333 追求する者。
「燃える。きゃははは♪」
目の前に燃え盛る建物がある。
その前で奇声ををあげる男はトウジ。服装は貴族が使う上等な服を着ているが、目が悪いのか日々の入ったメガネをかけている。地球・日本でいう所のオタク系男子の様子がある。
メガネを掛けたらオタクなのか?そういう意味では無く、そういう風貌をしている。
他者の眼を気にする事なく、没頭する。外見を気にしない。好きな物を着る。そう言う格好である。なので彼の服の胸には某人気アニメの絵が描かれている。
彼が何故、その道に進んだのか?それは日本人が持つ突き詰めようとする気持ちがあるのは間違いない。その感情は、研究者に多く見られるのだが、その興味がただアニメに行ってしまっただけなのである。
で、現在の彼はそれすらも凌駕し、狂ったように笑っている。
「成功した。これで四属性全ての虫が用意出来た。魔法が使えなくてもこの能力でこの世界生きて行ける!」
彼は異世界転移者である。
現在の日本は空前の転移転生ブームである。ただの流行かも知れないが・・・。
そんな中で、小説の様な、マンガの様な、アニメの様な事態に巻き込まれたのである。
否、自分から積極的に介入したと言う方が正しい。
「一時期は魔法が使えなくて焦ったけど、これで何とかなる。」
彼の転移は、異世界人による転移魔法の行使によりこの世界に転移させられた存在である。
その時に与えられたスキルが【昆虫支配】である。
初めは虫の視界が共有できるだけのモノであったが、徐々にスキルレベルが上がり、今では蟲の合体が出来る様になり、この世界に新たな虫を創る事が可能になっているのである。
ちなみに彼は、アニメに没頭する前は虫に没頭していた。
小学生の時には地域一番の虫博士と言われるほどに知識を蓄え、大人でもビックリするほどの知識を持っていた。しかし、人間とは不思議なモノで、虫よりも没頭する物に彼は出会ってしまっただけなのだ。
この異世界では化学等の発達は地球と比べるとしていない。停滞していると言えるレベルだ。
それに比例して学問も成長していない。そんな中で虫の事等、言わずもがな発展していない分野である。地球でも全てがわかっていない分野であるので、仕方が無いかもしれない。
ただ、この異世界の虫は地球に比べても種類が多く感じられる。虫も生存競争が激しいのか、魔物化するモノも多く居る。【昆虫支配】は昆虫類である限り、魔物ですら従えてしまうのだから、軍隊を造る事も容易なのだ。
だが、彼はしなかった。虫が好きだからである。
が、ある事がきっかけで、そんな優しい彼が研究する事になる。
一緒に転移してきた者の中に国を亡ぼす者が出たのだ。
そして彼は【魔獣支配】のスキルを使って魔獣の軍隊を造り殺戮と言う名の山を築いてしまったのだ。それにより、転移者に対する目が厳しくなった。
カーリアン帝国に追われる身となり、彼方此方で大変な目に遭ってしまったのだ。
そんな折に、彼はナベリウスに掴まり、仕える事になった。
その過程において現代日本人では到底耐えうる事が出来ない迫害を受けてしまったのである。そんな彼の精神がマトモな状態では無くなった事を誰が責められようか?
「上手くいったようですなぁ?」
「あぁ、ノーアさんか?上手くいったよ。これもノーアさんのおかげだな。」
「何。私はお願いしただけで御座いますよ。」
「それでも僕に知識を与えてくれた事で、僕は自分の力を発揮できる様になったんですから感謝しかありませんよ。」
「そう言って貰えると、嬉しいもんですな。」
そう、このスキルの使い方を教えたのはノーアであった。彼は盗賊ギルドのロードスト大陸長というポストに就いている。ノーアは彼の能力に目を付けて、彼に援助をしている人物だ。
「そろそろ、夕食の時間ですので、夕食の準備をしております。御屋敷の方へお戻りください。」
「もうそんな時間ですか。わかりました。」
ノーアの言に従ってトウジは生活を送っていた。
この日も彼はノーアに従い横に並び屋敷へと戻る事にした。
「先日は申し訳ありませんでした。」
「あぁ、彼の事か。良いです。僕も少し大人げなかった。ですが、もう二度と会えとは言わないでください。」
「承知しました。所で、何故そんなにも拒絶されるのです?彼は貴方と同じ転移者ではないのですか?」
「・・・そうです。確かに同じ転移者です。ですが、彼は僕の敵方なんです。」
「そうでしたか。私も耄碌してしまったようですな。改めて謝罪致します。」
「いえいえ。そんな事は誰もわかりませんよ。それに、彼は僕の仕えている人と敵対している訳では無いので、僕にとっては憎い相手ってわけじゃないんですよ。」
「はて?では何故お会いにならないのですか?」
「そ、それは・・・怖いのです。ナベリウス様がとても怖いんです。」
「怖い?お仕えしているのは怖いからですか?」
「そうです。怖いからです。今は好きにして良いと自由を与えられていますが、呼ばれたらいかねばなりません。その時に敵側に協力していると思われたくないのです。」
「なるほど、そういう事でしたか。わかりました。」
納得したという顔をしているノーアの顔を見てトウジは安心した。
「ところで、また蟲を用意して頂きたいのですが?」
「前と同じヤツですか?」
「ええ。今度は100匹ぐらい頂きたいんですが。」
「わかりました。素材の準備をしてください。もちろん簡単な命令を聞ける様にしておきますね。ノーアさんで良いんですよね?」
「ええ。そうです。御手を煩わせてしまってすいません。」
「いえ。これは僕とノーアさんとの契約の事です。そのおかげで僕は今こうして充実した日々を送らせてもらっている。金額は前回と同じですね?」
「勿論です。数分お支払いします。素材は明日のでも、屋敷の例の場所に運ばせます。」
「わかりました。では一週間後までには用意しておきます。」
「よろしくお願いします。」
そんな会話をしながら、屋敷へと戻る二人。
物騒な話が出来るのも、東京ドーム三個分の敷地の中だからだ。
警備が確りしているハズなのだから。




