305 乾杯と別れ。
「よし。もう一度乾杯だ!」
「「「「乾杯!!」」」」
僕の元にアルコールの無い飲み物が届いて直ぐにこの流れになった。
騒ぎたいのだろうと思った僕はとにかくその流れに乗った。
くだらない話で少しの間盛り上がったのだが、ふと気になって聞いた。
「でも、どうしたんですか?」
「あっ?」
「気にしなくて良い。飲みたかっただけだから。」
どうも何だか違う気がするなぁ。
「でもよくこんな場所にあるバーを見つけれましたね?」
「ここか?ここは昔っから知っている所じゃよ?」
「えっ?」
「馴染みがやっているバーなんじゃよ。」
「そうなんですかぁ~。」
するとお店の人がやってきた。
「どうも初めまして、キラと言います。かねてより皆様にはよくご利用して頂いていたんですよ。」
「そうですか。僕は煉って言います。宜しくお願いします。」
「こちらこそ、宜しくお願いします。」
優しそうな顔をする青年はここマスターらしく、丁寧な挨拶をしてくれた。
「それにしても、いいタイミングで来てくださいました。」
「本当よね。まさか店を閉めるタイミングだったなんて。」
「そうじゃな。これも運命よな。」
「運命。」
「そうですね。正しく運命ですね。」
皆が、そう同調する。
そしてクリスチーナさんが、僕の方へ体を向ける。
「話がある。」
ですよね。やっぱり。
「なんでしょうか?」
「私達は、明日抜ける。それで、ラコックを開放してもらえる様にお願いして欲しい。」
「それはどうしてですか?」
「理由は言えない。だけど、どうしてもしなければいけないと思う事が出来た。だから、どうしても抜けなければいけない。だけど、ラコックは石化している。たぶん、ザバルティ様に頼めば直して貰える筈。ここまで来させる事はお願いできないけど、開放してもらう事は許される筈。だから、その交渉を煉にして欲しい。」
「僕達の敵になるんですか?」
僕は懸念している事を聞いた。
「違う。でも所属していると迷惑が掛かる。だから抜ける。」
「皆さんも同じ意見ですか?」
周りを見渡しそれぞれの顔を見たが、皆、険しい顔でありながらも、頷いたりしている。意志は硬そうだ。
「わかりました。」
「じゃあ?」
「その前に一つ聞かせてください。僕はアリアさんの為に動いてます。これからもそうです。今回の事はアリアさんは関係ありますか?」
皆、険しい顔が更に険しくなった気がした。少し静かな時間が続いた。
「すまん。これはアリアとは関係が全く無いとは言えんが、現状では関係ないと思っておる。」
ブライトさんは考えながらゆっくりと話してくれた。
「そうですか。わかりました。では、皆さんの嘆願をザバルティさんにお願いしましょう。僕はラコックさんが開放されるのを見届けます。これは約束します。」
「すまない。」
「ごめんね。」
「申し訳ない。」
「かたじけない。」
「ありがとう。」
各自が思い思いの言葉を僕にくれた。
「ただ、僕からも皆さんにお願いがあります。絶対にもう一度、生きて僕と会ってください。その時は是非もう一度、一緒に冒険しましょう。」
「もちろんだとも!」
「ああ、そうしよう!!」
「そんな事で良いのかい?僕ならもっとこう・・・。」
「良いだろう。」
「約束だ。」
僕達はそうして、約束を交わした。
その後は、いつも通りの雰囲気になって朝まで皆が飲み続けた。
僕はアルコールを飲んではいなかったけど、楽しく騒いだ。
翌日、話していた通りブライトさん達は抜けた。
僕は、ブライトさん達との約束を守る為に、ザバルティさんに会う為、トーマスさんに会いに行く事になった。直ぐにトーマスさんはゲートの使用を許可してくれ、ザバルティさんの所へ連れて行ってくれた。
「そうか。煉。本当にそうして欲しいんだな?」
「はい。お願いします。」
「わかった。ではついて来い。」
そう言ったザバルティさんは、直ぐにラコックさんを寝かせている場所へ連れて行ってくれた。そして石化を回復してくれた。その時のザバルティさんの雰囲気が神聖化していたのを確認できた。あれは間違いなく、神の領域に達していると僕は感じたあの“#$%&様と同じ感じがしたからだ。
で、ラコックさんは混乱した感じで目を開けたので、ザバルティさんが落ち着かせ、僕が経緯を話した。
「すまなかった。私はラコックではなく、ライデンと言う。ザバルティ殿。申し訳ありませんでした。」
ひたすらに謝罪を繰り返していたのが記憶に残った。根は悪い人では無い様だから少し安心した。そして屋敷で準備を簡単に済ませると、直ぐに出て行った。もしかすると合流する術があるのかもしれない。
僕は約束通り見届けてからアギトの街に戻る前に、ザバルティさんから呼び止められた。
「煉。大丈夫か?」
「大丈夫ですよ?」
「そうか。なら良いのだが。」
「ありがとうございます。」
僕はザバルティさんの優しさを感じて感謝した。
無事約束を果たして、僕はアギトの街の宿に戻ったが少し寂しい。
でも残念だけど仕方がない。僕は一人になってもアリアさんを助ける事が一番だ。
もし万が一、抜けたブライトさん達がアリアさんの情報を手に入れたら僕に教えてくれるだろう。
こうして、僕の前からこの世界で信頼できる人達が居なくなったのだ。




