339 桜花一閃
僕は集中して待った。
呼吸を整えて、一瞬を見逃さない様に待った。
今もプレストンさんの連撃は続いている。
相手に当たる事は無いけど、飛ばせない様に、反撃させない様に上手く捌いてくれている。
作戦通りという訳じゃないけど、今の所は僕の意図を組んでくれているのでは無いかと思う。少なくとも、相手の方が格上であると思える中で相手の方が多いというこの状況では。
「煉!」
プレストンさんが不意に声を上げたのは僕が一歩を踏み出した瞬間だった。
だけれども、僕の動きはもう止められない。下手に替えてしまえるほど、僕の力量は達していない。なのでそのまま一撃を与えた。
「あぁあっ!」
相手はインディラと呼ばれた女性だ。
この一撃は、練習を重ねた【桜花一閃】という大技だ。
上段からの一閃で相手の肩から入って、そのまま逆の腹から出るその切り口は相手を一瞬で断ち切るというモノで、更に相手からすると、ユラユラと桜の花が舞い落ちるかのような動きを僕がしている様に見えるはずだ。だが実際はそう見えた瞬間に回避行動等の対応をしなければ斬られるという技だ。
見事に決まり、インディラと呼ばれた女性は倒れた。
「インディラ!!」
その衝撃的な状況を見たタマルと呼ばれた女性は大声を上げている。が、近づく事をプレストンさんに邪魔されている。
「がはっ!」
インディラと呼ばれた女性は避ける事が出来なかった。
僕の技を知らなかった事に加えて、戦闘経験が少なかった事。そしてその上でプレストンさんに回避行動の制限を掛けられていた事が大きいと思う。
そして今、彼女は地面に横たわり口から血を吐いている。
「ふふふ。少しはやるみたいですね?」
タマルと呼ばれた女性とは対照的な反応を示すギャネックは落ち着いた様子だ。
何かオカシイ。仲間がやられたハズなのに、平然としているその姿に僕は納得いかなかった。
「タマルさん。ここは一度ひきますよ?」
「先生何を言ってるんですか?インディラを置いていけません!」
「馬鹿な子ですね?ここに来てもそんな甘い事を。良いでしょう。お好きになさい。」
今までプレストンさんの攻勢を只避けていたハズの人とは思えない動きをするギャネックは戦闘範囲を大きく離脱した。
「では、ごきげんよう!また会いましょう。」
そう言い残し消えた。飛び去ったと言う方が正確かもしれない。
「なっ?アイツ置いて行きやがったぞ?」
プレストンさんは少し動揺している様子だ。
仲間を置いて逃げたギャネックを見て、あり得ないと思ったのかもしれない。
そして、タマルは一人残り、プレストンさんが動揺した様子を見て一気に大きく避けて離れた。
「インディラ!」
そう叫びながら飛んで僕の方へ突っ込んできた。
『無駄じゃ!』
防御障壁をヒミコさんが展開しタマルの攻撃を防ぐ。
「何?魔法迄使える?」
タマルの動揺は激しいそうだが、それは僕達のチャンスでもある。
プレストンさんが闘気を改めて纏い直し、鋭い突きを放つとそれに気を取られたタマルは視線をプレストンさんへと移す。そこを見逃さず、僕は刀を振る。
「降参しないか?」
「うっ!」
タマルと呼ばれた女性の首元に刀(桜花)を寸止めし、降参を促した。
プレストンさんもブリューアクサ―を心臓に向けて差し込む形をとっている。
「わ、わかりました。降参します。」
震える声で答えたタマルという女性に対しての牽制を止めた。
すると、タマルは直ぐにインディラの元へ駆けつけた。
「インディラ!」
抱きかかえようとするタマルの前に手が伸びてきた。
「お待ちなさい。」
「邪魔するな!」
慌てるタマルはその手を退かそうとするが、触る事が出来ずにいた。
「いいから、落ち着きなさい。貴女ではどうにもできないでしょう?」
「うっ!」
凛とした声で優しい音色ながら、その声には従ってしまう強制力がある気がする。
目の前に居るタマルは立ち止まった。返す言葉も無いみたいだった。
「ミーリアさん?」
声の主はミーリアさんだった。
と言う事は?
「煉。上達したようだな。それにプレストン殿も。」
「ザバルティさん!?」
「挨拶はこれ位で、ミーリア。」
「はい。」
そこからはミーリアさんが結界を張ったのがわかった。
そしてザバルティさんの手元から光が発せられて、その手をインディラにかざすと一気に光が大きくなり辺りは目の前が見えなくなる。一面白い世界になる。
そして少し経って光が落ち着くと、インディラの体は先程まで真っ二つだったハズだが、今は一つになっている。
「?!」
その状況を見守っていたタマルは驚きの顔になる。
「もう大丈夫です。どうぞ。」
ミーリアさんに言われて、タマルは我に返りインディラを抱きかかえた。
「インディラ。」
「もう傷は塞がっているハズだ。しかし、傷を負ったのは事実だ。寝ている状態だから、そのまま寝かせておいた方が良い。」
ザバルティさんの言葉を聞き頷くタマルの眼は涙が溢れていたのを僕は見た。
「よかった。」
そうタマルと呼ばれた女性は心の底からの言葉が自然と出た様な、そんな感じだった。




