340 生かされた私達の選択。 その1
私達は油断していたんだと思う。
じゃなきゃこうもアッサリと私達がやられるはずが無い。
私達は、邪神の使徒ナベリウス様に仕える者。
血を分け与えられ、半人半魔のナベリウス様の眷族。人間を超越した存在。
私みたいな出来損ないなら分からないが、あのインディラが一刀でやられるなんてあり得ない!
今、目の前で起こった事は事実じゃない!きっと幻術の一種だ。
と、私は最初思った。
その時には大きな声でインディラを呼んだ。
そんな中でもギャネック先生は冷静だった。何故?仲間がやられているのに?
置いて逃げるなんてあり得ない!
気がつくと、先生は離脱し、逃げた。
そして私は降参した。せめてインディラの亡骸を回収したかったからだ。
なのに、邪魔をされた。
大きな声で威嚇し、どけようと試みたが、その人の声と言葉に圧倒され動けなくなった。
その間に男がインディラに近づき、膝をつくと手が光り輝きだした。
その光は強く強く輝くと辺りは何も見えない、白い世界になった。
私はそれをただ茫然と眺めていた。
なんなの?
この神々しい光は?
なんなの?
この優しい光は?
私はこの時にインディラの事を忘れるほどにその光の事を考えてしまった。
だけど、たぶん私じゃなくてもそう思ったんじゃないかと思う。
その圧倒的な輝きは、暖かく、優しく、神々しい。
たぶん、この光を見た瞬間に理解させられたんだと思う。
インディラは大丈夫だと。死ぬ事は無いと。助かったのだと。
そして徐々に光は収まり、周辺が見える様になった。
私は、光を放った男の人を見続けていた。
そこには、純白の羽が舞っている様な気がした。神々しい羽が。
「もう大丈夫です。どうぞ。」
その言葉に我に返った私は魔法が解けた様に動ける様になった。
直ぐにインディラに駆け寄り、抱きしめた。
インディラは健やかな息をしていた。
やっぱりだ。大丈夫だった。私は本当に安堵した。
頭では理解させられていても心は理解していなかったのだと思う。
でも、分かれていた体が、一つになっていて、息を吸う胸の浮き沈みを見て、抱きかかえてようやく、心が追い付いて来たんだろう。
「よかった。」
言葉が勝手に口から出た。
そして目に涙が溢れてきたのだ。
安堵した証拠だと思う。
そこからは、少しうろ覚えだ。
あまりにショッキングな事が続いたからなのか?
心の底から安心したからなのか?
「君達には、申し訳ないが自由を与えれない。」
そう宣言された気がする。
「私の庇護下に置かせてもらうね。ごめんね。」
そう、男の人。
その人にそう言われた気がした。
私は逆らう事はせずにただ頷いていた。
そして気がつくと、何処かの建物の一室に居た。
魔力を感じた気がするから、魔法なのかな?
「ここは私の屋敷だ。申し訳ないが、当分ここで、生活してもらいたい。」
そう男の人が言った気がする。
その部屋にはベットが二つ用意されていた。
その一つに女の人に協力してもらってインディラを寝かせた。
そしてその女の人が私とインディラに洗浄魔法をかけてくれた気がする。
スッキリした気分になったのを覚えている。
そして女の人のススメに従って私はもう一つのベットに横になった。
そしたら、一気に眠気が来て、私は目を閉じた。
◇◇◇◆◇◇◇
「と、いう事があったのよ。」
私はその時の状況を詳しくインディラに言って聞かせた。
「そんなバカな!って言いたいけど、実際に私は斬られた事を覚えているから、反論できないね。」
インディラは反論したそうだったけど、実経験が正しいと告げているみたいだ。
インディラは数日寝ていた。流石に消耗したモノが多すぎたのかもしれない。と様子を見に来たザバルティ様は言っていた。
そして、インディラは先ほど起きた。
「でもまさか、神の使徒様がナベリウス様以外に居るとは思わなかったわ。」
「そうでしょう。しかも、私は見たのよ。ザバルティ様には純白の羽が舞ってたの。」
「うそ?!」
私の言葉に驚きを見せるインディラを見て私は微笑む。
「本当よ。私には見えたの。あの人は、ザバルティ様は聖神の使徒様なんだと思うの。」
「そうなのね。私達とは逆かぁ~。」
「うん。」
そう、そこがネックになっている。
今、私達が開放されないのもそれが理由。
「でも、今の私達の状況は治す事が出来るって言われたのよ。」
「えっ?」
「普通の人に戻す事が出来るって言われたの。」
「うそっ!?本当に戻れるの?あの醜い翼を無くす事が出来るの?」
「うん。そう言われた。」
二人の間に沈黙が訪れる。
私達はあの苦境から逃れる為に力を欲した。
生き残る為に選択した結果だ。
だけど、私達二人は決して望んでいたわけじゃない。
確かに、ナベリウス様。ナベリウス君はカッコよかった。憧れの存在だった。
でも憧れであっただけ。この先のあの人について行けるとは到底思えなかった。
私達は幼すぎたのだ。
「インディラはどうしたい?」
「わかんないよ。急にそんな事言われても・・・。」
「そうよね。私もどうしたら良いかわかんない。でも、あのギャネック先生の所には戻りたくない。って強く思うの。」
「えっ?なんで?」
「だって、私達を置いて逃げちゃったんだよ?」
「そうだったね。私、死にかけてたのに置いて行かれちゃったんだったね・・・。」
その時の私達の周りには【重たい沈黙】が漂っていた。




