312 信用を得る為に。
「逃げずによく来れたね?」
開口一番のミス.ドロンジョさんの言葉だ。
「ちゃんと集める事が出来ましたか?」
「ふん!大きなお世話だよ!!」
まだ煽るザバルティさん。
「ふん!大きな口を叩いていられるのも今だけさ。」
漸くここで余裕が出て来たのか、ニヤリと口角を上げて笑うミス.ドロンジョさんは僕等をギルド内の訓練場に連れ出した。
訓練場と言っても闘技場の様な作りになっているらしく、ステージも観客席の様な場所もシッカリと用意されていた。
「ふふふ。驚いたかい?でも後の祭りだよ。」
「感心しましたよ。訓練場がここまで充実している事に。」
「ふん。口が達者なのは認めてやるよ。」
そう言いながらミス.ドロンジョさんは笑っていた。
「じゃあ、先ずは一組目だね。」
「一組目?いいえ、全員を呼んでください。」
「はぁ?何だって!まだそんな事を言っているのかい?」
「ええ。時間の無駄です。全員を呼んでください。」
ザバルティさんは言い切った。
「本当にどうなってもしらないよ!皆ステージに来な!!」
そう言われて、憤慨した様子を見せながら役20名程がステージに上がった。
それを見て、スタスタとザバルティさんが上がっていくので僕もついて行こうとしたらミーリアさんに止められた。
「えっ?」
「ザバルティ様が、一人で良いとおっしゃってます。」
「え、ええ!?」
その言葉を聞いた僕は驚くが、相手となるミス.ドロンジョさんや参加者は更に怒気を膨らませた。
「ミス.ドロンジョ。殺してしまっても知らないぞ?」
「いいさね。その時はアタシがどうにかしてやるよ。」
「そう言ってるが、本当に良いんだな?兄ちゃん。」
「出来るなら。どうぞ。」
「なんだと!!」
ザバルティさんは余裕そうだが、本当に大丈夫なのだろうか?
少なくともAランクパーティーが居ると言う話だし心配だが、ミーリアさんを見ても首を振るだけ。心配する素振りすらない。
観客席には貴族も数名いるようで、こそこそと話し合っている様子がある。
「本当に大丈夫なんですか?」
「大丈夫ですから安心してください。」
ただそう答えるだけだ。同じ質問をシーリスさんにもアリソンさんにもする。
「見て居なさい。」
「問題ないよ?」
と返されるだけだった。
「まぁまぁ、落ち着きなよ。」
「だが、ミス.ドロンジョ。」
「領主様も来ているんだ。名前を売るチャンスでもあるんだ。皆を紹介させておくれよ?」
「・・・わかった。」
渋々と言った感じで答える男。
「じゃあ、仕切り直しだよ。先ずは紹介と行こうかね。」
そう言って紹介を始めてしまった。
先ずはAランクパーティーのブラック・デストロイヤーという異名を持つスマイル・ぺペウロニーの三人の女性だった。見た目は20代中間かなと思える感じで皆肌が黒い。どうも純粋な人族では無く獣人族の様だ。なぜ、ブラック・デストロイヤーと呼ばれているのかの説明は少しあったがどうやら破壊してしまうという事らしい。そのおかげでこの訓練場は色々な魔法的要素も入れて高級な訓練場になった経緯があるようです。
次に5名のBランクパーティーで本来は10名のパーティーなんだとか。そのうちの5名で個人個人はAランク冒険者らしい。ただ、パーティーとしてはBランクとして登録されている異色のパーティーのようで、クラウン申請をしているみたい。
その5人もバランスの良い感じのメンバー構成で魔法使いが2名と戦士が3名。それぞれ武器がちがうので役割が明確になっている様子が伺える。
で、次が騎士団所属の10名。
騎士団長を含めて手練れ10名を選抜してエントリーしているみたい。
騎士団だけど、武器に長けた人と魔法に長けた人が居るみたいでその混成されたここの騎士団はカーリアン帝国内でも名前が通った存在らしい。
そして最後に、一番吠えていた男の人はもうすぐSランク冒険者になると噂されているAランク冒険者で名前をプレストンと紹介された。
武器は槍。名前を【ブリューアクサ―】という槍で魔槍として名高い槍だ。
また、気性の荒い人物の様で紹介されている間に近くの人がブツブツ言っていたので聞こえてきた内容では、色々と曰くのある冒険者の様で問題をたくさん抱えていたらしい。というのもミス.ドロンジョに会ってからは、ミス.ドロンジョのいう事だけは聞くらしく、現在はあれでも落ち着いてきて今回Sランク冒険者の資格試験を受けれる様になったらしい。実力だけなら既にSランク冒険者としてやっていけるという話だった。
「以上の19名が戦う相手はそこに居る優男だよ。名前はなんだっけ?」
「ザバルティです。よろしく。」
簡潔に纏めた返事をしたが観客席からは黄色い声援が若干聞こえてくる。
「やっぱり、カッコいい!でも、あんな相手がいたら厳しんじゃないかしら?」
「噂通り、素敵な御仁です事?!負けたとしても当家で雇って差し上げるわ!」
噂って?昨日の今日でもう噂?
しかも負けるって言ってるし。あははは。
まぁでもそれが普通ですよね?あれだけ相手が居て、尚且つ強い人たちばかりなんだから。
でも当の本人であるザバルティさんは全然焦った様子がないんだよね。
しかも、ミーリアさん達にも見られないんだ。
何か、僕だけが焦っている様な感じ。
「煉。よく見ておくように。」
ツカツカと僕の方に歩み寄ってきたザバルティさんは僕に小さい声で僕にこっそり話しかけてきた。
その言葉を聞いて僕は何故か凄く安心した。不思議な感覚だった。




