343 死んだ後に・・・追跡任務
「アイツ。早いな。」
「そうね。」
今、アタシはザバルティ様の命令で動いている。
今回の任務は追跡。先の先頭において逃げ出した女、たしか、ギャネックとか言うケバイ女を追っている。
アタシの横で息も切らさずに一緒に走るシェリルとそんな会話をしながら、追跡している。
相手は飛んでいるから、下を走るアタシらは大変だ。
とは言え、そこはカミコちゃんの力を利用しているアタシらには難しい事じゃない。
『このまま、南西方向で大丈夫です。』
ほらこの通り。
「アタシら必要かな?」
「ステファネス。カミコちゃんはあくまでサポートしか出来ないの。対象を目視しないと確実な事は手に入らないのは分かっているでしょ?」
「そうだけどさ。ここまで盤石な体制が必要かな?」
「もう。あのね。相手も【神の使徒】なのよ?油断してやられましたじゃ、ザバルティ様に顔を見せれなくなるでしょ?」
「まぁ、そうなんだけどさ。」
いくらカミコちゃんとは言え、カミコちゃん自身がこの世界に存在して感知している訳じゃない。今はアタシらを媒介にしてその人を中心にある程度の距離を感知しているにしか過ぎない。つまり、あくまでも人のサポートになるって事。自身で考えて行動する訳じゃない。たまに、あれ?って思う時がない訳じゃないけど。
「ぶつくさ言わないで、追いかけるよ。」
「へぇい。」
でも、って思っちゃうよね。
そのまま、アタシらは走って追跡を続けた。
どれだけ追いつ続けたかな?
『およそ、50キロ程です。』
「ありがとう。」
心で思った事が筒抜けなのもちょっとなぁ~とか思いつつ、感謝の言葉を述べた時だった。
『危険感知。敵襲予測。到着予定1分。』
「なっ!」
「逃げるよ!!」
「でも!良いのか!」
「問題ない。方向だけでも間違ってないっていう事が分かった。正確な場所は後にみつける!」
「わかった!」
シェリルの判断は早かった。
「カミコちゃん!後方の者にも伝えて!」
『かしこまりました。』
喋りながら、Uターンはキツイけど仕方ない。
「囮は私がやる。」
「わかった。死ぬなよ!」
アタシは囮役を買って出た。
「皆、気配を一斉に絶つよ!サン・ニィ・イチ!」
シェリルの掛け声で、皆が一斉に気配を絶つ。
そして、分散して逃げ出す。
私は小さい気配のまま、その場から逃げる。皆が逃げていない方向に。
なぜ、こんな事をするのか?
相手は敵として強者である可能性が高い。
何せ、カミコちゃんのセンサーに掛ってから、こちらに来るまでの時間予測が短すぎる。
飛行持ち若しくは飛行が出来ると言う事。
気配を全員が無くしてしまうと、追ってくるであろう場所の推定が難しくなる事。
今回は逃げる事を選択したので、迎撃する訳じゃなく、追い払う事が目的である事。
これらの事から、囮を用意し、そこに向かって来る相手を退ける事を選択したからだ。
『敵は1体ですが、追っている者の仲間の可能性が高いです。』
『飛行している様子です。』
『順調にこちらに向かって来ています。』
カミコちゃんから次々と情報が入る。
『追いつかれます。』
「みたいね!」
流石にここ迄来ると、アタシでもわかる。
振り向きざまにその方向へナイフを3つ投げた。
「キン!」
という音がして弾かれたのが一つである事を確認しつつ、その場から飛びのく。
「ドン!」
という音と共に、さっき迄居た場所に女が剣を突き刺す格好でしゃがんでいた。
「やるじゃないか。」
その言葉と共に、その場から一気にアタシの方へ近づくと、剣を真横に払ってくる。
それをアタシはしゃがみ込み、その体制のまま、下蹴りを繰り出す。
相手はジャンプして避けてそのまま上空に上がる。
「なっ!」
その女は上空に逃げた所に、武器が飛んでくると想定していなかったのか、慌てた様子を見せるが、10方向の攻撃を剣で捌く。
矢、ナイフ、石等の飛び道具から、火、水、土、雷等の魔法がその女の剣の捌きにより落されていく。
「ふん!残念だったな。なっ!」
ただし、11番目の攻撃は見事に翼に命中していた。
風の魔法。鋭く矢のようになった。風がその女の翼を切り刻んでいた。
「おのれ!」
その女のその言葉はその周辺何キロ先にまで響いた。
アタシらは今度は皆が完全に気配を絶って既にその場から離れて居たから、背中にその言葉を受けていただけだった。
「アイツは相当に強いな。」
「そのようね。面倒ね。」
アタシの言葉は独り言にならなかった。
シェリルがそこに居たからだ。
「とにかく、別の方法を探さなきゃ。」
シェリルのその言葉に同意を示し、あの女が何処かへと飛んで行くのを見守った。
「今回は厳しいモノになりそうね。」
「そうだな。アタシは今回も最後まで生き抜けるかな?」
「はぁ?生き抜けるかな?じゃなくて生き抜く!のよ。」
「そうだろうけど。」
「あの子らが、また路頭に迷って良いの?」
「?!良い訳がない!」
「でしょ!そしたら、アンタがそんな弱気じゃダメでしょ!それにザバルティ様にまたポンポンしてもらいたいんでしょ?」
「なっ!何でその事を?!」
アタシの顔が赤く染まるのが分かった。
「へぇ。動揺しても、気配を絶ったままね。成長したねぇ。」
「うっさい!」
『ご報告。シェリルもマスターに抱きしめられて、赤面してました。』
「なっ!」
「えっ!」
「ちょっと、シェリル。どういう事かな?詳しく聞こうじゃないか?」
アタシは赤面したシェリルの肩を強く掴まえた。
今日は、逃がさないって心に誓って。




