301 ブラック・デストロイヤー
「ほぉ。面白いじゃないか。かくれんぼか?ぐっくっくっく。」
この状況になっても、自分の欲望に浸っているのか男は変な笑い声をあげる。
「死ね。」
ペニーは煙の中からストレートを放つと男の顔面にヒットする。
グシャり。
男の顔が変形した。
目は飛び出し、顎は殴られた反対側に思いっきりズレている。
その後は乱打の嵐で、男はストレート、アッパー、飛び蹴り、全ての攻撃を受け続けて家中の壁は壊れていく。
徐々に男の体のパーツが飛び散っていくが、ペニーの攻撃は止まることが無い。
「やばい!ロマニー出るぞ!」
「そ、そうね。急ぎましょ!」
ウジェニーとロマニーの二人は急いで家から出る。
その後、家の外からも見える程に壁がなくなり遂に家が傾きだした。
ドカン!
というひと際大きな音がした。
ギギギギ~!
家が徐々に横に倒れだすとそこから一気に家は崩れた。
「あ、あ~。」
「お気に入りの家だったのにぃ~。」
ただ見ていただけの二人は絶望的な声を出す。
すると、漸く終わったのかペニーがガラクタと化した家から出てきた。
いかにも気まずそうに。
「ごめんなさい。やっちゃいました。エヘッ♪」
「エヘッ♪じゃない!」
「何回目だよ?ペニー?」
「だって、許せなかったんだもん。」
そう、ブラック・デストロイヤーの三人の中でもこのペニーは破格だった。
今までに何個の建物が破壊されたのか分からない。ペニーの破壊力は人の域を超えている。
ブラック・デストロイヤーのあだ名はペニーによってもたらされたと言っても過言ではないのだ。
「もう!どうすんのこれ?気に言ってたのに!!」
「本当にごめんなさい。」
「まぁまぁ。ペニーがやらなくても誰かがやっていたさ。」
「い~や。ペニーだからこうなったの。」
ロマニーが激高し、ウジェニーが宥め、ペニーが謝るという、いつもの光景になっているのだが、この時は違った。
「おいおい。まだ始まったばかりだろう?」
「「「えっ?」」」
死んだとばかり思っていた男が腕を無くし目を失い、顔が回転した状態で起き上がって出てきたのだ。
「うっそぉ!」
「え~!!」
「マジか?!」
本日二度目の驚きを三人は受けていた。
その間も男は動いて近づいてくる。
「もう。いや!」
そうペニーが叫んだ。
「ふん。屑が。躾がなってないわね。気持ち悪すぎるわ。ロザン。」
そう女の声が聞えたと同時に目の前に男が炎に巻かれる。青白い炎。
「ごめんなさいね?お嬢さん達。」
艶のある女性の声。
その女性は明らかに強者の雰囲気を持っいる事を感じる。
それを感じ取れるのはスマイル・ペウロニーもといブラック・デストロイヤーの三人がそれなりに強者であるからだ。だから、三人は体が動かなくなってしまった。
「あらあら、緊張しなくても貴女達みたいな将来有望そうな女性に手を出しませんよ?」
優しい顔になりブラック・デストロイヤーの面々を見るのだが、三人共にやはり緊張の糸が緩むことは無かった。
「賢いのですね?おっと。まだ欠片があるみたいですね。」
そう女性が笑い指を鳴らすと家があった場所のあちらこちらから青白い炎が立つ。
この少しの間に、男の体は呻き声の一つも上げる事が出来ず灰と化していた。
そしてあちらこちらの青白い炎が綺麗に消えると女は改めて、ブラック・デストロイヤーの面々に向かった。優雅なその動き。神秘的な雰囲気の女性。
「貴方は一体?」
「まさか?神の使徒様?」
緊張がほどける事はないのだが、それでも尚その神々しさを感じて目を離す事が出来ないブラック・デストロイヤーの面々は質問を投げかける。
「ふふふ。賛辞はありがたいのだけれども、私は使徒様ではありませんよ。使徒様に仕える従者であり眷族ってとこかしら?」
笑顔をみせるその女性は三人を優しく見つめる。
「申し遅れわね。私は冥界の王神ハデス様の使徒ナベリウス様の眷族第六階のギャネック・バイオよ。」
優雅な貴族の挨拶をするギャネックの一挙手一投足に目を奪われるブラック・デストロイヤーの面々。
「で、貴女達はどちら様?」
「はっ!すいません。私達はこの街でスマイル・ペウロニーというAランクパーティーの冒険者をしています。私はロマニーです。」
「アタシはウジェニーだ。」
「私はペニーです。宜しくお願いします。」
三人は慌てて挨拶を返す。
「ふふふ。三人ともお強そうですわね?」
「「「滅相も無いです!」」」
ブンブンと顔を横に振り否定をする三人はシンクロしている。流石ブラック・デストロイヤー。息がぴったりである。
「謙遜されなくても大丈夫ですのに。」
「「「そんな事はありません!!」」」
「ふふふ。」
「「「あははは。」」」
シンクロが面白かったのか、ギャネックは笑う。
「ギャネック?見つかったわ。」
別の方角から別の声が聞えた。
その方向には二人の少女?いや18歳ぐらいの女性が立っていた。
その二人からも強者の雰囲気を感じる。ギャネックに劣らずの強さを感じている。
一人は片手に何かを引きづっている。よく見ると男のようだった。
もう一人の女性の肩には銀色に輝く猫が乗っている。
「「「あっ!」」」
その猫を見て三人は肩に乗っている猫を指さし驚きの声をリンクさせた。シンクロである。
「あら。ビリーヴを知ってるの?」
「「「はい!」」」
『ふん。遊んでやっただけだ。』
つまらなそうに答える銀色に輝く猫ビリーヴ。
「ボコボコにされました。あははは。」
「まぁ?ビリーヴ!」
『僕は助けてやっただけだ。あの糞どもから。』
そう言ってビリーヴはギャネックに堪える。
「うちの子と遊んでくれて、ありがとう。私はインディラ。第12回。で、こっちがタマル。第13階。」
肩にビリーヴを乗せた女性はインディラと名乗り、隣に居る女性をタマルであると紹介した。タマルも名前を呼ばれてペコリと頭を下げた。
「それより、ギャネック。時間が来ている。戻ろう。」
「そうね。そうしましょう。ではお嬢様方。縁があればまた。ごきげんよう。」
ギャネックはそう言って二人女性と一匹の銀色の猫を連れ添い去って行った。
その動きに見惚れていたブラック・デストロイヤーの面々が、静かに見守っていた近所の人々が出てきて我に返り、自分たちの家が粉々に無くなっているのを見て途方にくれる。
「「「これ、どうすんの?!」」」
その叫び声が、街中に響き渡るのだった。




