349 私の王子様♡ その3
トントン。
私達の寝ている部屋がノックされた。
「は~い。」
ペニーが返事をする。
「交代の時間です。」
「もうそんな時間か。わかりました。」
煉君の立ち去る足音がした。
「ロマニー。時間よ。起きて。」
ペニーがロマニーを起こしているので私は先に起き上がり、顔を洗いに洗面台に向かう。
この馬車内の亜空間はザバルティ様によって色々と工夫された造りとなっているので非常に便利だ。昨日寝る前はシャワーを浴び、体を綺麗にして寝る事が出来た。
しかもベットが人数分用意されている。フカフカのベットなのだから、野営している気分ではなくなってしまう。欠点と言えば、そのせいで緊張感がない事かな?
「おはよ。」
「おはよう。ウジェニーは早いね。」
「そうかな?」
ペニーの評価に対して首を傾げてしまう。どちらかと言うとロマニーが遅すぎるだけじゃないかな?
「それよりも、待たせるの悪いから、私は先に出るよ。」
「うん。ごめんね。」
私はペニーにそう告げて準備を手早く済ませて部屋を出ようとする。
出る前になってようやくロマニーがゴソゴソ動き出した。
ロマニーはいつもは頼りになるんだけど、寝起きだけは、すこぶる悪い。
「ウジェニー。ごめんね~。」
「良いよ。わかってる。」
寝ぼけ顔のロマニーに手を上げながら返事を返して、私は部屋を出た。
部屋を出て向かい側は男達の部屋で、今はプレストンとパークリーさんが寝ているハズだ。
そして右へ続く先はアリソンさんの部屋がある。左手に続く先の扉が馬車の荷台に繋がっている部屋がある。ちょっとした話し合いが出来る程のスペースがある。そこには、冷蔵庫なる物が設備されている。冷たい飲み物が入っているので好きな時に飲めるようになっている。
ちなみにこの亜空間は白い空間で、優しい光によって明るくなっている。
全てはザバルティ様による構造物で一杯だ。
外を眺める事は出来ないが、その分馬車の揺れも無い。
部屋を抜けて馬車の荷台に出た私はそのまま外へ出る。
「お疲れ様。」
「おつかれ~。」
「お疲れ様です。」
短い挨拶を交わし、情報を貰う。
今回は特に気にするべき事はない様であっさりと済んだ。
「私は部屋に戻るねぇ~。おやすみ~。」
アリソンさんはそう言って自分の部屋に戻っていった。
「他のお二人は?」
「まだ用意しているよ。」
「そうですか。じゃあお二人が来るまで、僕は居ますね。」
「いや、大丈夫だ。」
「あぁ、僕が居たいだけですから、気にしないでください。」
「そうか。」
こうして煉君は残ってくれた。優しい男だ。
「あの、聞きたい事があるんですけど良いですか?」
「あぁ、かまわないよ。」
「ありがとうございます。では早速なんですけど、ウジェニーさん達は何で冒険者になったんですか?」
「何故か?か・・・う~ん。それしかなかったからかな?」
「それしかって冒険者しかって事ですか?」
「ああ。私達三人は孤児でね。日銭を稼ぐ必要があったんだ。私達は女だろう?体を売るという商売もあったんだが、どうしても嫌でね。それで冒険者をする事にしたんだ。」
「なるほど。」
煉君に話をしているとあの懐かしい日々を思い出す。
苦い思い出が多いいのは間違いないのだけど、ドンドン美化されていく気がする。
「そうよね。私達にはこれしか無かったよね。」
「ペニーさん。おはようございます。」
すると、ペニーが出てきた。後はロマニーだけだ。
◇◇◇◆◇◇◇
私は孤児で女だ。
親の顔なんて見たことは無いし、気がついた時には私と同じ境遇の子達と一緒に街の片隅でくっついて寝ていた。
毎日毎日、食べる物がなく、近くの大人の好意によって少し分けて貰えるか、ゴミを漁って食べ物にありつく為の毎日だった。
私はそんな境遇の中でとても仲良くなった二人とよく一緒に居た。
ペニーとロマニーの二人だ。
何をするにしても一緒に居た。
仲間の中には盗みをする者も居たが、後の報復が怖くて私達は出来なかった。
「お腹空いたね?」
「お腹空いた~。」
そんなやり取りばかりの日々だった。
「おい。お前達、冒険者にならないかい?」
そんな事を言ってきた大人が居た。女の人で、しゃべり方に似合わない品の良い動きをする人だった。
「冒険者?」
「なんだよ。ロマニー知らないのか?」
「うるさいよ。コルド!」
「冒険者ってモンスターと戦う人達の事よね?」
「ああ、そうだよ。お嬢ちゃん、お名前は?」
「私は、ロマニー。彼女がペニーでこの子がウジェニー。」
「そうかい。私は、シャーロット・フリーア。シャーロットと呼ぶと良い。」
「シャーロットさん。私達でも冒険者になれるの?」
「ああ。なれるとも。」
「ごはん、一杯食べれるようになるかな?」
「もちろん。食べれるようになるよ。」
シャーロットの言葉を聞いてロマニーは私とペニーの方へクルリと振り向いた。
「ねぇ、冒険者になってみようよ。」
「本当に出来るかな?」
「ここに居るよりはマシじゃないかな?」
「そうかな?」
「良いよね?ウジェニー。」
「良い。」
「うう。じゃあ私もなるよ。」
ロマニーに私が了解を出して、ペニーが渋々頷く構図はこの時からかな?
こうして私達は三人は他の孤児たちと一緒にシャーロットの言葉により一歩を踏み出した。




