337 ブリューアクサ―という魔槍。
凄いプレッシャーが僕達に襲い掛かった。
それもそのプレッシャーは3つ。上空から来るそのプレッシャーの先は時計塔の上からだった。
「ちゃんと来ましたのね?」
その声は大きい訳では無いと感じるのに、僕の耳にもプレストンさんの耳にも届いているようだ。
「お前はさっきの奴じゃないな?」
プレストンさんがそう返していたから、聞こえているんだろう。と推測出来た訳だけど、風の魔法の応用かな?
「ふふふ。そうです。貴方は確かプレストンさんでしたわね?ご招待を断られず良かったですわ。」
その言葉が聞えてから、上空からプレッシャーを保ったまま、三人がふわりと降りてくる。
そして目の前に立つとお辞儀をする三名の女性だった。一人は僕達の前に最初現れたインディラだと分かる。それ以外の二つの大きな存在は?
「私は、ナベリウス様の第6階、ギャネックと申します。そしてコチラが先ほど迎えに行ったインディラで、こちらが、」
「ナベリウス様の第13階のタマルです。」
妖艶な高貴そうな女性のギャネックと、あどけなさが抜けていない女性のタマル。
その両極端な連れ合いの三人は目立つ。そしてその存在感も圧倒的であり、強者の気配が半端ない。
「そうかい。こっちの紹介は必要ねぇな?」
「ええ。必要ありません。」
「で、俺達に何の要なんだ?」
「ふふふ。セッカチなのですねぇ~。女性に嫌われますわよ?」
厳しい一言をプレストンさんに放つギャネックと名乗った女性はその妖艶な感じと相まって強烈な言葉だと受け手には感じるだろう。まさに今目の前でプレストンさんの目頭が光っている気がする。それに、ブリューアクサーと気が合うんじゃないかな?
『煉君。君は僕を分かってないね~。』
「えっ?」
「どうした?」
「いえ、何でもありません。」
僕が突然声を出したので、当然こうなるよね。あははは。
「ふふふ。仲がよろしい様ですのね。でも残念ですわ。」
「何が残念なんだ?」
「貴方達には死んで貰わねばならないからです。」
残念そうな言葉なのに、顔はニヤリとした顔になっている。
「貴方達は邪魔な存在と認定されたのですの。ごめんなさい♪」
言葉は謝っているのに、態度がそうでは無い。
「はいそうですか。って殺されるとでも?」
「ふふふ。あまりお勧めはしませんが、足掻かれるのはご自由にして下さい。自由もまたその者が持つ権利ですので。」
緊張感MAX・・・だけど、僕にはブリューアクサーの言葉が耳に入ってくる。
『ばばあが死ね!』
『木偶の坊が殺されたらチャンス!』
『僕の方が何倍も美しいね。』
等と嘯いているから、どうしてもね?わかるでしょ?
つうか、このブリューアクサーって相当に胆力あるんじゃね?
僕は笑いを堪える方が忙しかった。
「では、始めましょう。夜中の乱舞を♪貴方の血は綺麗かしら?」
その言葉がスタートの合図となり、始まった。
「おらぁ!」
先制はプレストンさんの槍の横なぎ。大きな弧を描いての横払い。
その太くて大きい槍は日本の皆朱槍に近い形状の為に相手をそれだけで威嚇するモノなんだけど、勿論と言いたげな感じで躱されるけど、この槍の凄い所はそこからの連続される突き払い薙ぎにある。繰り出される連撃で圧倒していくスタイルがプレストンさん。躱すのは普通なんだけど、それをすると圧倒されてしまう。だから一旦大きく避ける必要が出る。
普通であれば、そのどれかの動作時に返し技を使って攻撃できるんだけど、ここにブリューアクサ―とプレストンさんの秘密がある。このブリューアクサ―は持ち手には重さを感じさせないという特殊な効果がある。その上で筋肉マンであるプレストンさんは相手の動きに合わせて払いから突きへ。月から薙ぎへと直ぐに変える事が出来るのだ。だから、払いの軌道から突きへと変化するイリュージョンかの如く鮮やかに変化していく攻撃になる。
で、当たると、今木っ端になった壁面の様に、本来の重さと持ち手の持つスピードの威力で破壊されるという事になる。常人では持ちえない重さにスピードの掛け算の威力は恐ろしい破壊力なのは想像に難くない。つまり重さゼロのスピードをブリューアクサーに認められたプレストンさんなら発揮できる。が、世界に与える影響は本来の重さ×圧倒的筋力によるスピードとなる訳だ。
それに気がつかないのか、余裕なのか避ける行為を続ける相手は戦闘の経験値が少ないのかもしれない。
「オラオラどうした?」
人馬一体という言葉を聞いた事があるけど、まさに今、人槍一体という動きを見させられている。この場合は槍人一体なのかもしれないけど。
『ほらほら、ババアもションベン臭い小娘も何も出来ないんじゃない?』
この様に、ブリューアクサーは言っています。いかがでしょうか?と言いたくなる。
どうも緊張感に欠ける状況が続く。
『煉。そろそろ動きが出るようじゃぞ。』
「そのようですね。」
ヒミコさんが指摘通りにインディラと名乗った女性が少し動きに変化をつけているのが分かった。
「じゃあ、僕達も参戦しましょう。」
『わかった。』
『OKなのじゃ。』
僕も改めて気合いを入れて、動き出す。今は有利に事が運んでいる。
この状況を続けなければ、大きく飛ばれてしまうと今の僕達には厄介だ。
桜花を上段に構えて集中する。決めるのなら戦闘に慣れていない今、先手必勝。
彼女達が本領を発揮する前しかないと僕は考えた。




