360 次の一歩へ。
アリアさんが目覚めて数日後、衰弱していたアリアさんも体調が整い、運動が出来るまでになった。
「ふぅ。久々に良い汗かいた気がするわ。」
「それは、良かった。」
「ザバルティさん?!」
そこにはザバルティさんが居た。
ここはザバルティさんの屋敷の地下階にある訓練室なのだから、来ていても不思議じゃない。
「だいぶ、良くなったみたいだね。」
「はい。」
「今回は、色々ありがとうございました。」
アリアさんと僕は一緒に頭を下げる。
「それは気にしないでくれ。私も目的があって行動したに過ぎないから。」
「そうかもしれないですけど、私も煉君も生きているのは、ザバルティさんのおかげです。」
「僕もそう思っています。ありがとうございました。」
少し、恥ずかしそうにしたザバルティさん。
「君達がそう言ってくれるなら、素直に感謝を受け取らないといけないね。」
照れた感じでザバルティさんは言った。
その後、少し雑談を交わした後にザバルティさんは僕達に聞いて来た。
「で、君達はこれからどうするんだい?」
「僕等は一度、エグゼイドの街に戻ります。そして、アリアさんの仲間を探す為に、一度アギドの街に行こうと思います。」
これは、これまでの間にアリアさんと確り話し合った結果だ。
「プレストン君は何と?」
「まだ、話せていません。『今は兎に角一緒に居ろ!』と言ってくれていたので、明日にでも行って話をしようと思います。」
「そうか。」
何故か、少し寂しそうにしたザバルティさんは頷いた。
「まぁ、プレストンなら、煉の思いに合わせてくれるだろう。」
「はい!」
僕は真っすぐにザバルティさんを見て答えた。
「では、今後何かしらの力が必要な時は、エグゼイドの街にはトーマスが居るから、彼を頼りなさい。必ず力になってくれるはずだ。私から力になる様に話しておくよ。」
「ありがとうございます。ところで、ザバルティさんはこれからどうされるんですか?」
「私は、アスワン王国に戻る事にするよ。あちらで色々と溜まっている事があるからね。それに、君達がここを出る事になると、私とカーリアン帝国は遠い関係になるからね。」
「そうですね。」
確かにザバルティさんの言う通りだ。
「だが、君達はそういう訳にはいかないだろ?特にアリアさんは。今後、ナベリウスが何かしら、君達に手を出す事はないだろうが、帝国は違うだろ?」
「はい。ザバルティさんのおっしゃる通りだと思います。私が居る限り、カーリアン帝国は放置しておいてはくれないでしょう。」
悲しそうな顔になるアリアさん。
だけど、僕等はそれを承知している。承知の上で行動する。
「まぁ、とは言え直ぐに何か?とはいかないだろうが、十分に気をつけろよ。」
「はい。」
笑顔で、そう言ってくれたザバルティさんがモテるのは当然な気がした。
凄すぎる。同じ年齢とは思えない。
今だってそうだ。さらりと、僕等を気遣い、示唆してくれる。
そして、その日はアリアさんと僕の送迎会という名のパーティーをザバルティさんは開いてくれた。
◇◇◇◆◇◇◇
数日後。
「本当にお世話になりました。」
「ああ、いつでも来ると良い。」
「ザバルティさん。色々と頂いて本当に良かったのでしょうか?」
今回、ザバルティさんからアリアさんは装備品を贈られた。
武器・防具・道具など。
「勿論だとも、どれも私の自作ではあるけれども、貴女の助けになると思うから、存分に使い倒してやってくれ。」
「わかりました。ありがとうございます。」
そして、馬車迄用意してもらったのだ。
亜空間が付いたモノで、特別製だ。
この世界の貴族様って本当に金持ちなんだろうな。
ポンポンとくれるザバルティさんを見ているとそう感じる。
後日、アリアさんにそう言ったら、『ザバルティさんは特別なだけよ。』と呆れられてしまった。こういうのを世間知らずと言うのかな?
「この馬車は本当に嬉しいな。」
「だよなぁ~。これがあれば、野宿が楽しくなるからなぁ。」
「違いない!」
ここにはプレストンさんとパークリーさんも居る。
二人の会話は何とも現金な感じだけど、実際使った事のある僕等はそう思うのも事実だ。
「すいません。」
「いいさ。喜んでくれているというのは嬉しい事だ。」
だが、身内として僕は少し恥ずかしかった。
この馬車の御者を後で、冒険者ギルドで紹介してもらう予定になっている。
もちろん、ミス.ドロンジョさんから紹介されるので、この馬車の秘密も打ち明けれる信頼のおける人の様だ。その人の給料は僕達が払う事になっている。
「煉君。いつでも、来てくれ。ザバルティ様は居ないけど、私が対応させてもらうから。」
「お願いします。」
トーマスさんが僕にそう言ってくれた。
こう考えると、何だかんだで、僕に協力してくれる人が増えたな。
感慨深いものがある。
「じゃあ、そろそろ行きます。」
「煉君、頑張ってね。」
「煉、気をつけてな。」
「アリアさん。プレストンさん。パークリーさん。煉を宜しくお願いします。」
最後のはザバルティさんだ。
偶に保護者の様な話し方をするんだよね。何でかな?
少し恥ずかしい。思春期の僕としては反抗したい気分にさせられるんだけど、ザバルティさんには言えないな。
そんな保護者みたいな発言に対して、アリアさんやプレストンさん、パークリーさんが『任せてください!』的な反応になるのも不思議ではある。まぁ、皆、ザバルティさんに助けられているからね。そうなるのは自然かもしれないけど。
僕等はこうして、次の一歩を踏み出す事になった。




