にあり、全てハーフの者達であると言われている。でも何故その大商店の会長が私に会わせたい人なのだろうか?将来の事でかな?
「顔見せも終わった事だし、本題に入ろう。ではシャルマン、説明をしてくれ。」
「いや、ワシから話そう。」
ロマネスお爺様が口を挟んだ。
「結論から言おう。このラムザ殿はシャルマンの前世の父親であるらしいのじゃ。」
えぇ?!嘘でしょう!?どうしてそうなる??
「そりゃあ、そんな顔になるわのぉ。ふぉふぉふぉ。」
「兄上。これは事実です。始めてお会いした時にわかりました。全てを思い出したのです。」
「俺は、自分の息子シャルマンをずっと探していた。かれこれ15年は経っただろう。探すために商会を作り、探すために冒険者のグループを作ったんだ。」
「では、この後どうするのですか?」
「それが、問題ののじゃ。」
「俺はシャルマンが幸せな家庭に居るという事が確認出来たから、偶に合わせて頂ければそれで居良いと思っている。」
「特に問題は無いのではないですか?」
「兄上。実は僕がラムザさんについて行きたいと思ったんです。」
「シャルマン。前にも言っているが、俺はアルカティ殿の家庭で健やかに育ってくれれば良いと思っている。決してお前を今の家族から引き離して一緒に来て欲しいと思っているわけじゃない居ないんだ。」
なるほど、これが問題なのか。これは難しい。
「父上は、どう思っているのですか?」
「俺は、シャルマンのしたいようにすれば良いと思っている。大人になれば親から離れるモノだと思っているからな。それが少し早くなっただけだ。それにラムザ殿のこれまでの話を聞いて俺は・・・」
父上が声を詰まらせた。かなり色々あったのだろう。後に私も聞いたが、父上が泣くのも仕方ないと思った。壮絶なシャルマン捜索だったから。
「いえ、アルカティ殿。今の幸せな家庭で育ててやってください。本当に申し訳ない。私が会いたいと願ったばかりにこのような事になって。」
ラムザさんは恐縮している。
これは、何か解決策を考えないといけない。
「ちょっと確認なんですが。ラムザさんはシャルマンと一緒に居たくないのですか?」
「いや。そういう意味ではない。」
「ですよね。ではこうしませんか?シャルマンは次男ですし、領地を引き継ぐにしても私も居ますし、そてに三男もいます。跡取り問題はとりあえず問題ありません。そして、シャルマン自身も貴方と共にいたいと思っている。ここまで、違いがありますか?皆さん大丈夫ですか?」
「「「無い。」」」
「ですね。であれば、シャルマンは学院を卒業してからラムザさんの元で一緒に生きていくというのはどうだろうか?卒業する才は20歳だ。その年になれば、一般教養も身についているだろうし、生きていく術も見つけれるだろう。私達も安心して送りだせる。」
「ですが、私は直ぐにでも一緒に居たいと思うのです。前世の私を男手一つで育ててくれた父に恩返しがしたいのです。」
「それは、理解している。だからその術を身につけろと言っている。王立アスワン学院は世界でも有数の教育機関だ。学んでおいて損は無い。それに、全く会えない訳ではない。私の転移魔法で送り届ける事も出来る。一度ラムザさんが居る場所に行かなければならないが。」
皆がハッとした顔をした。ラムザさんに至ってはかなりビックリしている。
「ははは。ザバルティの言う通りじゃわい。それがお互いにとっていいであろう。」
祖父は転移魔法を知っているので、直ぐにピントきていたようだ。一人ニコニコしていたから。
「ザバルティ殿は、転移魔法が使えるのか?」
「そうです。そしてその内、転移魔法を唱えなくても転移出来る装置を作るつもりでいます。」
「聞いていた以上だ。素晴らしい。是非、その研究には協力させてもらいたい。」
ラムザさんは流石に商売をしているだけある。直ぐに飛びついてきた。
「兄上。ありがとうございます。では早速、ラムザさんの所へ行きましょう。」
「待て待て。行くのは学院の長期休暇にしてくれ。まだ入学もしてないよ。」
「そうでした。」
シャルマンもラムザ殿も父上も祖父も納得してくれたと共に慌てるシャルマンを見て笑い合った。




