361 クリスマスは。
「寒っ!」
「本当に今年は本当に冷えますね。」
今、街はクリスマスに沸いている。
私はこの世界でクリスマスがある事に初めはビックリした。
それはそうだ。クリスマスとは、地球の現代にある宗教の人物の生誕祭なのだから。
それが、この異世界にあるとは変では無いか?
しかも、この世界においても生誕祭がスタートだとされており、宗教色が強い。
ただ、これも地球と同じで、宗教的なイベントというよりも、庶民のイベントの一つとして浸透している。
「そうだな。丁度そこに屋台で暖かい飲み物を売っているようだから、少し休もう。」
「はい。」
私はミーリアを連れて、ホットコーヒーが売っている屋台に入る。
ブラックの薄めとカフェオレを注文する。
私は前世の時から薄いブラックを飲むのが好きだった。
貧乏性とも言えるが、苦みが薄まり飲みやすくなる。タバコが好きだった事もあり、水分として多く飲むからだった。
「ふふふ。」
「どうした?」
「いえ。何でもありませんよ。」
ミーリアが何故か笑う。
意味がわからない私は、聞き返すのだが、何も答えてくれない。
「お待たせしました。薄めブラックとカフェオレです。」
店員さんが商品を渡してくれた。
軽い木で出来たコップを受け取り、料金を払う。
「あのベンチに座ろう。」
そう言って、近くにあったベンチに座り、カフェオレをミーリアに渡す。
二人揃って一口あおる。
「熱っ!」
「ふふふ。」
猫舌は前世と変わらない私は、ついつい言ってしまう。
それを見て、いつも笑うミーリアが口を開いた。
「今日は、クリスマスですねぇ~。」
「そうだな。今日は街の中が賑わっているな。カップルばかりだ。」
「ふふふ。確かにそうですね。幸せそうで良いですね。」
笑顔で待ち行くカップルを眺めるミーリアは相変わらず美しい。
と、そう思った。
『・・・。』
何故か、ここで言葉では無いが、カミコちゃんから無言の圧を感じた。
なぜ、それを言わないのか?そんな感じだ。口に出せと。
私はブンブンと首を横に振る。
「どうかしましたか?」
「いや。何でもない。熱っ!」
「ふふふ。何やってるんですか?もう。」
私は誤魔化すために、また同じ事を繰り返し口の中を火傷する。
口から少し溢れたコーヒーをミーリアが、持っていたハンカチを出して拭いてくれた。
「熱いね~!お二人さん!」
二人組の男が冷やかしできた。
言葉はチャラいが、目つきが悪い。悪意がある感じだ。
嫉妬心だろうな。そう感じた。
なので、絡まれても面白くないので、殺気を飛ばした。
「「うっ!」」
ヤバいと感じてくれたようで、ササっと居なくなってくれた。
「ザバルティ様。ダメですよ。あんまり殺気を飛ばしては。」
「絡まれるよりは良いだろう?」
「もう。たまにはカッコよく懲らしめる所を見せてくれても良いんじゃないですか?」
「そうなのか?そう言うもんなのか?」
私は動転し、聞き返す。
「ふふふ。教えません。」
と言って、ソッポを向かれてしまった。
「わかったよ。次チャンスがあれば、そうするよ。」
「言われてやっても意味がありません。少し考えてください。」
そんな風に言われてしまった。
だが、そのセリフを私は知っている気がする。
前世での連れ添いとなった妻が、私によく言っていた言葉だ。
いつも、気が利かない私に対して、額に怒りマークをつけて言っていた言葉。
どうやら、二度目の人生となる今回も気が利かない。という事らしい。
「ごめん。」
私は素直に謝罪した。
前世でも同じように謝罪した記憶が蘇る。
「仕方ないですね。許します。」
そう言って、ミーリアは笑顔を見せてくれた。
「あっ!」
「どうかしましたか?」
ミーリアの綺麗な顔が困惑の表情に変わる。
「いや。なんでもない。」
私の脳裏にあったのは、妻が前世で全く同じように笑顔を返してくれた時の顔がミーリアにダブって見えたのだ。
私の妻は、日本人から見る外国人の美人顔の彫刻の様な美しさを持つミーリアに似ている訳じゃない。日本人らしい顔の女性だった。その似ていないミーリアに前世の妻の顔をダブらせてしまう。可笑しな事だ。
記憶を持っている弊害。マイナスの部分が出てしまったな。
そう、私は今でも妻を、前世での妻を愛している。
よく、世の中の夫婦は、夫・妻の関係は恋愛では無いと言う。
彼氏・彼女のそれとは違うと言う。
確かに、それも理解できる。
夫婦になると、彼氏・彼女の関係では見なくて良い事や、責任を持たなくて良い事などを見たり、持たなければいけなくなる。
良い事ばかりでは無い事も事実だ。
『夫は元気で外が良い。』
そんな言葉もよく耳にした。残念ながら、そういう面もあると思う。
しかし、私は妻を愛した。妻が私を愛してくれていたのか?愛し続けてくれていたのか?
それは、本人しかわからない事だ。だが、私は妻を愛していたし、今も愛している。
だから、一つ一つの行動を覚えてしまっているし、ダブらせてしまっている。
だから、そんな私は他の女性を求める事や、新しい恋を求める事は出来ないし、する事は失礼にあたるとも考えている。
だから、婚約も正直シンドイ。
しかし貴族である事と、この世界に置いての私の妻という立場は居ない事。
なにより、血筋を残す事は必要であるのもまた事実。
贅沢な悩みだと思わなくも無いが、今、悩んでいる事だったりする。
「ふぅ。」
「今日みたいな日に一緒に居る時ぐらい、考え事はしないで欲しいと思うのですけど?」
「すまない。」
「謝ってばかりですね。」
「ごめん。」
「ほら?」
「あはははは。本当だな。」
「本当ですよ。さぁ、皆が待っています。帰りましょう。」
「そうだな。帰ろう。」
私は立上がる。
すると、ミーリアはスッと横に着て私の手を握る。
「今日はクリスマスです。少しだけ。」
そう言って恥ずかしそうに下を向いた。
「わかった。」
私も恥ずかしく思い。それだけしか言えなかった。
その後、二人揃って黙って街並みを見ながら家に戻った。
屋敷に着く寸前まで、手を繋いだままで・・・。




