358 『任せる』という決断。
「そうか、やはりナベリウスが出てきたか。」
『はい。』
今、私はエグゼイドの街の執務室に居る。
「ナベリウスが出てきたという事は、おおよその拠点の場所は分かったかな?」
『わかりました。』
流石、カミコちゃん。とても優秀だ。
「助かる。ありがとう。精査しておいてくれ。」
『かしこまりました。』
これで、近いうちにナベリウスの拠点を把握できるだろう。
それに、このエグゼイドの街の事件も解決だ。
これも煉達のおかげだな。
「ふふふ。ブラック・デストロイヤーの役目は確りと果たしてくれたみたいですね。それにアリソンも。」
「ああ、そうだね。」
ミーリアの言う通りだ。
確りと果たしてくれた。これは帰ってきたら、誉めなくては。
「でも、あまり派手に誉めてはなりませんよ?」
「えっ?何で、誉めるとわかったの?」
「ふふふ。」
笑って誤魔化された気がするのだけども。
「それより、この後はどうなさいますか?」
「そこだよね。アリアさんは戻ってくるみたいだしね。」
そう、煉からすれば、無理にナベリウスを追う必要は無くなった。
ある意味で肩透かしを喰らう感じになってしまったのは事実だ。
私にしても、無理矢理に追う必要は無い。
別に、この世界をどうにかしてやろうとか、考えている訳では無いし、ナベリウスによってこの世界が終焉を迎える訳でも現時点では無い。
つまり、戦う必要性が無くなったという事だ。
しかし、アリアさんは元々カーリアン帝国の皇帝が探していた人物。
そして、ここはカーリアン帝国内。
「つまり、裏があるって事だろうな。」
「そうでしょうね。」
正直言うなら面倒くさい。
政略やら戦略やら使われて、その状況を甘んじて受けなければいけないというのは、他人の思惑に対して処理をしなければいけない。
それは往々にして、自分達の思いとはかけ離れる事が多い。
「どうするか?」
そう独り言の様に呟いた私をミーリアはそっと見ていた。
「この後の事は、全て煉に任せてみてはいかがでしょう?」
「全てを任せる?煉に?」
「ええ。そうです。判断を任せてしまえば宜しいかと。」
「だが、まだアイツは若い未熟者だ。」
「確かにそうです。しかし、それでも煉はこの世界に来てしまった。そして、精神世界の一部である精霊界を旅した。そして、煉はアリアさんという中心人物の事を愛している。そんな煉が判断し、行動する。それで良いんじゃないでしょうか?」
確かにそうだ。
煉が如何に未熟者であっても、それでも今は中心人物の一人だ。
それに煉も一人の人間だ。いい加減、私は離れなければいけないのかも知れない。
煉に任せる。一人の大人として任せる。
もし失敗するような事があれば、手助けをすれば良い。
尻拭いは先達の責任。
「それに、もし煉が困っていれば、助けてあげれば良いのではないですか?助けてはならないという事は無いのですから。」
世代交代。
前世での私は何度かそれを経験した。
自身の子供に交代する。
後輩に仕事を交代する。
どれも、私が衰えを見せ始めたからであると共に、次代へ継いでいく必要がある事を世代交代により、後進への教育をおこなうというモノだ。
私自身も自身の父から。自身の先輩から受け継いだ。
受け継ぐ事の難しさや、教育の難しさを感じる瞬間でもある。
とは言え、私はこの世界ではまだ16歳なんだがね。
「わかった。トーマスとシェリルを呼んでくれ。」
「かしこまりました。」
私のこの国での活動は終止符を打とう。
この国で起こる事は、もう煉に任せよう。
そう決めた。ただ、私がここに居ると、どうしても手を出してしまう。
だから、私はこの国から出よう。そう決断した。
トーマスにはこの国に残って、この国での拠点を守ってもらうと同時に、煉が手助けを求めれる相手として居てもらう。
シェリルには、この国での情報を集める為の組織化をしてもらおう。
まだまだきな臭いからな。
部屋に入ってきたトーマスとシェリルに詳細な指示を出した。
◇◇◇◆◇◇◇
そこからは、この国を出る為の準備を行う事にした。
私は有名になるべくしてなったのだが、この国を出るには少々有名になり過ぎた所がある。
少なくとも。この街を出るには堂々と出て行く必要がある。
私はその為に、ミス.ドロンジョさんに会いに行った。正面から【ザバるん応援隊】を引き連れて冒険者ギルドに入った。
「ミス.ドロンジョさんは居るかな?」
受付カウンターで、受付嬢にそう聞く。
「はい。ただいまお呼びします。後、握手良いですか?」
願いを聞き、握手をした。となりで、ミーリアがゴホンというまで続く握手の後に受付嬢が奥へ行く。がそのタイミングで、奥からミス.ドロンジョさんが出てきた。
「待ってたよ。こっちへ来ておくれ。」
そう呼ばれて、奥の部屋に入る。
「今日は、報告に来たんだね?」
「そうです。」
そして、今後の話を細かく説明した。
私の思いも含めて話をした。
「話はわかった。では、ザバルティ殿は出るという事だね?」
「ええ。そうです。残念だけど仕方がないね。で、アイツらは連れて行くのかい?」
「あいつ等とは?」
くっくっくとミス.ドロンジョさんは笑った。
「決まってるじゃないか。スマイル・ペウロニーの三人だよ。」
「えっ?」
「あいつ等は、アンタについて行きたがると思うけどね?どうなんだ?アイツらが行きたいと言ったら、連れってってやってくれるかい?」
「ふふふ。ザバルティ様は連れて行きますよ。NOとは言えない人ですから。」
「そうかい。そうなら良い。」
何故か、私ではなくミーリアに聞くミス.ドロンジョさん。そしてそれに答えるミーリア。
ここで、何勝手にという言葉を言うのは簡単だが、結果的に見れば、ミーリアが答えた方が良いのかもしれない。私に火(非)が飛んでくる事にはならないから。




