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278 負けるという事。

やはりな。

人間なぞ、そんなものよ。

煉とかいう男の初撃を受けた感想はそれだった。


「つまらんな。」


だが、俺の憤りを晴らしてもらうにはもってこいではあるし、そもそも想定内だ。


目の前の男が俺に対する攻撃は、人の身ではそこそこだろうが、俺との実力差は歴然だ。

武器を用意してやったのだが、何も持ってきていない。素手だ。

格闘なのかと思ったが、どうも熟練の動きでもなければ、スキルを感じさせない動きだ。

あくまでも想像している動きなのだろう。

それでは、俺には一撃ですら与える事は出来ないだろう。

ヒミコが認めた人間と言うから少しは期待したのだが、残念だ。


初撃を躱した後も、飛びのいてから、連続して攻撃してくるが、その全てを俺は反応だけで躱している。

それはそうだ。俺が装備している武器・防具は全て長い間をかけて利用してきた物だ。

その使い方やそれを利用した闘い方は、全て体に染みついている。

精神世界においても、体の自然な反応はする。脳が考えるというより先に脳が反応するのだから、当たり前だ。このスピードには限界が無くなってくるのだから。


今も目の前の男は諦める事無く、俺に攻撃を仕掛けて来ている。

全てを躱されているのにも関わらずだ。そこは称賛するに価するのかもしれないが、果たして俺の攻撃を受けても同じ様に心が折れずにおられるかな?


「ふん!」


目の前の男が回転蹴りを放つのを反応で躱した後に、斧の持ち手の方で腹に一撃を与えると、男はぶっ飛び客席の前の壁にぶつかり止まった。


「・・・。」


言葉なく見下ろしていると、男は立上りリングに戻ってくる。

既に満身創痍な状態になっているであろう事は見てわかる。が、それでも俺に向かって来ようと動き出した。

たった、一撃を与えただけだが、既にその男にとっては致命傷レベルなのだ。

もう勝つ事は出来ないと思うはずなのに、向かってくるのだ。


「まだ、諦めぬか?」


「諦める?」


「そうだ。俺には敵わぬとわかったであろうが?」


「そうですね。厳しいでしょう。」


「なら、降伏したらどうだ?」


「そういう事ですか?僕は諦めませんよ?」


「例え実体が無い精神世界でも死はやってくるのだぞ?」


「わかっています。だけど、僕は諦めるって事だけはしません。闘うと決めた以上、闘い勝つ事を諦めませんよ?」


なんと馬鹿な男だ。

この様な男をヒミコは認めたのか?

身の程を知るというのは大切な事だ。そもそもこの場に居る者でこの男が俺に勝てると思う者などおらんわ。ただの見世物であり、俺の気を紛らわすモノでしかない。

この男だってそれぐらいは、わかっておるはずだ。

なのに、死すらいとわぬだと?馬鹿なのでは無いか?興が冷めたわ!


「ふはははは!馬鹿な男よ。では死ぬが良い!!」


俺は、一撃と言わず数撃、数百撃と目の前の男に喰らわせた。

勿論、手加減などせず殺すつもりで喰らわせた。


「馬鹿な物が居ったモノだ。」


俺はもう終わりだと言わんばかりに、出入り口に振り向き歩き出した。


「つまらん。」


会場は熱狂から一転、静かな空気に包まれている。仕方がないだろう。死んだ者がでたのだから。


「な、何という事でしょう!?煉選手はあの、ロロ様の怒涛の攻撃を受けても立ち上がりました!!」


何?俺は振り向いた。あの男が立ち上がれるハズが無い。あれほどの攻撃を身に喰らっていて死ぬ事はあっても立ち上がる事など、出来るはずも無い!


しかし、アナウンスにあった様に、男は立ち上がっていた。

やっと立っているという様子ではあるが、確かに立ち上がっていた。


「馬鹿な!?」


俺の口からは情けない事にこの言葉が漏れていた。


「まさにあり得ない状況でしょう!ロロ様の攻撃をまともにあれだけ受けていて立ち上がれるハズがありません!そうあり得ないのです!!」


そう、俺の胸の内を代弁するかのようなアナウンスが流れた会場から、少しづつザワツキが生まれだす。


「何なんだ?」

「弱いくせに、倒れない?」

「おぉ~タフガイ!」

「やはり、認められた男は違うのか?」


雑音が混じりだす。

俺は目の前の男から目が離せなくなった。そう、神崎煉とかいう男の眼を覗いた俺は確信した。こいつは、まだ、諦めていない。勝つ心算でいるのだと。


人間風情の男に俺は一瞬だが、恐怖を感じていた。

この弱き男。神崎煉に対して畏怖したのだ。


「あり得ぬ!」


俺は咆哮し、また、神崎煉に対して畏怖した感情を塗りつぶすかのように、神崎煉に対して攻撃した。俺は正常な感情でなくなっていた。


「うぉおぉ!」


神崎煉は俺が攻撃を喰らわす度に、吹っ飛び壁に床にめり込むが、それでも追撃を止めなかった。


「ふぅふぅふぅふぅ。」


これでもかと攻撃を喰らわして一息つき、神崎煉を見る。


「うぅぅ。」


呻き声を上げながらも、起き上がろうとしている。

まだだ、まだなのか?俺は攻撃を再開しようと斧を持ち上げる。


「もう、いい加減にするのじゃ!!」


ふと、声が聞えた方を見るとそこにはヒミコが立っていた。


「もう、良いであろうが?」


俺を問い詰めてくる。


「気が済んだであろうが?」


会場内は騒然としそして静かに成り行きを見守っているようだ。

俺はふと我に返った。そして自分のおこなった事を思い返す。

只のショー。見世物。それにするつもりが、真剣に神崎煉を攻撃していた。

それも、本気で。


「俺の負け・・・だな。」


俺は、自分が負けてしまった事に気づいた。

武での負けではない。格での負けだ。

精霊神とした事が情けない。俺は神崎煉を認めたのだ。


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