300 夜は続く。
「ふん。獣の分際で俺達に楯突くのか?」
『何か勘違いしているんじゃないか?我の獲物を置いていけと言っている。誰もお前たちの事などどうでも良い。他は好きにしろ。だが、我の獲物を横取りするな。』
「ちっ!今は騒ぎになる訳にはいかん。降ろせ。」
「ほらよ。獣が人の女に興味を持つとわね?くっくっく。」
『・・・。』
銀色の猫はそれに言い返す事はせず、ただフードを被っている者達を睨みつけているだけで動かない。更に煽ろうとする者を他の者が制しフードを被った者達は風の様に消え去った。
◇◇◇◆◇◇◇
少しして、ペニーがいち早く目を覚ました。
「えっと?痛い!」
後頭部を殴られた時に出来たのかコブが出来ており、そこが痛んだ。
だが、目の前には銀色の猫が自分を見ている事に気がつき身構える。
「!」
『気がついたか?まったく情けない者どもめ。これに懲りたらもう夜道を歩きまわるのは止める事だな。』
「アンタがしたんじゃない?」
『我が後ろから殴りつけるような無粋な真似をすると思うとは、全くもって救いようのない奴だ。』
「じゃあ誰が?」
『我がお前に話す義理はない。そんな事よりお前の仲間を助けなくて良いのか?』
「あっ!」
漸く近くに倒れているウジェニーとロマニーの事を思い出したペニーは慌ててそばに居る二人に回復魔法をかける。
「うっ。う~ん。」
ウジェニーが先に気づいた。
「ウジェニー大丈夫?」
「う、うん。全身が痛ぇ。ペニーは大丈夫なのか?」
「大丈夫よ。」
「あの猫は?」
「そこに居るわよ?あれ?居ない?」
先ほどまでいたハズの場所にあの猫は居なかった。
「い、痛い。」
そこでロマニーが気づいた。
「ロマニー、大丈夫か?」
「う~ん。頭がボーっとするわ。でも大丈夫よ。」
ペニーとウジェニーはロマニーの言葉で安堵した。
「とにかく、今日は家に戻りましょう?」
「そうだな。」
「わかったわ。」
三人は家路につく。
その間は互いに体を支えながら、なるべく大きな道を通って帰った。
支えあってはいるが無口になる三人。
家についた後、一番最初に口を開いたのはウジェニーだった。
「やられたな。」
「そうね。圧倒的な力の差だったわ。」
「・・・」
円卓の前に座る三人は黙り込んでしまう。
少なくともAランクパーティーとして名前が売れて来ていて、自身もあったのだが、それを粉々に砕かれてしまったのだ。あの猫に。
少しの沈黙の後に、突然ウジェニーが笑い出した。
「あははははは。」
「どうしたの?」
「どうしたもこうしたも、アタシ達ブラック・デストロイヤーとまで呼ばれる三人がたった一匹の猫にヤラレタんだ。これが笑い話じゃなくて何なんだ?」
自嘲気味なウジェニーの発言にペニーは答える。
「私達はまだまだっていうだけの話よ。」
「そうね。どんな相手であっても何とか今回も生きて戻って来れた訳だから、良しとしましょう?」
「そうだな。」
自嘲的な笑いを止めたウジェニーも同意した。
「まだまだって事で頑張りましょうよ?ねっ?」
「うん。」
「ああ。」
ペニーにウジェニーとロマニーは笑顔で答える。
明日への道が途絶えなかった事を喜ぼう。そう三人は思った。
その時、フッと風が部屋に入って来たかと思うと、部屋の明かりが消えてしまった。
「二人とも、気をつけろ!」
ウジェニーは一気に立上り、剣を抜く。
ロマニーは無詠唱で魔法の光を灯す。
ペニーは防御魔法を展開する。
「くっくっく。やはり獣だからかこんな上玉を放置して生かしてやるとはな。」
「誰だ!」
「あの獣と遊んでいる所に通りすがった者だよ。」
意味深な、そして不愉快な声に三人は警戒心を最高まで高めた。
普通の者ではない。そう心が警告するのだ。
「さぁ、今度は俺と遊ぼうじゃないか?さっきは俺の部下が頭を殴って悪かったな?ペニー。」
その言葉を言われたペニーは体中に悪寒が走り鳥肌が立つ。
「じゃあ、その場所に猫以外の者が居たって事か?」
「気づかないとはな。本当にAランクパーティーかよ。やっぱ、女は男の下で喘ぐしか能がないようだな。」
「「「何!」」」
女だからと侮辱するだけならまだしも、喘ぐだけ。男を喜ばすしか能が無い。そう言われた三人は激昂した。激昂する事で、ようやく気持ち悪さから解放されたのは皮肉なものだ。
「ふざけんじゃないわよ!!」
その中でも一番、激昂したのはペニーだった。
「駄目よ?ここは!」
「そうだ。ここじゃダメだ!!」
そのペニーの様子を見たロマニーとウジェニーは慌てて、ペニーを宥めだす。
「なんだ?本当の事を言われてムカついたのか?ほら、俺と遊ぼうじゃないか?ニッシッシ。」
「もう無理。我慢の限界!」
「ねっ?そう言わずにねっ?」
「そうだ。ペニー。こんな奴は気にするな。アンタもさっさと帰ってくれ。」
「おいおい。そんなつれない事言うなよ~。ちゃんと三人とも可愛がってやるよ。」
「良いから、出ていけ!」
ウジェニーの剣幕は鋭く侵入者を射抜く。が堪えた様子は無い。
「どいて!」
ウジェニーとロマニーを押しのけたペニーは男の前に仁王立ちになる。
「アンタみたいな男が、私は一番嫌いなのよね!」
ペニーはそう言うと唇を噛み血を流す。
「アンタみたいな男は死ねばいい!」
ペニーは体中から煙を噴き上げたのだった。




