304 プリメラさんとの邂逅と呼び出し。
「どうやら、君はこの世界に来た時の向こうでの記憶を少しづつ失っている。もしくは記憶が曖昧な状況にある。という事の様だね。」
「・・・はい。自分でもよく分からなくなってきています。」
「ふむ。」
プリメラさんは深く考え込むような素振りをして眉間に皺を寄せた。
「という事はだ。超常的な何かが起こって君の記憶に影響を与えている可能性があるって事かもしれないね。まぁ、君が嘘をついていないという事が前提なのだが。」
そうプリメラさんは綺麗な目で僕の目をしばらくの間見つめる。
僕はプリメラさんの目線から視線を外す事が出来ず、少しの間見つめ合う形になった。
「うん。君が嘘つきには見えないな。真実を、いや実際に君が感じている事を素直に話してくれているのは事実だろう。そうなると、やはり何か君の身に起こったと考えるのがスマートだね。」
何かを納得している様子のプリメラさんは少しの時間沈黙して何かを考える様子だった。
「まぁ、これで君に何故、≪荒神・須佐之男命の寵愛≫があるのか、もしくは授けられたのか?その疑問の一端が見えて来たよ。」
「何ですか?それ?」
「ふふふ。君が精霊界を旅したのも、君がこの世界に来たのも、それは運命の輪舞なのでしょう。意味がある事なのですよ。そして≪須佐之男命の寵愛≫もその一つのパーツなのでしょう。」
「そうなんですかね?僕にはよくわからないのですが。」
「良く分からない間は、逆に良い事なのかもしれませんよ?理解した時、君は厳しい状況に立たされるのかもしれません。」
プリメラさんは、何か楽しそうで、何か嬉しそうに見える。
そんな時ドアがノックされ外から声が掛けられる。
「プリメラ様。商談の時間になりました。ご準備ください。」
「わかりました。」
その掛け声に返事を返したプリメラさんは改めて僕の目を見る。
「慌ただしくてごめんなさいね。でも君と話が出来てとても有意義な時間でした。ありがとう。」
「いえ。」
「質問ばかりでごめんなさいね。でも最後にもう一つお聞きしたいのだけど、良いかしら?」
「はい。」
「君はこの世界をどう思っている?」
「えっと。」
僕は一体、この世界をどう思っているのだろうか?
僕にとってのこの世界は、アリアさんに尽きるのかもしれない。
けど、アリアさんだけだろうか?ブライトさん、ミスコンティさん、バーナードさん、クリスチーナさんとか、僕に寄り添ってくれているし、ラムザさんやザバルティさんは惜しみない協力をしてくれる。そんな人たちが住んでいるこの世界。僕はどう思っているのだろうか?
「どうやら、まだ君には早い質問だったみたいだね?いずれその事を突き付けられる日が来ることだろう。その時までにゆっくりと考えると良いよ。もう、君は世界の片隅にいるただの人ではない。もう世界に影響を与える存在になっているんだよ。だから、さっきの質問をいずれ君も世界にされる事になるはずだ。だから、今から考えておくと良いよ。じゃあ。また。」
その言葉を残してプリメラさんは綺麗な金髪を揺らして部屋から出て行った。
一人残された僕は質問を考え続けたが、結論は出ず頭が一杯になった。
ドンドン!
ガチャ。
「おい、煉!飲みに行くぞい!!」
ブライトさんが部屋に入ってきた。
「飲みに行くって、僕は飲めませんけど?」
「行くって言ったら行くんじゃ!」
「あれ?もしかしてもう酔ってます?」
するとそこにミスコンティさんが入ってきた。
「あっやっぱりここか。煉。諦めて付き合って。」
「何をですか?」
「飲みに行く事に決まっておろうが!」
「はい?」
すると、ミスコンティさんは僕の右腕をホールドした。
「はいはい。ブライトももう少しちゃんとして。」
「何処に行くんですか?」
「はいはい。質問はあとあと。行くよ~。」
ほぼ強引に、引っ張り出された僕はミスコンティさんに右腕を。左腕はブライトさんに引っ張られ夜の街に出た。先程まで落ち着いた時間を過ごしていたからか、街の夜の喧騒が少し騒がしく感じた。この街は夜の方が活気があるのだろうか?
「やっぱ、夜でも笑い声は聞こえないわね。」
「ふむ。やはり喧嘩や怒鳴り声ばかりじゃな。」
二人の言葉を聞いて、辺りに気を配ると、二人が言っているように確かに笑い声が聞こえない。怒声や喧嘩の音ばかりだ。
「すさんでますね。」
「ああ、そのようじゃわい。」
ブライトさんの同意を受けながらそのままついて行くと、一件の小さな建物に着いた。
「ここに、入るんですか?」
「ああ、そうじゃ。小さいお店じゃが、店主が良い奴でのぉ。貸し切りにして飲む事にしたんじゃ。」
「へぇ~。」
「さぁさぁ、中に入りましょ?」
そのまま引っ張られる様に中に入った。
お洒落なバーってこんな感じだなって様子の内装で、ガラス製品だろうか?その中には綺麗な魚が泳いでいる。
「綺麗ですねぇ~。」
「そうじゃろう。」
ブライトさんが自分の物みたいに胸を張り説明をしようとするのを、僕とミスコンティさんは無視してそのまま奥に向かう。
「おい。置いて行くな。」
「戻ったわよ~。ちゃんと煉を確保してきたぞ~。」
「やぁ、煉君。ゆっくりしている所悪いね。」
バーナードさんが丁寧に迎えてくれる。
「一体どうしたんですか?」
「とにかく、座って座って。」
「ここ。」
クリスチーナさんがポンポンと椅子を叩いて、呼んできた。
素直に従い、その席に座った。一体どうしたのだろうか?




