365 使徒と使徒。
煉が決断した事を私は協力する事にした。
だから、行かねばならないだろう。
「行ってくる。」
「やはり、行かれるのですか?」
ミーリアは心配そうな顔で聞いてくる。
「ああ。行かねばならないと思う。」
「わかりました。帰りをお待ちしております。」
私は、ミーリアの見送りだけを受けて、屋敷を後にした。
◇◇◇◆◇◇◇
「グハッ!」
血を吐き倒れる騎士の様な恰好をした女。
回復魔法をかけて、気絶させる。
「そろそろ、顔を見せたらどうだ?ナベリウス。」
私は暗闇の奥に向けて、強い殺意を放つ。
すると、向こうからも強烈な殺意を放ってくる者が居る。
その暗闇の向こうから一人の男が出てきた。
「遊びは飽きたか?」
ナベリウス本人だ。
「お前の眷族を倒しても、何も楽しくはないさ。ただ、憐れみを感じるだけだ。」
「くっくっく。言うじゃないか。で、今日は何をしに来た?まさか私を殺しにでも来たか?」
余裕の笑いか、ニヤリとした顔を私に向けるナベリウス。
「その必要があれば、そうするさ。それよりも、聞きたい事があって来たんだ。」
「ほぉ。聞きたい事か。何を俺から聞きたい?」
殺気を放ちあいながら、相対すると分かるが、やはり煉には荷が重い。
「お前はこの世界をどうしたいんだ?」
「・・・。」
「世界が大きいなら、このカーリアン帝国をどうしたいと思っているんだ?」
ナベリウスは目を瞑る。
深く考えているのか、単にどう返すか考えているだけなのか?それは分からなかった。
「特にない。全ては神が求める事を成すだけだ。」
「それは、滅ぼす事も入っているのかな?」
「ふっ。だとしたらどうするんだ?」
やはりか。
神の使徒とは基本的に、仕える神の意志に従う事が仕事であると言える。
なので、本人の意志とは関係なく、動く時がある。
「では、今回の事も?」
「いや、あえて言うなら、題材は自分で決めた事だな。復讐を兼ねているがな。」
「であるならば、ひく事は出来るのか?」
「心配するな。ここでの俺の役目は終わった。」
役目が終わった。
つまり、もう自らが動く事は無いという事だ。
「なら、お前はこれからどうする?」
「ふふふ。そうだな。ここもお前に見つかってしまたから引き上げるしかあるまいな。それにもっと面白そうな場所も見つけたしな。」
「そこは、何処だ?」
「素直に言うとでも思っているのか?」
思っていないが、聞いてしまうのは火曜サスペンスの見すぎなのかもな。
どう考えても、普通は素直に言わない。少なくとも敵対関係である状態では。
「まぁ、そうだろうな。言わないだろうな。」
「わかっているじゃないか。」
ナベリウスは笑顔のままで私とのやり取りをしている。
たぶん、私が掛かって来ないと分かっているのだろう。
そして、目的も理解しているハズだ。
「ザバルティ・マカロッサ。お前の神はお前に何を課している?世界平和か?秩序か?」
「それを答える必要があるのか?」
「いや、無いな。しかし、興味はある。」
「何故だ?」
「同じ使徒だ。興味位持つだろう?」
「それだけか?」
「くっくっく。用心深い事で。本当に興味があるからだとも。それとも何か企てが欲しいかな?」
そう言って笑うナベリウスは純粋に思っただけなのかもしれない。
「なら、お前の使命を言うのなら、お前の周りで騒がぬとだけ約束しようではないか。盟約期間は次回お前と敵対するまでだがな。」
悪くない条件を付けてきた。まぁ、元々隠す必要も無い事だけどね。
「良いだろう。私の課せられた使命は、この世界で生きる事だ。私の良心に沿って生きる事だ。」
聞いた瞬間、ナベリウスは少し驚いた表情を作った。
そして次の瞬間には笑い出した。
「なんだそれは?そんな事が使命だと?本当に神という奴等はメデタイな。」
ナベリウスはひたすらに笑っている。
「お前が、良心にそって生きるだけ。俺が、楽しませるだけ。神とは暇な存在なのかもしれんな。」
何かがツボになったのだろう。まだナベリウスは笑っている。
その後も、何か独り言を言いながら笑い続けた。
気でも狂ったのだろうか?
「まぁ良いだろう。約束は果たす。が、次回敵対するその時は、必ずお前を亡き者にしてくれる。邪魔を散々したお返しにな。」
「良いだろう。その時は私も、キッチリと相手をしてやろう。」
笑いを止めたナベリウスの言葉に返す。
「ふっ。威勢が良い事だ。」
ナベリウスはそう言った後に、私に向かって飛び掛かって来た。
そのスピードは凄まじく早く、そのスピードのまま手に持った剣を私に向けて振り下ろす。
私は、それに対して剣を剣で弾き、反撃の一閃を繰り出す。
それを、ナベリウスは避け切り、そのまま私の後ろへと過ぎ去っていった。
奴は、邪神の使徒。
約束を違える事はないだろう。
使徒とはそういうモノだ。
盟約・約束はどの様な存在にとっても守る必要のあるモノだからだ。
更に、ナベリウスは神の使徒である。
神は正邪に関係なく、盟約・契約・約束を重視する存在だ。
だから少なくとも、ナベリウス本人は守るし、守る為の行動をとる。
「ふぅ。」
私は息を深く吐き。
ナベリウスが出て行ったであろう方向を見ていた。
また、会うであろう神の使徒ナベリウス。
彼は、約束通り私の周りにて何かをする事は無かった。
敵対関係になるまでは。




