292 嘘つきは針千本ではなく石化する?
空中に浮かび上がった契約書。その最後に契約者となる者の名前、僕を筆頭にブライトさん達の名前が浮かび上がってくる。
「では、これに、各々の血を垂らしなさい。」
これはもしや血判というヤツではないかな?って僕が思っていると、ラムザさんが一番初めに血を垂らした。するとそれは直ぐに変化してラムザさんの名前の文字に変化し、文章の名前の箇所とリンクする。次は僕、その次はブライトさんと順番に血を垂らしていく。その全てが各々の文字にリンクしていった。だが、一人ラコックさんだけはリンクしなかった。
「なっ?何故俺だけ?」
「偽名を使っておるからじゃろう。」
ラコックさんの疑問に対して即答で返すギンチヨ様。
その瞬間にラコックさんは固まってしまった。そう石にされてしまったかの様に動かなくなる。
「なっ?!」
「契約の神の前で嘘はイカンな。」
誰も何も言えなかった。
「すべての事が終わるまで、その者はそのままだ。安心しろ、私の屋敷で厳重に預かろう。」
ザバルティさんの発言で少し、安堵した空気になった。
「では、契約の成立として良いな?」
ギンチヨ様の問いかけに誰も反対しなかった。
「よかろう。では契約成立だ。」
ギンチヨ様の契約締結の宣誓と共にギンチヨ様の横から光が放たれ、各々に向かって注がれたその光は各々の左手の甲に向かっており、さらにその甲には紋様が浮かび上がっていた。
「それが、証となる。その者が契約に違う行為をしたらその者の甲にその紋様が浮かび上がり、その者は石と化す。」
ギンチヨ様の発言に僕は身が引き締まる気がした。
「では、これで完了だ。では、私の屋敷に移動しよう。」
ザバルティさんの申し出に皆は賛成してゾロゾロと行動する。
「はて?こんな通路あったかしら?」
「あぁ、そういえば言ってなかったな。この先に通路があるんだ。最初の秘密だな。」
ラムザさんはそう言った後、ザバルティさんの顔を見て笑う。
そして、ある扉の前に止まり案内するようにザバルティさんが入っていくとその先は白い空間になっていた。
「先ほどの空間と同じ様な?」
「まぁな。」
その部屋にはダークエルフと思われる人が居た。
その中の一人がスッと前に出てくる。
「初めまして、ザバルティ様よりゲートの守護を任されております。ブリエンド・セリンエンデスと申します。宜しくお願い致します。」
「この者達も今日から仲間となる。頼むよ。」
「かしこまりました。」
ゲート?あれ?ただ、通路が繋がっているだけかと思っていたんだけど?
「煉?これはどういう事じゃ?」
ブライトさんが僕に聞いてくるけど、僕だって?あれ?
「まぁ、言ってもわからんだろ?とにかくついて来い。」
そうラムザさんに言われて黙るブライトさん。
恐々とゲートと呼ばれる扉を通るとその先にもダークエルフが三名と、白い部屋だった。
そう、あの食堂に行く時や、訓練場に行く時と同じ。あれ?
そのまま、案内されるかのようにガラス窓がある通路まで来た所で異変が起こる。
「うそ?」
「まさか?」
「ほげぇー?」
「神の御業。」
「・・・夢?」
「もんげぇー!?」
皆が驚いている。
「どうしたんですか?」
「おい。わからんのか?」
「へっ?」
「ここを何処だと思っておる?」
「えっ?ザバルティさんの屋敷じゃないんですか?」
「くっくっく。そうか、この街並みを見てもわからないんだな?そうかそうか。」
何故かラムザさんは笑っているし、ブライトさんは唖然としている。
「煉。ここはな、先ほど居た都市国家スパルタじゃないんじゃ。」
「はい?」
「ここはね。アスワン王国の王都。つまりカーリアン帝国と同じ大陸になるのよ?」
「はぁ。はぁ?!」
同じ大陸では無く、別の大陸にある街ってこと?僕は堪らずザバルティさんを見た。
「気づいてなかったのか?」
僕は激しく上下に頭を動かす。
「くっくっく。何度も来ていても不思議だと思わなかったんだな。くっくっく。」
ラムザさんは腹を抱えて笑っている。
「まぁ、仕方がないよ。煉君は王都テーストに来た事ないし、あのゲートって言うのが規格外すぎて違和感なかったしね。」
僕は正直、秘密のルートを通って、屋敷と屋敷を動いているとしか考えていなかったけど、国どころか大陸を越えた所と行き来していたとは考えもしなかった。
「まぁ、そういう事だ。秘密で頼む。」
「わかりました。」
「了解。」
「かしこまりました。」
「OKです。」
各々がそれぞれの言葉で返事を返した。
「とにかく、食堂に行って食事にしよう。」
そうして僕等は食堂に入った。
本日の食事は【刺身の盛り合わせだった。しかも大根のけんもちゃんとついていたし大葉もついていた。やっぱりこの食堂のシェフは只者ではないと思うんだよなぁ。
そして思い思いの感想をこぼす食事をした。
「こんな事、言えないよね?」
「あぁ、もし言ったとしても信じてもらえないだろうな。」
「流石、神の使徒様ですね。」
「確かにな。だがそれでも凄すぎるだろ?」
こそこそと本人たちは話しているつもりだろうが、ザバルティさんには絶対聞えている。だってそういう人なんだから。
で、その後は部屋を用意してもらって泊まる事になった。
その為に屋敷の中を少し案内してもらっていたけど、風呂やシャワー室等の設備に驚きと感嘆を漏らしていた。とくに、ブライトさんは構造が気になったらしく色々と聞いていた。そこで、世界的に有名なダンバル一家が、実はザバルティさんに師事しており、更に【建築神】である事を知り、その話の流れでザバルティさんが僕の胴丸鎧・卑弥呼を作製された事を知りザバルティさんに前のめりになり師事してもらえるように一生懸命に頼んでいたのが最も記憶に残った出来事だった。
たぶん、ブライトさんはザバルティさんの元から離れなくなるのではないか?と僕は思っている。
類は友を呼ぶってやつだと思う。




