29 貯蓄と優しさ
アーダム大陸北部は三つの国が横並びにある。アーダム北部の覇権を争いあっている三国は西からリーズン帝国・オートリア国・ボンドー国だ。現在、リーズン帝国とオートリ国の間で戦争となっており、五年の月日が経っている。その三国のうち戦争状態になっていないボンドー国の国都であるエウレイアの一室で、話込んでいる男と女が居る。
男は人族であり、30代後半に見える男。もう一人はハーフエルフの女。二人揃って外を歩けば、美男美女カップルとみられ、羨望の眼差しを受ける事は必須である。
「エリザ。ようやく目標資金が貯まったぞ。」
「やりましたね。これで第一目標は達成ですね。」
≪愚かな人族にしてはよくやった。まぁ、ほぼ私のおかげだがな。≫
自信たっぷりに声を出す絶世の美女の姿をした赤髪の精霊。
「そうですよ。精霊フェニックスの眷属火山のペレ様のおかげです。」
≪そうであろう。そうであろう。流石はエリザ。よくわかっておる。≫
「ペレ様のおかげで、資金も貯まりましたし、私の精霊も成長しました。」
≪そうじゃの、精霊としては凄い勢いでの成長じゃ。のぅユートゥルナ。≫
≪あ、ありがとう。ペレしゃま。≫
ユートゥルナとは水の精霊ケルピーが眷属泉のユートゥルナ。まだ自我が目覚めたばかりで、言葉を覚えたての為に上手には話せないが、成長著しい。普通精霊は人間の世界で10年でようやく1年ぐらいの感覚である。その為に、自我が目覚める程の成長はとても凄い事なのである。見た目は子供の恰好をした女の子。青い髪をしたかわいらしい幼女。もちろん、普通の人間では見たり話をしたりは出来ない。
≪で、次の目標は何じゃ?≫
「次は、この資金を元に仲間を増やそうと思う。手段としては、この国でも迫害の対象となっている各ハーフの者を集めようと思う。奴隷を購入したり、組織を立ち上げして仲間にしたりだな?」
「では、遂にクラウンの設立ですか?」
「いや、まだそこまでは考えていない。クラウンを立ち上げると動きに制限が出るから難しい面もあるから。」
「そ、そうですよね。」
残念そうにするエリザに答える男。
「まぁ、とにかく人数が必要なのは変わらない。先ずは奴隷商に行ってみるよ。」
「わかりました。お供します。」
「いや、エリザには他にやってもらいたい事があるんだ。物件を探して欲しい。それこそ、クラウンの拠点レベルの物で住める場所にもなっていて、商売が出来る地域だと尚良い。」
「わかりました。では私は不動産をあたってみます。でしたら、ここを手に入れた時の不動産に先ずは行ってみますね。」
「あぁ、そうしてくれ。では、早速、俺は出る。緊急の案件が出来たら、すぐに連絡してくれ。」
「わかりました。精霊同士の念話ですね。」
「そうだ。本当にユートゥルナの成長は助かるな。では行ってくる。」
「はい。いってらっしゃいませ。」
男は家を出て、商店街の裏手にある奴隷商人の店が並ぶ所へと向かった。
このボンドー国は連合国家でもある。周辺の都市国家が集まって出来た国であり、民主制度が採られている国でもある。ただ、純粋な単一民族ではない為、働き手を外国から奴隷として集めている国でもあり、奴隷制度を公認している国なのだ。奴隷は所有物扱いである。その為に人権は無いといっても過言ではない。しかし、同じ人族を奴隷には拒否感が今のボンドーの国家元首にはあるようで、人族以外のハーフや獣人など多く居る。ある意味で人族以外にとっては一番差別を受ける国であり、動きやすい国であるのだ。その矛盾を抱えているボンドー国は現在休戦せざるを得ない国内情勢なのだ。
商店街の裏に入った。この街一番と名高い奴隷商のザンギスの奴隷館へ向かった。
街一番というだけあって、とても大きい館だ。
≪愚かな人間よ。お主はエリザに優しいのぉ。エリザに奴隷となっている同胞を見せまいとしての今回の行動であろう?≫
男は黙ってはいるが、顔を背ける事が、答えを言っているのと同じだった。
≪本当に人族は変わっておる。迫害する者も居れば、それを助けようとする者もおる。≫
「けっ。当たり前だ。人間を何だと思ってるんだ。人族で一括りにすんじゃねぇよ。」
如何にも不服であるという態度を採る割には男は悲しい顔をしている。
≪まぁの。精霊にも色々いるように、人間も色々おるのじゃろうが、精霊は競い合う事はあってもお互いに争ったりはせぬよ。人間とはそこが違うのかものぉ。≫
「人間は増え過ぎたんだ。増えすぎた事で上下関係が出来てしまった。人間は生活の豊かさを得て、心の豊かさを捨てたんだ。この国を見てよくわかったよ。」
≪人間の欲は毒だったのかの?≫
「そうだ。毒なんだよ。けどな、毒は上手に使う分には薬になるんだ。人間には理性がある。理性が成長すれば、まだまだ捨てたもんじゃないさ。」
≪かもしれんな。≫
「さぁ、もうすぐだ。当面の生活費を残したら、全ての財を投入するつもりで、奴隷を買い込むぞ。」
男はそう宣言し、街一番の奴隷商ザンギスの館へ入っていくのだった。




