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309 夜に月は輝く


食事が運ばれて来てテーブルに料理が並ぶ。

楽しい時間は少しづつ進んでいく。と、突然ギャネックは二人を交互に見る。


「二人とも、今日は一緒にお酒も飲まない?」


「良いんですか?」


「ええ。」


「じゃあ頂きます。」


「タマルはどうしますか?」


「私は大丈夫です。」


「あら?真面目ね?」


「・・・。」


「ほら、タマルも飲みなさいよ?」


「・・・わかりました。頂います。」


「あらあら、インディラのいう事は聞くのね?焼けちゃうわ。」


「そんな事ありません。」


「ふふふ。冗談よ。ジョウダン。」


「もう、揶揄わないでください。」


「ごめんなさい。あまりにも可愛かったからついよ。ふふふ。」


そんな楽しそうな会話をしていると、一人の男性がテーブルに近づいてくる。


「失礼。私はモーリスと言う者だが、奢らせて貰えないだろうか?」


「?何処かでお会いしましたでしょうか?」


「いやいや。初めましてですよ。あまりの美しさに声をかけさせて頂いたにすぎません。お名前をお聞きしても?」


「ふふふ。御世辞ありがとうございます。御世辞の返礼を兼ねてお教えいたしますわ。私はギャネックですわ。モーリス伯爵様。」


「ご存じでしたか?」


「ふふふ。モーリス伯爵の事を知らぬ者など、この国にはいらっしゃらないでしょう?」


「ははは。そう言って頂けると鼻が高いというモノです。そちらのお嬢さん方は?」


「ふふふ。それは秘密です。それとも私より二人の方がお好みかしら?」


「これは参りましたな。わかりました。では聞かない事に致しましょう。」


「ふふふ。ステキな御仁です事。」


「ははは。では別室でご一緒にいかがですか?」


「ええ。良いですよ。二人ともそれでは、また明日。」


「ええ。私どもは心配なさらずに。ではごゆっくり。」


こうして、二人は残され、ギャネックはモーリスと別室へと消えて行った。

そして残された二人は、人が近くに居なくなると会話を再開する。


「上手くいったわね。」


「そうだけど、本当に良いのかな?」


「まだ言ってるの?あの時決心したんじゃないの?ナベリウス様について行く事を?」


「そうなんだけど、私の感情がどうしてもね。」


「もう。真面目過ぎなのよ。あの時に助けてくれたのは人では無かった。使徒様であるナベリウス様なのよ?その使徒様の神様の御意向なんだから私達もそれの沿って動かなきゃ。ね?」


「頭ではわかっているの。心配かけてごめんなさい。」


「良いのよ、タマル。幼馴染じゃない。」


インディラとタマルは幼い頃より親交がある。

同じ貴族の伯爵家の一族で従妹にあたるのだ。他に従妹は居たのだが、二人は妙に馬が合った。同年齢というのが大きいのかも知れないが、いつも一緒に行動していた。

一族が同じ土地に住んでいたからだ。今彼女たちの育った一族の家は無くなった。

魔物の被害を一番受けた場所だったから、幸い彼女たちは自分の父や母が魔物に殺される姿を見なくて済んだのだが、自分達も別の場所で襲われたので助けに行く事も出来なかった。襲われているという事も知らなかったのだが。


「ねぇ。私達以外の一族が生きているかどうかを調べない?」


「タマル。またその話?私達は人ではもう無いのよ?」


「それはそうだけど・・・インディラは気にならないの?」


「気にならないわけないじゃない!でも、もう私達は違うの。ナベリウス様に忠誠を誓った身なのよ?」


「そうだけど、欲望や欲求に従うのをダメだとは言われないじゃない?」


「いい加減にして!そんな暇があるなら、アンタは少しでも強くなりなさいよ。そしてナベリウス様に貢献しなさいよ!」


「ごめん。そんなつもりじゃないの。怒らないで、お願い。」


少しの間沈黙が二人を包むが、真摯にインディラに謝るタマルの姿がインディラの興奮を落ち着かせるのに役立ったのかインディラは溜息をつく。


「わかったわよ。でも先生の前ではそんな事を言っちゃだめよ?」


「うん。わかってる。」


「今は目の前にある事を一生懸命やりましょ?落ち着いたらナベリウス様にお願いして探しましょ?それで良いでしょ?」


「うん。インディラありがとう。それにしても・・・。」


「それにしても?」


「やっぱりお互いを愛称で呼べないのは何かあれだね?」


「もう、それも先生に諭されたでしょ?アンタは真面目なのか不真面目なのかわかんない時があるよ。」


「ふふふ。私は少し頑固なだけです。」


「それを頑固っていうのかな?偏屈って言うんじゃない?」


「もう。インディラの意地悪!」


そんなたわいもない話をして二人は盛り上がるとデザートまでしっかり食べて店を出ようとする。支払いをしようと店員を呼んだが、もう済んでいるとの事で、店を出た。


「取り合えず、言いつけ通りに戻ろっか?」


「そうだね。」


二人はそのまま、街の片隅へと歩き出す。徐々に人が少なくなっていく路地に入っていく。


「つけられてるね?」


「うん。」


角を曲がった所で一気に上空へ飛ぶ。

すると少ししてその角を曲がってくる男の集団を上空から見下ろす二人。


「どうする?」


「先生の邪魔になるとマズいよね?」


「そうね。」


「じゃあ、少し驚かせておこうか?」


「二人がやったと思われない様にしましょ?」


「じゃあ風と水ね。」


「オッケー。」


二人は頷きあうと魔法を瞬時に展開し、男の集団に風と水が織り交ざった嵐を叩きつけた。

アリ飛ばされるかのように円を描いてぶっ飛ばされる男達はそれぞれ壁に衝突し壁を壊す。


「情けない奴ら。」


「まぁまぁ、あれぐらいを躱せないなら先生の敵じゃないね。安心出来るわ。」


「それもそうね。じゃあ行こ。」


「うん。」


二人は己の背中に生えた黒い翼を羽ばたかせると一気に加速し拠点にしている屋敷へと飛んで戻る。


「あれはもしかして、お従姉ちゃん達?!」


偶然にもその状況を見てしまった少女が居た。貧しい格好をした少女は偶々目が覚めてしまい月を眺めていた。その月光に照らされた美少女達を目撃したのだ。

その後王都で、満点の月を背中に美しいくも怪しい姿の美少女二人が目撃されたとの噂が少しの間王都で流れ、夜空を見上げる行為が流行したのだった。


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