282 梅花日記から その2
私は先行してヒミコ様の統括される【和エリア】に戻った。
それからの時間はアッという間に過ぎて行った。
「ヒミコ様、本気ですか!?」
そう、この言葉が表す通りの一大事が起こったのだ。
「我は本気じゃ。」
そう言い放ったヒミコ様の顔は幾年ぶりかに見た清々しい笑顔にだった。
「しかし、我らはどうするのです?」
「今後の事はキヌに任せると言っておる!」
一歩も引く気が無い姿のヒミコ様は、【泰然自若】というスキルが発生しているのではないかと思うほど落ち着き払っている。
これはもう止める事は出来ないだろう。そう私は確信している。
例え、統括神であっても覆す事は出来ないのではないか?と思うのだ。
「ですが、それには手続きが必要なのでは無いのですか?」
「問題ない。もう間もなくこちらに来られるであろう。」
「もしや?あの方がここに来られると言うのですか?」
「そうじゃ。禅譲の未届け人として、統括神様が来られる事になっておる。」
「なっ?!我らに相談も無くですか?」
「何?相談が必要か?」
「い、いえ!すみません!言葉が過ぎました!!」
ジロりとヒミコ様が睨むと咄嗟に謝罪を述べる者。馬鹿の極みだわ。
見てわからないのかしら?キヌ様はもう諦めの境地に達している様で粛々と準備をおこなっているというのに。だから、次期エリア統括に選任されないというのに。
「もう、よい下がれ!」
「はっ!」
頭を下げて下がっていく氏族の者達。
やっぱり馬鹿なのね。自分たちが何故重要視されないのかが、わからないのね。
ある意味で可哀そうな人たちね。少なくとも精霊神になる事は出来ないでしょうね。
精霊は誰でも精霊神になる事が出来る存在だけれども、逆に誰もが精霊神になれないとも言えるの。それが精霊神。可能性がゼロではないけれども、神化するという行為は並大抵の条件ではなれない。しかし、精霊は神様の協力の元で精霊神になれるという存在でもあるの。
神化とは格の進化と、とらえる事が出来るわ。色々な条件を神様の任意により満たされたと認めて頂けるの。とは言え、神様とお話出来るのは、あくまでも神。ここではヒミコ様という精霊神様が唯一神様とお話出来る存在なのよ。つまり、ヒミコ様がお認めになったキヌ様が既に次期精霊神様という事なのよ。
「梅花。もうすぐ統括神様が来られるのじゃ。準備は出来ておるか?」
「はい。ご降臨される場所も用意が出来ております。準備は万端です。」
「うむ。わかった。我は少し休む。」
「かしこまりました。」
「いや、もう来られたようじゃ。急ぎ皆を拝殿に集めるのじゃ!」
「はい!」
私は急ぎ境内を回り皆を拝殿へと集めた。
私が最後の者を拝殿に連れてきた所でヒミコ様が
「皆の者。統括神様がご降臨される。頭を下げよ!」
ヒミコ様の号令により一斉に頭を下げる。
ちなみに統括神とは、精霊界全体を統括されている神様の事だ。エリア統括であるヒミコ様の上位にあたる存在だ。
皆静かに頭を下げ、統括神が本殿にご降臨されるのを待つ。
すると少し経って一気に辺りに気が漂い出す。まさしく、ブワッという音がするかのように神聖な気が本殿から放たれてくる。
「統括神様におかれましては、ご足労頂き、誠にありがとうございます。」
いつにもなく緊張した声をあげるヒミコ様。
「ヒミコよ。そして、皆の者、面を上げよ。」
私もみなと同じように顔を上げる。
御簾が掛けられたその向こうから、感じる気が圧倒的である事はわかるが、その御簾がなければ、動く事も出来ないであろう。御簾とは神様の顔を隠す物ではなく、その力に皆がやられてしまわない様にと配慮されたものなの。だから、私達は安心して顔をあげられるのよ。
「さて、ヒミコよ。そなたの願いは許可が下りておる。」
「はい。ありがとうございます。」
「うむ。しかし、本日の継承の儀は、我では無く、別の方がおこなう事となった。」
「そ、それは?」
前代未聞の事が起こりました。
普通、継承の儀は統括神様が行う事になっており、その方以外の神様が行うと言うのは前例がありません。
「ヒミコもかのお方の名を聞いた事があるのではないかな?」
「もしや?」
「そうだ。最近、創造神の一柱となられた。%&$#&‘’様だ。」
「本当ですか?カエサル様。」
「あぁ、本当だとも。今回の承認には%&$#&‘’様の御威光が強く反映されておるのだから、驚くほどの事ではないであろう。」
えっ?ヒミコ様の禅譲が創造神の一柱である%&$#&‘’様がお認めになった事だって?
前例のない事ではあるけれど、そこまでの事なのだろうか?
神様の中でも創造神として連なる方々は上位中の上位にあたるの。
最高位は始祖神とされている方々とされているのだけど、その方々の直ぐ下というあつかいかしら?でもそんなに高位の神が関わる事なんて普通ないわよ?
あり得ない事だけど、大丈夫なのかしら?
というか、あの御簾だけで私達は大丈夫なのかしら?!
「で、くだんの煉という者もここに連れてくる様にとの仰せだ。」
「わかりました。誰か?直ぐに呼んでくるのじゃ?!」
「はい!」
ついウッカリ私は返事をしてしまったわ。なんて事?!私は煉君を迎えに行く事になってしまったのよ。




