308 罪に対する罰。
「屑ね。」
ギャネックは溜息をつく。
余りにもその男の屑っぷりに辟易している。
「ナベリウス様が好きにして良いと言うから、やっているだけだ。構わんだろうが!!」
手足を拘束され、身動きが取れない状態で喚き散らす男。
「ふう。限度というモノと時というモノがあるでしょう?」
「欲望に忠実にして何処が悪い?!」
「確かにそうね。一理あるわ。という訳で、私も欲望に忠実に行動して良いのかしら?」
ギャネックは目を鋭くしてニヤリと笑い、手に青い炎を発現させた。
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくれ。すまなかった。次から確りとやるから、今回は許してくれ!頼む!!」
男は一気に青ざめて体を震わしながら懇願する。
「初めから、素直に言う事を聞いてくれたら、良いのよ。」
ギャネックはニコリと笑い、男の顔を撫でると炎を消した。
男がほっとしたように胸を撫でおろした。その瞬間に炎がその男の腕に纏わりつくように燃え出す。
「熱い!熱い!!助けてくれ!!!」
「ふふふ。罪に対する罰は受けないといけないわよ?」
ギャネックは質問の様に答え、笑顔を見せた。
ギャーギャー騒ぐ男を放置してギャネックはその場から離れると近くにいる男の顔を見て笑う。
「マシュー。あのままにしておきなさい。そのうち火は消えるから。良いわね?」
「はい。先生。」
「では、任せましたよ?」
ギャネックはマシューの方に手を置き、優しく擦ってから部屋を出ていく。
そのままギャネックは別の部屋に入ると、そこにはインディラとタマルが待っていた。
「どうでした?」
「少しお仕置きしてきたわ。」
「恨まれたりしませんか?」
「ふふふ。それもまた面白いじゃない?けど、あの屑はそんな気概はないわよ。」
上機嫌そうな感じのギャネックを見てタマルは黙った。代わりにインディラが続ける。
「これからどうするんですか?」
「そうね。あの屑は使えないから、当分放置します。今度こそ放置よ。ただ、邪魔するようであれば、・・・ね?」
「その方が良いでしょうね。誰を付けておきますか?」
「う~ん。そうね。デューイで良いんじゃないかしら?」
「わかりました。伝えておきます。」
「ふふふ。インディラありがとう。」
インディラは部屋を出ていくとタマルがギャネックに真剣な顔を向けた。
「先生。本当に大丈夫なのでしょうか?」
「タマル何が心配なの?」
「こんな人道的な事から外れた事をしても、本当に。」
「心配性ね?私達は冥王ハデス神に仕えるナベリウス様に忠誠を誓った身。もう人では無いのよ?それに、神が望まれる事の為にしているのですから、そんなに心配しなくても大丈夫よ。」
「そうなんですが・・・。」
「貴女は優しいのね。そこが良い所なのだけど、でも今は必要ないわ?良いわね?」
「・・・はい。」
押し切られる形で返事をしたタマルが納得していないであろう事がわかる顔つきになっているが、ギャネックは気づかない振りをした。
「では、食事に行きましょう?今日は王都に向かうからそこで。」
「わかりました。準備してきます。」
タマルが部屋を出る。
ギャネックは独り言の様に言う。
「あの子にも困った者ね。ホランド。確りと見ててね?」
「はい。先生。」
陰から言葉が聞こえるが姿は無い。
「万が一、あの子がナベリウス様の意志に反するような行為があれば報告して頂戴。出来れば無力化して欲しいのだけど、難しいかしら?」
「いいえ。先生。」
「わかったわ。その時は宜しくね?ホランド。」
「はい。先生。」
ギャネックは満足した顔になると部屋を出て、この屋敷の入口に向かう。
「先生。デューイには指示を出しました。」
「良い子ね。わかったわ。タマルは準備できたかしら?」
「はい。出来ました。」
「では行きましょうか?」
「「はい。」」
返事を聞いたギャネックは頷くと、三人は黒い羽をバサリと出した。
そして、特に合図も無いままにふっと浮かび上がると、夜空に登る。
そのまま、王都へ向かい飛んでいく。
徐々にスピードを上げながら王都に向かう間三人は無言で飛び続けた。
そのままトップスピードで王都上空までくると、上空で停止する。
「今日はあそこに降りましょう。」
ギャネックの決めた場所に向けて降下するが、そのスピードも一瞬で着地となる程のスピードであり、常人では見えない。
スタと降り立った三人はそのまま何事も無かったかのように街の中を歩く。既に羽は見えなくなっている。
王都だけあって賑やかな喧騒に包まれる街の中をスタスタと歩く三人組はチラチラと男の視線にさらされるのだが、近寄り難い雰囲気を醸し出している美女三人に声をかける勇者は今の所居ない。
そのまま、一件のレストランの様な高級そうな店に入っていく。
「いらっしゃいませ。」
「ふふふ。空いているかしら?」
ギャネックは店員に笑顔を見せて話しかける。
店員は美しさに圧倒されながらも職務を全うすべく動く。
「も、勿論でございます。ど、どうぞこちらへ。」
「ありがとう。」
店員に勧められるまま、席に着き、あれこれと注文するギャネックに違和感はない。
「かしこまりました。」
そう言って下がる店員を見送ると、ギャネックは二人と雑談を交わし、料理が来るまでの時間を楽しんだ。




