364 私の王子様♡ その6
「ねぇ。私達はどうするの?」
ロマニーが私とペニーに向けて聞いて来た。
それは、煉君が出発したその日だった。
「どうするの?ってどういう事?」
「決まっているでしょ。私達の今後の事よ。」
「どうするも何も、ザバルティ様にお世話になっているじゃない?」
「このままで良いのかって事よ。ザバルティ様は、もうエグゼイドの街から引き上げるって言っているのよ?いくらトーマスさんが居るからって、エグゼイドの街にいても会えなくなるのよ?」
そうだった。
確かにロマニーの言う通り、私達は一時的にザバルティ様の所に居るだけでしかない。
このままズルズルしていても、中途半端になってしまうのは想像できる事だ。
「でも、この街を離れる訳にはいかないじゃない。何せこの街にはミス.ドロンジョさんが居るんだから。」
そう、私達の大恩人にして、先輩でもあり、上司みたいな人がこの街の冒険者ギルドの長をしている。そんな中でプレストンが離れる事は決定しているんだから、ギルドの戦力ダウンは免れない。そんな中で私達まで抜けるとなると、ミス.ドロンジョさんが心配だ。
「そうだよね。それが問題だよね。」
これは三人の共通認識だ。
だから、この話題に触れない様に、いや、考えない様にしていたのが実態だと思う。
「何が問題なんだい?」
「「「ミス.ドロンジョさん!?」」」
急に私達の会話に入ってきたのは、ミス.ドロンジョさんだった。
「いえ。」
「あの。」
「その。」
三人揃って、まともな返答が出来なかった。
「なんだい。三人揃って、情けないねぇ~。」
ニコニコしながら、ミス.ドロンジョさんは私達を見る。
いつもなら、キツイ目で睨みつける所のハズ。
もしかして、W・B・Sのお二人に会えた事で、機嫌が良いのかな?そう思った。
「で、私がこの街に居るから何だい?」
そこまで聞こえていたんですか?という思いが更に、私達の口を閉ざす理由に拍車をかける。一生懸命身を護る貝の如くに口を閉ざした私達を見て、ミス.ドロンジョさんはまた再度笑う。
「仕方ないねぇ~。私が居るこの街の冒険者の上位ランカーが抜けた後の私が心配とでも言いたいのかね?」
「「「うっ!」」」
「まったく。私は何時からアンタら無しじゃダメになったのかね?アンタらはもしかして自惚れているのかい?」
「いや、そういう意味では。」
「違うって言うのかい?私をみくびっているんじゃないのかい?」
「違います!」
「そんな事思っていません!」
即座にロマニーとペニーは否定した。
「ふふふ。全く情けないねぇ~。」
本日二度目の、情けないねぇ~が出た。
でも、やっぱり今日はいつもと違う。ミス.ドロンジョさんは笑顔なのだ。
「アンタらに心配されるほど、老いぼれちゃいないよ!アンタらの好きにしたら良いじゃないか!」
あっ!言わせてしまったと私は正直思った。
私達が離れがたいという思いを前面に出し過ぎていたんだと。
だから、ミス.ドロンジョさんは私達の為にそれに気づいて、そんな厳しめな発言をしたのだと。
「そんな言い方ないじゃない!」
「ふん。小娘風情が、私に何をしてくれるって言うんだい?毎回毎回、壊した後処理を誰がして回ったと思っているんだい?」
「うっ!」
ペニーは沈黙した。まさに正論。
いつも、私達があだ名の『ブラック・デストロイヤー』の通りの行動を起こし、破壊した後の事後処理はいつもミス.ドロンジョさんがやってくれていた。
「だからって、酷いじゃない!」
「酷い?何が酷いんだい?いつまでもアタシの世話になっているお前たちの方がよっぽど酷いんじゃないかい?今時、子供だって成人したら親にはさほど迷惑はかけないだろうよ。」
「うっ!」
ロマニーは沈黙した。言い返す言葉は無い。
確かに、世間で成人したと見られる者は、自分で責任を取るだろう。
そこに、私達に甘えが無かったとは言えない。
「アンタらは私が居ないと、何にも出来ないのかい?」
「・・・。」
言い返せない二人を優しい目は見ている。
そして、ふと私に目を向けてきた。
「で、アンタはどう思っているんだい?」
何も言っていない私に聞いて来た。
私は迷った。ここで、思っている事をぶちまけて良いのかを。
だから、少しの間、沈黙がその場を支配した。
「えっと。ミス.ドロンジョさん。いいえ。シャーロット様。私は二人が言うような事は思っていません。」
「へぇ~。どうしてだい?」
シャーロット様と呼ぶのは何年ぶりだろうか?
その名前を聞いたミス.ドロンジョさんは疑問を浮かべた顔を私に向けた。
ビックリ顔のロマニーとペニーも私へ顔を向ける。
「今日はいつもと違うじゃないですか?」
「・・・。」
シャーロット様は答えない。
「厳しい言葉を私達に言いながら、今にも泣きそうな顔になっているじゃないですか?」
「「えっ?!」」
ペニーとロマニーは驚き、シャーロット様を見る。
「今日はずっと、目は笑ってます。でも顔は泣きそうです。そんな人に対して、酷いなんてオッもう訳ないじゃないですか?」
「・・・。」
やはり、シャーロット様は何も答えない。
「それに、ロマニーやペニーだってそれに気づいたなら、私と同じように言えなくなりますよ。」
私は堪え切れなくなってきた。
胸が熱くなり、涙が目に溢れてくる。
私と同じように、ペニーもロマニーも気づいたらしく、涙を目に溜めている。
そんな、私達を見て、シャーロット様は深く息を吐く。
「まったく。情けない子達だね!」
そう言って、私達三人を抱きかかえたシャーロットさん。
「アンタらは、私の自慢の娘達だよ。嫁にやる気分ってのはこういう事を言うんだろうね?私の事は心配しなくても良いよ。アンタ達の好きなようにやりな。どうせ、ザバルティ殿の所だろ?」
やっぱり気づかれている。
お母さんってこんな感じなのかな?
「さぁ、世界にその名を轟かしておやり!」
「「「はい!!」」」
私達は硬く抱きしめ合った。
そして私達三人「スマイル・ペウロニー」は一歩を踏み出す事になった。
母親の愛を感じて。




