351 異様な光景。
「何これ?」
「これが戦場後なの?」
僕達の目の前に広がる不思議な光景を見たペニーさんとロマニーさんは険しい顔になって言った。
何が不思議なのか?
人という存在が無いのに、武器だけが転がっている。
偶に鎧の一部があっても、人や鎧が一切ないのだ。
転がっているのは槍や剣。血しぶきや血痕があるだけなのだ。
地面に赤く染まる血の量を見ても、相当の量が流れたハズ。
つまり死んでいるハズなのだ。
「死体を回収したのかな?」
「だが、普通死んだ者を弔うための回収なら、武器を置いたままにはしない。」
ペニーさんの疑問は皆が最初に思った事だろう。
僕はプレストンさんの言う通りだと思う。武器だけを放置するなんてあり得ない。
少なくとも武器は個人の象徴になり得るし、騎士としては放置出来ない代物のハズ。
「じゃあ、上手く撤退したのかな?」
「その可能性はあるな。しかし、この道はエグゼイドの街と独立反乱をしているアギドの街に繋がっているだけだ。普通に考えて、軍はエグゼイドの街に戻る道を選ぶんじゃないか?少なくとも俺達はあってないし、そういう話も聞かない。襲撃を受けた際に報告に出た兵がエグゼイドに到着しただけのハズだ。」
「確かにそうだ。だが、そのエグゼイドの街に繋がる道を塞がれて、カーリアン帝国の帝都に戻る為に、あの山。竜騎山脈を越える事は考えられないだろう?」
「う~ん。じゃあ何処に?」
「とにかく、少し調べてみよう。この状況がどういう範囲に広がっているのか?どういう形に広がっているのか?それが分かれば、何処に向かったのか?それとも全滅したのか?そういうのが見えてくるだろう。」
プレストンさんとパークリーさんの話で、この異様な場所の捜索をした。
皆で手分けして、調べた結果、やはり死体という存在は無かった。
そして、放置された武器は東西に延びている事が分かった。
「う~ん。撤退は二軍に分かれたのかもしれないな。」
「その様ですね。」
「どうしますか?やっぱり二手に分かれて捜索しますか?」
僕の問いに対してここで初めてアリソンさんが口を挟んだ。
「纏まって、どちらかにしよ~。」
「えっ?でも?」
「だいじょうぶい。」
大丈夫いって何だ?
「纏まって行動した方が良いのは確かだな。」
パークリーさんがアリソンさん擁護する感じの発言。
確かに、不死身と言われる相手だし、今この現場が恐ろしさを与えてくるのも事実。
パークリーさん以外にも、ペニーさん、ウジェニーさん、ロマニーさんの三人も賛同した。
「じゃあ、纏まって動くとして、どっちに?」
「東側の森に向かおう。その先はゼロワン河が流れている。」
「えっと、何で河の方なんですか?」
「それは・・・感だ!」
「「「「「「え~!」」」」」」
プレストンさんの発言により、一同揃った反応をした。
「いや、だってよ~。竜騎山脈は厳しいって見通しなんだろ?そしたら、もう一つの方しかないだろ?」
そうだけど、そうなんだけど、何か根拠が欲しいよね。
「ふふふ。プレちゃんはローちゃんより、イケてる。」
アリソンさんが一人笑い転げている。つうか、ローちゃんって?誰?
「おお?そうか?」
いやいや。そこは嬉しそうにする所じゃないでしょ?
プレストンさんはアリソンさんのイケてる発言で嬉しそうにしてるけど、それは、馬鹿にされてると思うんだけど。
「まぁ、良いんじゃないか?どっちにしろ、竜騎山脈はきついしな。」
「たしかに、そうね。じゃあ向かいましょう。」
「とにかく、ここの武器を集めましょう。事が終わった後にでもカーリアン帝国に届けましょう。遺族が喜ぶハズよ。」
こうして僕達は周辺に転がっている武器を集めた。
集めた武器はアリソンさんが持っていた空の魔法鞄に入れて馬車の亜空間へしまった。
その間、あまりしゃべらずに、黙とうしながら集めるプレストンさんの姿が印象的だった。
「ふう。こんなもんか?」
「そうね。」
結構な時間が掛かった。まだ昼間ではあるけれど、これからの時間で森に入る事は躊躇われたので、一度森の近くまで馬車で向かう。道が有る訳ではないが、そこはアリソンさんが土魔法を使って整地してくれたので、馬車が揺れて大変になる事は無かった。
「る~る~るぅ~♪」
その様子を見たパークリーさんは驚いた顔で隣にいるロマニーさんに話をしていた。
「一体、あの人の魔力はどんだけあるんだ?」
「これ位の事なら、ほぼ消費していないというレベルかもしれないわ。何せ自動魔力回復まで付与されてるらしいから。」
「はぁ?!」
驚きから、驚愕に変っていた。
そんなこんなで、森の傍に着いた。
「ここら辺が良いかな?」
「ほぉいほぉい♪」
そこでもアリソンさんが魔法で整地してくれた空間が出来上がる。ちょっとした堀が出来ており、その中に馬車を入れて野宿する形の様だ。
「じゃあ、周辺の魔物を駆逐してくるぅ~。」
「じゃあ、俺もいくぜ。」
「おぉ、プレちゃんも来る?」
「ああ。」
こうして二人は森の中へと消えて行った。
一時間ぐらいして戻って来たのだが、プレストンさんが幾分かゲッソリしていた気がしたのは気のせいだろうか?
いや、たぶん気の所為じゃないな。
一体、何があったのだろう?




