323 一つの組み合わせ
「これで、わかっただろう?」
「・・・。」
頷くしかない状況のプレストンはそれでも尚、諦めきれなかった。
「まったく。仕方がない男だね。お前には剣は向いてない!」
「・・・そうだな。」
「で、お前の適正は槍なんだよ。」
「そうか。・・・はぁ?何を見て言ってんだ?!」
「お前の体つきだよ。その太い腕や足はどう考えても剣では邪魔なんだよ。それよりも槍の方が何倍もお前に合ってる。それに適正も高いはずだよ。」
「ほ、本当か?」
「ああ。そこでだ。お前には試してもらいたい事があるんだよ。」
「何を?」
「フレイズ!」
「はい。」
フレイズがいつの間にかそこに居た。そしてその手には一本の槍を持っている。だが、その槍には護符などが張られている様だ。
「なんだそれ?」
「これはね。代々ウチの家系で保管していた物だ。名を【魔槍ブリューアクサ―】。名前の通り魔槍さね。」
「それが、どうしたって言うんだ?」
「この封印を解いて持ち主になってみる気はないかい?」
「それは、どういう事だ?」
「それは、私が説明いたしましょう。」
フレイズはこの魔槍ブリューアクサ―の説明を始めた。
◇◇◇◆◇◇◇
「つまり、このブリューアクサ―は、槍の適性が高い者でないと扱う事が出来ない。体が乗っ取られてしまう。という事なんですか?」
「ああ。そうらしい。どうもな、ミス.ドロンジョは槍の適性の高い者を探していたらしいんだ。」
「へぇ。でも何でですかね?」
「それはな、この魔槍がミス.ドロンジョの過去に関係しているみたいなんだよ。」
プレストンさんは魔槍ブリューアクサ―をさすってそう話した。
「へぇ、ウチの過去が関係しているとはね?プレストン?」
その声は・・・ミス.ドロンジョさん。
「げぇ!ミス.ドロンジョ!!」
バコン!!
ミス.ドロンジョによる鉄拳制裁はプレストンさんの頭に炸裂している。
「いでぇ!」
「まったく、レディの過去を探ろうなんて無謀をするなんて、男の風上にも置けないね!!」
「すまねぇ。ミス.ドロンジョ。謝るから、もう殴らないでくれ!」
ここでミス.ドロンジョさんが参戦してきた。片手にエールを持って。片手は拳骨でプレストンの頭を連打している。この二人のやり取りはいつ見てもこんな感じなんだけど。ずっとなのかな?
◇◇◇◆◇◇◇
「で、どうする?試してみるかい?もしダメでも死ぬだけだけどね?」
「どういう事だ?」
「乗っ取られたら、手に負えない悪行をするのが、ブリューアクサ―が魔槍と呼ばれる所以でして、管理する私どもからすれば、乗っ取られたら、殺すまでです。強くなる前に。」
「つまり、死を覚悟して受け入れろって事か?!」
「まぁ、そうじゃな。」
無茶苦茶言いやがる。
「そんな危険な事は出来んか?」
安い挑発だ。だが、このまま燻っているよりマシだ。
それに、乗っ取りがあるとはいえ、この魔槍は本物だ。かなりの質だと見える。
今の俺じゃあ、逆立ちしても買うなんて事は出来ないだろう。
「良いだろう。もし乗っ取られていると判断したら、直ぐに殺してくれ。」
「交渉成立じゃな。」
嬉しそうに笑うミス.ドロンジョの笑顔が綺麗だと思ってしまったプレストンは『不覚』と思い自分の顔を思いっ切り叩いた。
「おっし!じゃあ早速やろう!」
「ほぉ。成功する気満々じゃな。良いだろう。」
ミス.ドロンジョの発言を聞いたフレイズは封印状態のまま、プレストンに魔槍を渡す。
プレストンは一度、深呼吸をして魔槍を受け取り封印を解く。
「では頑張れよプレストン。」
そのミス.ドロンジョの声を最後にプレストンの意識は遠のく。
◇◇◇◆◇◇◇
「ふん!お前が新たな挑戦者か?」
その声が聞えたプレストンはその方へ顔を向ける。
そこには子供と思える姿の女の子が立っている。なんだ?この生意気なガキは?そう心で思った。
「誰が?生意気そうなガキだって?」
「あん?お前に決まってるだろう?」
心が読めるのか?メンドクサイな。
「心が読める?そんな訳ないだろう?ここは精神世界だ。思ったことは全て筒抜けになる世界なんだよ。」
「なほどな。お前の言っている意味がわからん。」
「くっくっく。お前は馬鹿なのか?プレストン。」
「俺を呼び捨てとは調子に乗ったガキだな。名前くらい名乗ったらどうだ?」
子供に笑われるという思いより、子供が偉そうにしている。そんな感じに受けたプレストンはいつもと違いキレなかった。
「ブリューアクサ―。そう呼ばれている。」
「お前がそうなのか?つうか、乗っ取られるって、お前に乗っ取られるって事か?」
「まぁ、そういう事だね。じゃあ、勝負と行こう。」
ブリューアクサ―の言葉と同時に手に槍を持つ。
自分の手にもいつの間にか槍が握られている。
「この世界はブリューアクサ―の思い通りなのか?」
「そういう事だよ。行くぞ!」
ブリューアクサ―は一気に距離を縮めて突きを放ってくる。
何とか、それを回避するがブリューアクサ―が突いた槍をそのまま横に払う様に攻撃をするとプレストンの横腹に直撃し、プレストンは横にぶっ飛ばされる。
「やっぱり素人か。これは苦労しそうだな。」
「へっ!言ってろ!!」
プレストンは起き上がると直ぐに槍を真っすぐに突く。それを軽く避けたブリューアクサ―に今度は横から払われた槍が襲い掛かる。それも避けたブリューアクサ―。
「へぇ。直ぐに同じ事が出来るのかぁ?素質はあるようだね?」
ニヤリと笑うブリューアクサ―の顔はどこか嬉しそうであった。




