287 暗闇に宿る不思議。
暗闇が世界を支配する時間を人は夜と呼ぶ。
夜は人が生活の活動を止め、身を静めて明日に繋げる時間。
時には未来の為に働く。
時には未来の為に英気を養う。
時には未来の為に子孫を残す。
時には未来の為に快楽を貪る。
そして時には未来を失う時間となる。
男は恐怖の感情を顔に張り付けたまま、身動き一つしない。声を上げる事も出来ない。
目が彷徨う様に辺りを見渡すだけだった。
その目が最後にとらえる事が出来たのは、綺麗に整っていた顔が醜く歪んみ笑顔を作る瞬間だった。
彼のこの日の夜は未来を失う時間となってしまったようだ。
翌朝、一体の死体が町外れに捨てられていたが、この街において死体は当たり前に転がっているので、誰も気にする者が居なかった。更に翌日、その死体が無くなっている事を気にする者も居なかった。動かないものが無くなる事も良くある事だったのだ。
◇◇◇◆◇◇◇
「順調に事は進んでいるか?」
「はぁはぁはぁ。今の所は順調のようですわ。うん♪そんな事より今は私に集中してくださいまし。あっ。あん。」
部屋に響き渡る「パンパンパンパン」というリズミカルな音は淫靡な声を上げる女と激しく動く男によって奏でられている。
「そうか。ならば褒美をやろう。」
「嬉しい。」
女は綺麗な顔をとろけた様にしながら喜ぶ。それを確認した男は更に激しく動くのだった。
その後には女の歓喜の声が部屋中に響き渡ったのだった。
◇◇◇◆◇◇◇
「最近、おかしくないか?」
「何がだ?」
「街の男達が少しづつ居なくなっていると思わないか?」
「そんなのは噂だろ?」
「いや、俺の知り合いのケインというほら、大工がいんだろ?アイツが消えたんだ。」
「はぁ?だったら、大騒ぎになっていてもおかしくねぇだろ?」
「それが、奇妙な所でよ。男だけがいなくなっているっつうんだから、どうせ逃げたりしてんじゃないかって、お上が動かねぇだとよ。アイツの嫁が言ってたんだよ。」
「こえぇ話だな。くわばらくわばら。」
「まぁ、そのおかげで良い思いが出来たんだがな。クックック。」
「あの嫁さんは確か綺麗な若い女じゃなかったっけ?まさかお前?!」
「あぁ、今度お前もどうだ?残った女を面倒見てやる必要があんだろ?それによ。あの女は好きもんだぜ。良い声で鳴きやがんだ。」
「この鬼畜め!俺も絶対まぜろよ?」
「もちろんだ!皆で楽しもうじゃないか!」
汚い顔になって笑う男二人。
その話を聞きたくないのに聞いてしまった女性達3人組は、一目見て冒険者である事がわかる。
「ちっ!この街も気持ち悪い話が起きてるじゃないか?」
「そうね。早く別の国に行く方が良いかも知れないわね。」
「それにしても、腐ってる男が多いわね。」
あえて大きな声で言い放つ女。その声を聴いてビビる男達。
粗暴な感じを纏う女はスタイルが良いと一目でわかる様な格好をしているが、本人にその自覚は無い。
それに絡もうとする男を別の男が止めながら言う。
「あれは、黒ヒョウのウジェニーだ。やめとけ。お前じゃ相手にならん。それにあいつらは噂のAランクパーティーでブラック・デストロイヤーだよ。」
「なっ?スマイル・デストロイヤー?そんななまえじゃねぇよ!」
「よしなさいよ。絡まれたら面倒でしょ?」
ウジェニーが反論し、文句を言いそうになるが、その横に居た女が止めた。
「はなせよ、ロマニー。パーティー名が違うんだぞ?!」
「腹が立つけど、仕方がないでしょ?実際その異名の方が通ってるんだから。ねぇ?ペニー?」
我関せずで放置するかのように一人飲んでいたペニーと呼ばれた女。
「私は関係ない。ブラック・デストロイヤーでもスマイル・ペウロニーでもどっちでも良い。」
「はぁ?あんたの所為でもあるでしょうが!?この黒熊がっ!!」
「はぁ?あんたも同じだろうが!?黒鷲!!」
その収集がつかなくなりそうな様子を見ていた他の客が少しづつ店から離れようとする。
「このサンブラック!!いいかげんにしな!?他の客に迷惑だ!!大人しく飲むか外に出な!!」
「「「すいません!姉さん!!」」」
「だ・か・ら、姉さんじゃねぇ!!」
「「「すいませんでした!!!」」」
その様子を見て周りの客たちは少しづつ席に戻る。
この、姉さんと呼ばれる者はこのブラック・デストロイヤーもといスマイル・ペウロニーを育てた伝説の受付。ミス.ドロンジョ。現在はこの街の冒険者ギルドの副マスターの地位に立っている。本名をドロンジョ・ジェスター。ジェスター王家に連なる血筋の女傑なのだ。
皆が落ち着き席に戻り少しづつ賑やかさを取り戻してきた所を見計らったミス.ドロンジョは、ブラック・デストロイヤーに小声で話しかける。
「それにしても、確かに物騒な街になってしまったもんだ。お前達も気をつけるんだよ?」
色がある女傑にそう言われては、いくらAランクパーティーと言えども、借りてきた猫状態になるのも仕方がない事だろう。少し落ち着いてシュンとしている。
「はぁ、何処かに、W・B・Sみたいな救世主は居ないもんかね?」
「あっ姉さんの憧れた伝説のSランクパーティーですね?」
「だから、姉さんじゃねぇって言ってんだろ?まったく!だけど、確かにあの人達が居ればこんな問題も直ぐに解決だろうね?」
「じゃ、アタシらがやります!!」
「馬鹿言ってんじゃないよ!お前らの手に余る内容さね!馬鹿でも手を出すんじゃないよ?!」
「「「は、はい!」」」
「約束だよ?もうすぐ、私の伝手で凄い奴らがくっから、絶対だめだよ?!」
「わかってますよ~。ねっ?」
「本当だろうね?まぁもう良い。今日はおごりだ。楽しく飲みな!」
「「「あざ~す!!」」」
そして、いつもの酒場の風景に戻って行ったのである。




