289 思惑はそれぞれに。
「おい、聞いたか?シャルマン商会が今度はカーリアン帝国に新規店舗を構える事にしたみたいだぞ?!」
「何?」
その話を聞いた煉は決心をした顔になると、直ぐにシャルマン商会の会長であるラムザに面会を求めた。
「どうした?急に?」
「僕を今回のシャルマン商会の護衛役にしてください!」
「何処から聞いた?」
「もう噂になってますよ?で、どうなんですか?僕にやらせてくれますか?」
「おいおい。気が早いな。何でやりたいんだ?」
「そりゃあ、カーリアン帝国と聞いて黙ってられませんよ。」
「アリアはそこには居るとは聞いてないが?」
「アリアさんに関係がある場所というだけではダメですか?」
「駄目だな。」
「そんな!」
「もう人員は決まっているんだ。諦めろ!」
「諦めるなんて出来ません!」
トントン。
「ちょっと良いですかのぉ~?」
いいタイミングで、来客がやってきた。
「良いぞ。入れ。」
ラムザの返事を聞いてゾロゾロと入ってくるのはブライト達のパーティーメンバー。
「おいおい。どうした?揃いも揃って?」
「聞いたぞ。カーリアン帝国に新規に店を構えるらしいじゃないか?」
開口一番、口を開いたのは、ミスコンティというグラスランナーだった。
「俺たちに話さないとはどういう事じゃ?」
「俺はお前らが嫌なんじゃないかと思ってだなぁ。」
「外した。」
クリスチーナは続きの言葉を単語で表現し、睨む。
「そうなんだよ。わかるだろ?」
「お気持ちはありがたいのですが、我々がAランクパーティーであり、かの国をよく知っている。因縁があるというのをご存じのはずですが?それでも?」
丁寧な言葉だが、厳しい口調で食らいつくバーナード。
「おいおい。そんなに行きたいのかよ?」
「もちろんです!」
煉が皆を代表するかのように即座に答える。
「仕方がない。そこまで言うなら良いだろう。しかし一つだけ条件がある。」
「何ですか?」
「お前たちは一つのパーティーとして俺のクラウンに入ってもらう。」
「なんじゃ。そんな事か。構わんぞ。」
「甘いな。俺は商売の世界に居るんだ。契約はキッチリとする。基本的にクラウンに参加したら、秘密厳守だ。いつでも退団しても構わないがもし万が一秘密事項を話したら、命で償ってもらう。そういう契約を交わす事になる。エルフの嬢ちゃんならその意味が良く分かるだろ?」
エルフであるクリスチーナは理解したのか、厳しい顔になる。それを見守るかのような面々。
「構いません!僕はそれでも行きたい!」
「わしらもじゃ。皆良いな?」
ブライトがそう言い皆を見回すが誰一人として拒否する者は居なかった。
「決まりじゃな。」
ニカリと笑って煉を見るブライト。
「クックック。面白い奴らだ。良いだろう。覚悟は分かった。しかしな。後二人もちゃんと納得させて連れて来い。そしたら許可しよう。」
そのラムザの言葉を聞いてビックリするバーナード達を他所に煉は直ぐに部屋を出て行った。
「まったく。気が早い奴じゃわい。ミスコンティ。二人を呼んできてくれ。」
「わかったわ。」
「それじゃ、明日の昼にまたここに来い。良いな?」
「「「「わかった。」」」」
「じゃあ話は終わりだ。今からザバルティの所に飯を食いに行くんだが、お前らも来るか?」
「ワシ等は遠慮しておく。」
「そうか?じゃあ、また明日だ。」
そう言って、ラムザはブライト達を置いて部屋を出て行った。
宣言通り、ザバルティの屋敷へとゲートに向かって行った。
「おい。ザバルティに連絡して来い。上手くいったと。」
「はっ!」
ソフランは足早にザバルティへと報告する為に出ていく。
「サフィー。アイツらを確り見守れ。」
「かしこまりました。」
直ぐに出ていくサフィー。
「さぁて、忙しくなるぞ。」
嬉しそうに笑うラムザに、付き従うキャリーとミネアは一緒にザバルティの食堂へと向かう。
食堂の前には椅子が並んでおり、一人のハーフエルフが座って居た。
「エリザ、待たせたか?」
「いいえ。私もさっき来させて頂いた所よ。でも本当に良いのかな?」
「何がだ?」
「人様の家の食堂で食事をとるなんて。」
「大丈夫だ。それにここの食堂は何処の店の料理より美味い。王室でもこの味を食べに毎日くる奴らが居るくらいだからな。」
「えっ?そうなの?」
「どこぞの国の王女達だ。」
「それは婚約者でしょ?」
「そうなんだが、最近はその王家筋の者も来ているらしいぞ?」
「それ本当なの?」
屈託のない笑顔を見せるエリザを優しい目で見ているラムザ。その傍には誰も居ないかのような空間が出来る。
「ラムザ様。ようこそ、お越しくださいました。」
「おぉ、また来たぞ。」
「失礼します。」
「これは、エリザ様ですか?お待ちしておりました。では今日は、こちらへ。」
「なんだ?トーマス?どうした?いつも通り皆と一緒で良いぞ?」
「いえ。今日は主人ザバルティより指示を頂いております。」
そう言うと、食堂の奥に向かうトーマスに不思議がりながらも、付き従う様に案内されるラムザ達。
「???」
「どうかしましたか?ラムザ様。」
「これはゲートでは無いのか?」
「さて?」
とぼけるトーマスはそれでも進んでいく。扉を開けて先に入るとそれに続くラムザ達。
その目前には、高級レストランの様な場所に出る。
「まさか?!」
「どうぞ、こちらです。」
そこには、特別仕様の様子が伺える。
窓際の夜景が見える場所。そしてそこに流れるのは生演奏のクラシック音楽。
窓の外は綺麗な街の明かりが装飾品の様に見える。百万ドルの夜景とはよく言ったものだ。
「きれい。」
「ヤラレタ。」
「本日は特別メニューコースをご用意しております。護衛の方にも席は用意しておりますのでご安心を。ではごゆっくりとお過ごしください。」
笑いを堪えるかのようにトーマスは振り返り去っていく。
残された者達は、エスコートに任せて席に座った。
「ちっ!キザナ事を。」
ボソッとラムザが呟いた事は護衛達が確りと聞いていたが、黙って笑っていた。




